小さな秘密
日時:六月六日。夕暮れ時。場所:正門から入って直ぐの第三校舎の部室。目的:小さな秘密。
私と賦星先輩の秘密。
「私はさ」
「私はですね」
私が始める秘密は小さな物語。秘密のノートを巡る小さな物語。
「要は姉妹がいたんだったかな」
「いえ。先輩と家族の話は」
賦星先輩が始めることにした小さな秘密は、昔昔のおとぎ話。閉ざされた範囲の王子様みたいな男のお話。
「でね。私の姉がさ。昔、そんなこと言っていてさ。ほら、要。子供のころ、仲間で集まって、そういう話をしたことってないかな」
「そうですね」
ノートはどこにでも売ってある。
私と賦星先輩の小さな秘密の相談は、そんなに長いものでも無かったように思う。今河先輩が鞄の奥から分厚い用紙の束と、真新しい電話端末を取り出すまでの間、いつも私と賦星先輩は笑い合って過ごすのだけど、短い会話が今日はあったのでした。部活が始まるまでのちょっとした間繋ぎにできてしまった小さな秘密。
そうして、私と賦星先輩との間にあって長机の上でどこか誇らしげに開かれているノートは、山なりに開かれて細い糸で綴じられているそう特徴づけるものもない普通の大学ノートなのだけど、なぜなのかわからないうちに、私と賦星先輩との間で浮き浮きと雲のように湧き上がろうとする秘密を抱きしめる最重要秘密書類みたいなことになってしまったのだった。
「それで二人とも。秘密からというのは何のことなのかな」
「秘密からだから、当分秘密」
今河先輩はパイプ椅子に背を預け終わると、いつものように左肩から下を椅子の背に垂れ下げて、右手に持った電話口の大きな画面を覗き込んだままで口を開く。その言葉に、賦星先輩が楽しげに笑って、当分って、『とぉぶん』って、どこか鼻から抜けるような、それでいて鼻にかかったような、発音しないようで、かすれるように聞こえる、『とぉ』という風に、軽い返答を渡してしまう。そんなことを聞きながら、私はといえば、そろそろ部活の時間かなとそう感じていたようなのだけど。
「で。豊。書き終わったのか」
「まだだ。だが、練習はいつも通りできる」
雨、のち、曇り。
今日の部活は、少し始まるのが遅いかな。




