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第一話:灰色の背景にかかる虹色の橋

 俺の名前は、宮上みやうえ 唯人ゆいとどこにでもいる普通の高校生になれなかった不登校児さ。


「さぁ! 青春しよう! 」


 俺にそう言って手を差し伸べる、黒髪でセーラー服を着た大和撫子美少女は、俺のまったくもって全然知らない奴だ。


 彼女は、俺が一昨日レンタルショップTATUYUから借りてきたアニメを見るため、DVDの袋を覗いた瞬間、急にテレビ、パソコン、ゲーム機とともに部屋を照らす蛍光灯が激しく光り、現れたのだ。


「あの~どちささまで? 」


 人というものはあまりに唐突に、あまりに超常的な出来事が起きると恐怖や驚きがかえってなくなるものなんだな、なんてことを思いながら、このイカレタ女に聞いてみる。


「はい! 私は『青春神』藤峰ふじみね 一二三ひふみだよ! 灰色どころか泥色どろいろの青春を送っている唯人を楽しい、楽しい、青春生活を送らせるために、さんじました! 」


 一二三はそう言って、無いと言うほどではないが、大きいとは言い難い、慎ましい胸を張る。


「あっそ、で? いつ帰ってくれるの? 」


 青春などに興味のない俺にとって、この女のほざく戯言ざれごとなど聞くに足りるものでも、堪えるものでもない。ぶっちゃっけ早く帰ってほしいし夢なら覚めて欲しい。


「冷た! いや、なんかもっとね「青春、やってみたいぜ!」とか「青春か……」とかなんか良い感じの反応ないの!? 」


 一二三は力説する。


「無い、そんなものは無い、ある訳無いだろう」


 俺はきっぱり言う。


「え~、ずっとこんなのでいいの? アニメ見て、ゲームして、インターネット見て、オナニーして、寝る、そんな生活寂しくないの」


 一二三は食い下がる。


「寂しくない、というか、しつこい」


 若干ウザくなって来た俺は出る言葉にもついトゲが増えていく。


「仲間と一致団結して勝利を目指したり、みんなとワイワイとやったり、友達と思い出作ったり、甘酸っぱい恋したり、楽しいよ~、青春、楽しいよ~」

 

 一二三はグイグイ来る。


 ウッゼェェェェェェェェ!!!! マジウザイ、やばいぐらいウザイ、ウザイなんてレベルじゃないぐらいウザイ、とにかくウザイ、半端じゃなくウザイ、なにこいつ俺を不愉快にするために来たの、マジで? 俺の心のマグマは口から大噴火、思い知れ! 俺の怒りを! 

 

