劇7
薔薇を時折眺めながら、疲れたように肩を落として舞台端から歩いて登場する男。
『愛しき人よ。それが望みならば、それが望みならば』
男が舞台中央で嘆息すると同時に、舞台そでから女の登場。
『ああ。お帰りになったのに。あろうことか、あの女の下へ向かわれたのだわ。そして、ああ。私は』
『呪われたのは、私か』
『呪われるがいいわ』
二人の視線が交錯する。
『ああ。あなた』
『君か』
『ああ。あなた。お帰りになったのですね』
『ああ。君。私は』
『そうしてあの女の下に向かわれるのでしょう』
『私は、私は、そうしただろう』
『では、あの女はあなたを認めたのでしょうね。もちろん認めたのでしょうよ。ああ。お幸せに。幸せに。でも。いいえ、でも。呪われるといいわ』
『私は確かに証を持ち帰った。だが』
『証』
『証だとも』
『どこに御有りになって』
見回す女。男は首を振って笑うと、空の手を広げて見せる。
『さて。命を懸けた旅も、魔女との危険な一夜も、地獄の底での危険な賭けも、全ては消えてしまった。残ったものは、この薔薇と濡れねずみなこの身のみ』
『薔薇…』
『薔薇だ』
『その薔薇、私に頂けて』
『いや、これは』
『私のものでは』
『…ああ、愛とは無常なるものかな』
嘆息する男。
『私のものでは、ないのですか』
『いや。欲しいというのなら、君のものだとも』
恭しく薔薇を差し出す男。
『私の、私の薔薇』
『もはや君のものだよ』
『私のもの』
『君のもの』
『有難う』
『どう致しまして』
恭しく礼をする男。
女が薔薇を天高くかざして幕。