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男子◆5 腹黒小学生女子

 男同士で名前なんか訊いてどうすんだろうな。


 かわいい巫女さんに名前を訊きたくなるのならわかるけど。なぜだ? 俺と友達にでもなりたいの?


 まん前にいるのは、オタクのテンプレっぽい男だ。太って脂ぎってるし、眼鏡のレンズも指紋でベタベタ汚れてるし、清潔な感じはしないけど、話してみたらいい奴かもしれません。


 でも、オタクの人と話を合わせられるかな? アニメの『ラバーライブ!』とかアイドルの『BKB』とかも存在は知ってるぐらいで人数すら把握してないし、話せる自信ない。


「えっ、えーっと」


 俺は返事に困った。


 そのときです。


「待って!」


 あれっ?


 今、何か声がしなかったか?


 俺は、声のする方を見た。


 子供だ。長い髪を後ろでひとつに縛った、小学生3~4年くらいの女の子がこっちへ走ってきてる。


 女の子は、白い着物に赤い袴を履いてる。これって、神社の巫女さんスタイル?


 俺がポカーンと見てる間に、その子は俺たちの前まで走ってきた。


 急いで走ってきたみたいで、ぜいぜい息を切らしてる。


「ねえ……今……ささやい……た……の」


 女の子は、ハァハァ言いながら息を整えた。


「ササヤイッターに……巫女さんの写真を載せたの、あなたですよね? うちの神社のタグをつけて」


 女の子が、オタ男にぐいぐい迫ってる。


「私もササヤイッターをやってて、今、フォロー(じん)さんたちが教えてくれたの。京都六条河原神宮のかわいすぎる巫女の写真が、ものすごい勢いで拡散されてるって」


 京都六条河原神宮のかわいすぎる巫女さん。


 それって、ついさっき、オタ男がササヤイッターに写真を載せましたよね。その巫女さんの写真が、あっという間にネットを騒がせたってことか。そりゃそうだな。めちゃくちゃ美形だったし。


「うちの神社の巫女さんのこと、もっと宣伝してもらえませんか?」


 女の子が、上目遣いでオタ男に迫る。


 この子の家は神社で、あの美形巫女さんは、その神社にいるってことか。


「いや、まあwwドプフォww、いいッスよ」


 オタ男、小学生相手にデレてます。


「本当? ありがとう! ちひろ嬉しい」


 女の子が、オタ男の目をじっと見つめて手をキュッと握る。


 この子は、ちひろっていう名前なんだな。


 小学生にして男の扱いをよく知ってます。


 しっかりした子だから、子供っぽい感じで『ちひろちゃん』と呼ぶより、同年代みたいに『ちひろ』って呼び捨ての方がしっくりくるかもしれない。


「じゃあフジワラさん。協力よろしくね。ニャハ☆」


 ちひろが、俺に向かってウインクした。


 あれっ? この子はなぜ俺の名前を知ってる?


 そういえば、見たことある顔だな。どこで会ったんだっけ?


「君はフジワラさんっていうのか。よろしくなwwデュフww」


 オタ男は俺を見てニヤニヤしてる。


 神社の宣伝に協力しろって言われても……俺は関係ないし。子供の頼みごとだからまあちょっとぐらい手伝ってもいいけど、俺は何をしたらいいのかな。


「それで、俺は何」


「あーーーーーーーーっ、聞こえなーい」


 俺が訊こうとしたら、ちひろが急にでかい声で叫んだ。


 ちひろはオタ男の手を放して、俺の方へ近づいてくる。


 ちひろとオタ男はお守り売り場の外にいて、俺だけが中にいるんで、声が聞こえにくかったのかな。


 ちひろは、俺を手招きした。


 俺はお守り売り場の窓口から身を乗り出して、ちひろのそばに顔を寄せる。


「あとでちゃんと説明するから、黙って協力して」


 ちひろは、俺の耳のそばでささやく。


 さっきまで、オタ男とは甘えた感じでかわいくしゃべってたのに、俺に向かってしゃべる声低っ! 本性これか!


「それと、『俺』って言うの禁止。言ったら、姫ちゃんを召還するから」


「ひめちゃん?」


 俺は訊き返す。


「お兄さんさ、コンビニの前でお姫様の着物を着た女の人に襲われて、気絶したでしょ」


 ちひろは、ニヤリと笑う。


 そうだ。オタ男としゃべっててすっかり忘れてた! バイト先のコンビニで、俺は平安時代のお姫様みたいなコスプレしたストーカーにつきまとわれてたんだ。


 つきまとい方がホラー映画っぽくて、トラウマレベルで怖いッスよ。


 そのコスプレストーカーをうちのコンビニまで連れてきたのは、ちひろだったよ……。


「お兄さんが協力してくれないんだったら、姫ちゃん呼んじゃうぞ」


「……それだけは止めてください」

 

 あの人を呼ばれるぐらいだったら、俺は何でも協力します!


「気絶したお兄さんを、パパとママたちと一緒に車でうちの神社まで連れてきたの。そこに布団を敷いて寝かせるの、大変だったんだよ」


 ちひろは、俺の後ろを指さす。


 後ろを見たら、布団が敷かれてる。誰かが起き上がったあとのような感じで、掛け布団がめくれてた。そうか。さっきオタ男に声をかけられて起こされるまで、俺はここに寝てたんだ。


 枕元には、コンビニの制服がきちんと畳まれて『フジワラ』って書かれた名札が置かれてる。それで、ちひろは俺の名前を知ってるのか。


「だから、うちの神社の宣伝ぶちょうになってね。よろぴくぅ☆」


 ちひろは、俺の肩をポンと叩く。


「あっ、ちなみに、姫ちゃんはうちの神社にいるからねっ。今、うちのママがメイクで変身させてるところなの。お兄さんレベルでこんな美女になったんだから、姫ちゃんはすごい美女になってるかな。た・の・し・みだね。ニャハ☆」


 今、ちひろは何て言った?


 お兄さん……美女って、言ったよな?


 俺が美女? 何を言ってんだ。


 俺は呆れて腰に手をやって――


 ――あれ? あれ?


 俺、着物を着てませんか? 白い着物。それと、赤い袴を履いてるんですが。


 これって、巫女服じゃないですか。


 えっ! 何で? 何で?


 びっくりして頭を抱えたら、髪もいつもと違ってめちゃくちゃ長いんですが!


 俺は今、どういう状態になってるの? 


「お兄さん、頑張ってかわいい女の子のフリしてね。男だってバレたら、姫ちゃんにシメてもらうから」


 ちひろはそれだけ言うと、オタ男のところへ戻る。


 ……まさか、ササヤイッターで話題になったかわいすぎる巫女って、女装した俺なのか?

 フジワラくんが、自分が男の娘になってることにようやく気づきました。


 小学生の女の子が腹黒な行動をするのは、性格が悪いのじゃなく、ちゃんと訳があります。理由はこれからぼちぼちと明かしていきますので、お楽しみに!


【お礼とお詫び】


 更新が止まっている間に、レビューをいただいたり、たくさんのアクセス、ブックマークをありがとうございました。本当に嬉しかったです。


 そのあとすぐに更新できなかったせいで、ご期待に添えなかった方、申し訳ありません。


 家族に迷惑をかけないよう、自分の趣味はついつい後回しにしてしまうのですが、この作品を楽しみにしてくださっている方もいらっしゃると実感できたので、書く時間を増やすように頑張ってみます。

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