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第九話:意図せぬ出会い。

 俺は散らばった紙を拾い上げる髪の短く大きな眼鏡をかけ、それに負けないぐらい大きな胸の少女を見た。


 彼女はひとりぼっちで紙を拾い上げている。


 まわりの人は助けない。


 やれやれ、しょうがないな……俺は溜息を短くついたあと


「大丈夫? 」


 と声をかける。


(やっさしー)


 一二三が俺の脳内に直接声をかける。


(うっせ)


 俺が脳内でそう返したのと同時ぐらいに


「ふ、ひひひ。ありがとう」


 気持ち悪い笑い声を上げながら、彼女はお礼を言った。


 気持ちの悪い奴だな……。俺はそう思いながら彼女を手伝う。


 そうして無言で紙を拾い上げ、全て集めた後。


「じゃあな」


 俺はそう言って少女と別れた。


 彼女が高揚した薄気味悪い笑みを浮かべていることを俺はこのとき気づいていなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 短い髪と大きなメガネが特徴的な少女、唯人が紙拾いを手伝ってあげた少女、名前は神名丘かんなおか 美咲みさき


 美咲は大きな家の大きな門をくぐる。


 美咲の実家、神名丘は世界的な財閥であり、世界で五本の指に入るほどのお金持ちだ。


 そして美咲はその神名丘の総帥の妾の子にあたる。


 財閥総帥の妾の子、響きだけなら悲劇的に見えるが、実際に美咲が置かれている境遇は天に選ばれたかのごとく恵まれたものだった。


 妾とは言え神名丘名を持つ者、その自由に使える財力はそこらの資産家を遥かに超え、権力はそこらの政治家なら頭が上がらないぐらいだ。そして妾の子であるがゆえに責任や使命は無い。相当おいしい思いをできる立場にある。


 そんな彼女は自身が血族よりも信頼する侍女、巫山みやま 月子つきこに制服のブレザーを渡しながら


「ねぇ、月子……私好きな人ができちゃった」


 美咲は笑みを浮かべながらそう言って、スマートフォンをいじると。


 質素だが丁寧な装飾が施されたプリンターから写真が出てくる。


 写真には屈みながら紙を拾う、背丈が少し高い少年……宮上みやうえ 唯人ゆいとが写っていた。


「わかりました、彼の素性を調べ上げてきます」


 月子は凛とした声でそう言うと、その場でスマートフォンを素早く操作しどこかにメールを送った。


「明日には彼の素性が明らかになるでしょう」


 月子がそう言うと


「ふふ……待っていてね」


 美咲は不気味だが妖艶な笑みを浮かべていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ブルッ! この俺、宮上みやうえ 唯人ゆいとの全身に悪寒が走る。


