さよなら、今日。きっと会おう明日。
部活の後、体育館を覗いて帰る。私は、体育館、側面の引き扉に向かい合うと力を込めて引いてしまう。軽い熱気。室内灯がニスの塗られた頑丈な板に向かって照りかえっているのを見ると、何だか不思議な感じがする。屋内一円を見回すと、先生たちが散ってしまった後に始まる用具の整理に駆け回ることも終わってしまって、くったりとした時間を過ごしている洋子と里美を見つけることができる。お互いに。声をかけたり、かけられたり。
「要。要。里美がさ」
「あ。要。洋子ね。こう、ジャンプしてさ」
「そうなんだけどね」
夕暮れて、時は立って。
十分なんてもう費やせない、かな。
「じゃね」
「じゃ」
「それじゃあ」
雨、のち、曇り。
小さな水たまりが残るアスファルトを足取りながらの帰り道を今日も歩いて下ってく。いつもの通路に、いつもの岐路。細々とした道に、広い交差点。建物は変わらず並んでいて、今日一日の静かな後が、迫る夜に向かい暮れ始めた中で滴を落とす。
「ただいま」
室内に向かって声を上げて、今日もお仕舞。
復習は、そうだ。どうしようか。予習のほうはいいと思うけど。
机に向かって山なりにノートを開いてみる。綴じ代の糸が見えるようにちょうど半分。真ん中を開いてみる。
雨、のち、曇り。
秘密のノート。少しだけズルしちゃおう。
「今日もまた雨だったから」
「そうね」
さらさらと絡みつく温い水滴を払い落とすと、ふわふわとした布地に着替えてしまうと、今日もお仕舞。
さよなら、今日。きっと会おう、明日。
今河先輩が持ち歩く分厚い用紙の束の表紙にいつも記されている言葉がどうしてなのか思い出されて、不思議なふかふかとした眠りが来るまで少しだけ笑い出したい気分だった。