「あ~! ハイハイハイ! もうわかった、マジでわかったから、わかったわかった! 青春したいです~! これで満足だろ? なら帰ってくれ、マジで帰ってくれ! 」


 俺がまくし立てるようにそう言うと。


「もぉ~! 心がこもってない! こうなったら力技だ! 」


 一二三は女とは思えない怪力で、俺を抱えると、変な穴に飛び込んだ。


「あああああああああ!!!!!! 」


 俺の意識は途絶えた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ここは……? 」


 俺の前には見慣れた、いやかつては見慣れたものだが、今は物珍しい物があった。


「なぜ、教室の扉が? 」


 そう俺の目に前には俺が一年(正確には3日)だけ通っていた高校の、そして一年生の時の教室の小汚い木製の扉があった。


「今日から唯人の通う学校の、そして今日からこの扉の先の教室が唯人のクラスだからだよ、そしてこの扉の先に唯人の青春ライフが待っています! 」


 一二三の声が聞こえる。


「そうか……」


 俺はそのまま教室から離れ、学校から出る出口を探す。


「おい! なんで帰るの? 今教室の中では転校生の登場にワクワクなんだよ! それを裏切るの?! 」


 一二三は言う


「いや、もう帰りたいし」


 俺は一二三なんて見ずにそう言う、クラスの連中のワクワクなぞ、どうでもいいのだ。


「はぁ、建物の配置とかは君が住んでる世界と同じだから、記憶どうりの道で帰れるよ」


 一二三は諦めたようにそう言う。


「世界……ここは異世界なのか? 」


 俺は一二三にそう聞く。


「そう、ここは唯人に青春を楽しんでもらうために、用意した異世界……でも家に帰りたいなら無理強いはしないよ、あくまで自発的にやらないと意味ないからね」


 一二三はそう言って笑う。


 俺は無言で歩く。


 校舎を出てしばらく歩くと、駅についた。


「金は? 」


 ただでは電車に乗れない、俺は一二三にお金がないかと聞くと。


「尻ポケットに定期券があるよ」


 俺は一二三の言葉を聞き、尻ポケットから定期券を出し、自動改札を通る。


 そしてしばらく待ち、不快なほど大きな音をまきちらしながら来た電車に俺は乗る。


 ガタンゴトン、久しぶり感じる電車のどこか心地いい揺れにその身を任せながら、俺は考える。


 一二三、この意味不明な女、しかし不思議と嫌な感じや怖い感じはしない、いやむしろ生まれた時から見守ってくれていたような、そうまるで母親の様な感じがする。


 正直、意味不明ではあるが一二三という名前の少女を俺は受け入れていしまっていた。


 そんなことを考えていると、電車の独特の滑舌のアナウンスが、俺の降りる駅の名前を告げた。


 駅の近くと言う良条件の土地に建てられた、我が家に向かう。


 しかし


 無かった。


 我が家があるはずの土地には無造作に生えた雑草と、山の形に積まれた3本の土管だけだった。


「間違えたのか? 」


 俺は歩き回る。


 しかし俺の家らしきものはない。


 また、本来なら俺の家が現実には土管がある土地に戻る。


「クッソ! どういう事だ! 」


 俺は一二三を睨みつける。


「どういうも、なんも、あれが唯人の家よ」


 一二三は土管を指でさす、ニヤケた顔で。


「はぁ!? あそこに住めってか!? ア゛!? ふざけんじゃねえぞ!! 」


 俺は怒気ふくめ声を荒げる。


「あ、ついでにご飯はこれだから」


 一二三はパンの耳がたくさん詰まった袋を差し出す。


「クソッ! なめんなよ! 」


 俺は走る、交番に行って我が家がある住所を探してもらうのだ。


 俺は走る。汗をかき、息を切らして。


「おまわりさん! 」


 俺は自分の知る全てで警察官から家の場所を聴いたが、しかしいつ付く先は全て土管だった。


 市役所にも相談したが、不思議な力が働いたように取り合ってくれない。


 あらゆる手を尽くしても、俺の家は土管であると言う事実がハッキリするだけであった。


「どうなってんだ……」


 俺がうなだれていると


「唯人、君には二つの選択肢がある、一つはずっと土管の中でパンの耳を食べて過ごすこと、そして二つ目は青春ポイントを手にれるために教室の中に入ることだ」


 一二三は語りかける。


「青春ポイント? 」


 俺は聞いたこともない言葉に首を傾げることしかできない。


「簡単さ、青春的なことをすると、青春ポイントが加算される、そして青春ポイントがあればあるほど君の生活は豊かになる……青春したいかい? 」


 一二三は輝く笑顔、しかし底意地の悪さが隠しきれていない笑顔で、そう語る。


 俺の目が、口が、手が、足が、心臓が、全身が震える。あの忌々(いまいま)しい学校に行かねば、浮浪者同然の生活を強いられる……!


「クッッッッソォォォォォォォォォ!!!!!!! 」


 俺は雄叫びをあげる。世界を震わさんばかり大声で。


「やってやるぜ青春!! 」


 もう、こうなったらヤケだ。俺は叫ぶそうに言う。


「よく言ったね! 」


 一二三がニヤリと嬉しそうに笑い、指を鳴らすと、あの教室の扉の前に俺は立っていた。


 やってやるぜ、ああ、やってやるぜ! 待っていろよ青春!


 俺は教室の扉に手をかける。


 今この瞬間から俺は住処と食事、その他もろもろ豊かな極楽生活のために……戦うッ!!

  

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