 まぁそんなことはどうでもよく俺は今、ジャンクフードの店で晩飯を食べようと思っている。たまには外食したいのだ。


「いや~私も家事しなくて楽でいいわ」


 俺の隣を一二三が歩く。


 一二三は今、実体化した状態だ。


「いや、お前の分はないぞ」


 俺は金がもったいないので、一二三に食わせる気はない。


「いや、お金の心配はしなくていいよ。」


 一二三はそう言って一万円札を見せる。


「あれ? そういえば俺の生活費ってどこから出てくるんだ? 」


 俺は今まで何気なく使っていた出処不明の資金について疑問を口にすると。


「それも私の収入」


 一二三はそう言った。


「お前が働いているところなんて見たことないぞ」


 一二三は四六時中俺と一緒におり、収入を得つるような行動は何一つ無かったはずである。


「言って無かった? 唯人の両親は海外にいるっていう設定にしてあるから」


 一二三が衝撃的なことを言う。


「え……マジ? 」


 俺は目を大きくする。


「まあね……、あ! でも、最低限のお金しかあげないから」


 一二三が釘を刺すそうにそう言う


「わかっているって」


 俺は一二三がそこまで甘くないこと学んだので、そう言っておく。


「というか俺とお前って書類上はどんな関係なんだ? 」


 俺はまた気にになった事を聞くと。


「うん、親戚のお姉ちゃんて言う設定だよ、だからお姉ちゃんって読んでね」


 一二三はウインクしながら、そう言う


「キモイから言わない」


 俺がはっきりとそう言うと


「えー、ひどいなー」


 一二三はあまり気にしてない様子でそう言う。


「そんなことより、見えたぞ」


 そうこう言っているうちに目的の店、ボスバーガーの看板が見えた。


「何食べる? 」


 一二三がそう聞いてくるので


「海老カツバーガー1個とチキンナゲット1個とメロンソーダM1個、一二三が頼んどけよ、俺が席とっとくから」


 俺がそう返すと


「うわ、押し付けられるぐらいなら言わなきゃ良かった」


 一二三の落胆をよそに俺は店内に入り、空いている席を探していると。


 女神がいた。


 俺は一瞬迷うも、声を掛けることにした。


「よっ、一人」


 俺はゼリョンヌィ あきらにそう言う


「あ……確か……宮上? 」


 玲は少し驚いた顔になる


「そうそう宮上、あ、いきなり馴れ馴れしすぎたかな」


 俺は一応、気を使ってそう言うと


「いや、別に……」


 玲は時に迷惑そうな様子は無かった。


「ゼ……ゼ……ぜリョ……」


 ゼリョンヌィとなかなか言えない俺に


「玲でいいよ」


 と玲は言った


「じゃあ、遠慮なく玲さん、席ご一緒してもいいかな」


 と聞くと


「うん、一人で暇だったし、いいよ」


 玲は相席を承諾した。


「おまたせ~、お! 女子! 唯人も隅に置けないね~」


 一二三は彼女の事を知っているが、あえて知らないように振舞う。


「そうだな」


 俺は一二三のことなど相手にしない。今は玲に夢中なのだ。


「彼女? 」


 玲は何とも言えない顔をしてそう言うと


「いや、親戚」


 俺が誤解の無いようにそう言う。


「そう、いとこにあたるかな」


 一二三も俺に続けてそう言った。


「そう」


 玲はただそう言って小さく頷く。


「と言うより玲さんもこういう所来るの? 以外だな~」


 この店は正直、玲のイメージには合わないので、なんとなく聞いてみると。


「そこそこ安いし、そこそこ美味しいから、ここは気に入っている」


 玲は、相変わらず抑揚の乏しい声でそう言う。


「だよね、ここは結構安い割に、意外にうまいからな」

 

 玲との意外な共通点に俺は少し嬉しさのの様なものを感じていると。


 アナウンスで3番を呼ぶ声が聞こえた。


「あ、私のだ」


 玲はそう言って席を立つと。


「唯人は以外にコミュ力あるな」


 一二三が失礼にも驚いた顔をしている。


「そうか? 」


 正直、俺は多少気取っていたが、自然体のつもりで話していた。


「そうか……まぁいいや」


 一二三は適当に流してしまった。俺としても特にどうでもいい話題なので流す。


「何話していたの? 」


 玲がバーガーの包み一つと小さいコップ一つのお盆を持って席に座りながらそう言うと


「いや、何でもない」


 俺はとりあえずそう言っておくと


「そう」


 玲は特に深追いせずバーガーの包みを開ける。


「テリヤキバーガー? 」


 俺は独特の光沢のある、ハンバーガーを見てそう言うと


「そうだけど」


 玲はそう言って、カブリつく。豪快でも上品でもない普通のカブリつきだった。 


 俺はただ玲がハンバーガーを食べる様子を眺める。アニメなんかでは女の子が物を食べている姿をやたら色っぽくする描写を、俺は人の欲深きカルマを見るようであまり好きではなかったが、こうして見ると中々におつなものに見えた。


 そうこうして玲が食べ終わった頃に俺たちの札の番号である4を呼ぶ声が聞こえた。


「じゃあ、行ってくる」


 一二三が取りに行った。


「じゃあね」


 玲はそう言って席を立つ。


 俺は正直、呼び止めたかったがそれは流石に気色悪い男なので


「夜は暗いから気を付けろ」


 そう言うと


「大丈夫」


 玲はそのままお盆を持ちゴミを捨て、店を出た。


 その後すぐに


「おまたせ~、あれ? 帰ったの」


 一二三はそう言ったあと


「ダメだな~、狙った獲物を逃しちゃ~、こういう時はガンガン行くものなんだよ」


 一二三がなんか言ってきたので


「今は時じゃない」


 俺がそう返すと


「やれやれ」


 一二三はそう言ってお盆を起き席に座った。


 そうこうして、俺の晩餐ばんさんは終わった。


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