劇4
用紙の束。台本。覚えなきゃ。
秘密のノート。秘密はどこから湧いて出るのか。
教科書。予習復習で、あいつの心もゲットだぜ。
宿題。宿命の題目。必須です。
……。
宿題から手を付ける。今日の授業の部分がプリントの中に詰まっている。少し時間がかかる。予定では終わっている時刻に夕ご飯に向かっている。間を挟んでそれでも終わらせてしまう。
最後の穴を埋めてしまうとようやく終わりだ。
ゆっくりと伸びをした後、台本を開く。
『呪われたようね。あなたも』
『そうかな』
あくまで平静を崩さない固い口調で。
『私が呪われているように、あなたも呪われたらいい』
『呪われている、か』
『ええ。あなたと同じように』
二人の視線は絡み合わない。
片方はあくまでも彼方を見続け、片方はあくまでも直視し続ける。
『そうか』
『そうよ』
二人の間に漂う沈黙。
『では、私は行く』
『どこに向かうというの』
『それは』
男の沈黙。
『私には分かっているわ』
女の沈黙。
『ならば』
男の沈黙。
『ためらうほどなら』
女の沈黙。
『望みだ、仕方あるまい』
『私の望みは聞き入れてはくれないのね』
男の耳には入らない。
『ああ、アルペールの卵よ。火ネズミの衣よ。巨人ダニエルの書よ。優曇華の花よ。すべての素数の関係式よ。私のまだ見ぬかの人の数々の望みたちよ。水面に揺れる陽光のように、もしもその姿があるというのなら、その姿を現したまえ』
独白。並びに嘆き。
『誰にも探すことのできないものばかり』
『それは、分からない』
『私なら、一輪のバラを求める』
男の耳には遠い呟き。
『いざ行かん。未知なる旅路へ』
『行ってしまわれるの』
『ああ。そうだ』
『そう』
そっけなく彼方を見たまま。あくまで二人の視線は絡み合わない。
男は舞台そでに退出。女は舞台前方へ。
舞台そでから、かの女の登場。
『行かれたようね』
左右を見回して。
『おかしな人です』
『そして勝手な人』
『あの方を慈しむ人は、一体、私に何を求めるというのでしょうね』
『呪い』
『そう。呪われるべきは私。私だわ。では、私はいったい何のためにあなたのことを、あの人のことを、知ったのだというの。私は、私は』
独白の後、静かに退出する。
そうして、それから、長い台詞が一つきりある。私は三度目視した後、二度小さく呟いて、その台詞を後にした。それから、そこから先の台詞に取り組んではみたのだけど、やがて諦めて眺めるだけに切り替えてしまう。どうしても上手くいかないのだ。時間がない。眺めるだけに抑えてしまう。
眺め飽きた私は視線を秘密のノートへと移す。
書くべきことは決まってはいないのだけど、さらさらと今日起こったことを書いてしまう。あまり秘密でもないような気がするけど書くだけは書いておく。
そうしたことの後には、予習復習であいつの心もゲットだぜ。
眠い。眠いから。とりあえずできることから。
シャワー上がりに一、二時間取り組んだら倒れ込むようにベッド行きだ。




