文武両道?
机の上で予習を切り上げた後になって、台本を通読してみたのだけど、私にはしっくりこない幕引きだった。どうして、愛してもいない、冷めてしまった女の方へと男は向かうのだろうか。どうして女は薔薇に喜ぶのだろうか。確かに証ではある。一種のイニシエーションでもある。だけど、どうしてこんなつまらない幕引きにするのだろう。私だったら、私だったら、違う風にする。そうだ。私なら、男を縊れさせて、その足元に薔薇を置く。そうして、女はただ嘆くのだ。
男は、男たちは、常に戦わなくてはいけない。そうして、そうして、女はそんな男を追うのだ。そして、戦い敗れてしまった有能な男を贔屓するのだ。
「なんて、ね」
私は、そう口にして頭を切り替える。今河先輩がそう描くのなら、描くなりの理由があるはずだった。賦星先輩がどう演じるのかが、見たいような、見たくないような。この陳腐な幕引きがどうにか見えるのだろうか。どうにも見えないのだろうか。私にはそこのところがよくわからない。分からないのだ。
「秘密のノート、か」
『秘密、だからな』
そんな声と同時に恵都と今河先輩をかけて4分の1で割ったような姿のノートの精霊が現れて私に全ての答えをくれないだろうか。もしくは、賦星先輩と白鳥先輩を二で割ったような、そんな精霊でも現れないかなって。そんな妄想に私はかられるのだ。
「秘密のノート、か」
大学ノートを丁度中央で開いてみて。ノートを閉じるひもをつまんでみながら、私は、考えるんだ。
「秘密、ね」
ページを戻して、さらりと書く。
『先輩と秘密の特訓』
書いてしまって秘密でも何でもないことに気づく。白鳥先輩は練習中も厳しい言葉を何度も吐いたし、私は、少しだけ、ショックも受けていたけど、それにもだんだん慣れてきていて、練習は好調だったし、みんな見ていた。
消しゴムを滑らせながら、私は始めて秘密のノートから文字を奪ったことに気が付いた。ああ。消してしまったものはもう戻らない。筆圧と、モノダイヤの粉の名残だけが残っている。
上書きして跡形もなくしてしまうと、結局は文字の跡形だけが残ってしまう。
『友達と二人で下校』
書いてしまってから。それから、『友達』という部分に違和感を抱いてしまうと思わず線を引いて消してしまう。
『友達と二人で下校』
何だか変な感じ。二重線で消すのもどうかと思って、そのままにしておいたけど、よかったのだろうか。
眠りにつく前にSVの主語と目的語の関係をもう一度だけ眺めてしまってから、ベッドに倒れ込む。
今日はいい夢を見ることができるといいな。




