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ギルド『暇人工房』の割と穏やかで喧しい日常  作者: 若桜モドキ
工房の他愛無い一日の流れ
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魔法薬局『ぽーしょん』

 入った瞬間に思ったのは、やばい、だった。

 青みを帯びた紫色で統一された室内は、白壁でまとめられた外とだいぶ違う。

 あまり布を使ったという飾りをふんだんにあしらってかわいい内装にしたガーネットの店と比べると、ここはかなり怪しい。用途不明の謎の器具やら、液体やら。そういうのが。


 正直に言うなら、これは逆じゃないかと思う。

 ガーネットとウルリーケで、内装の方向性が逆なのではないかと。


 まぁ、そんなことを言ったら最後、僕はもれなくボンレスハムかチャーシューだ。僕はけっして太ってはいない、むしろ細い。いやガーネットと同じで華奢で、筋肉足りてない系だ。

 そんな僕を、彼は愛用の糸で縛り上げて締め上げる……かもしれないのだ。

 目の前で魔物をそうやって拘束し、あるいは輪切りにしているのを見ているから。

 僕以上に華奢で、ついでに小柄な体格を気にしている彼に、そこら辺のことを口にするのは禁句である。だけど、やっぱりガーネットの趣味って乙女乙女していると思うんだ……。

 僕はそんなことを思わせる部屋の奥にある、整理整頓された作業場にいた。

 ブルーの食堂に厨房があるように、ガーネットやウルリーケの店にも、そういう作業するためのスペースが用意されている。店の、カウンターの奥に。それなりの広さで。

 ブルーの厨房は思いっきり厨房って感じだ。時代劇みたいに結構広かった。

 あれは購入した食材が、一度厨房まで全部運び込まれるからなんだろうと思う。


 二階の二店舗はそこまで広くはなかった、けどやっぱり広い。

 店舗部分ぐらいはある。まぁ、あっちもあっちで商品を作るための素材とか、ストックして置かなければいけないわけなのだから、まずその分でスペースを取られてしまうだろうし。

 ちなみに外にあるテッカイさんやレインさんの場合は、共同で倉庫用スペースを使っているそうだ。アクセサリーの土台なんかは金属で、一緒にしておくのが手間がかからないらしい。

 店も一緒だし、スペースもそう広くはないから有効活用ってやつだと思う。

 さて、店舗奥にある作業スペース。

 ウルリーケは僕の存在も忘れたかのように、きびきびと動き回っていた。普段、基本的に仲間のうちの誰か――主に弟、次点でブルーかレインさんにさっと隠れているとは思えない。

 彼女の生業は、自身もその特性上使うことが多い魔法薬の調合だ。


 まず、魔法薬には二種類ある。


 一つは、錬金魔法用に特別調合される魔法薬。


 もう一つは傷薬などの塗ったり飲んだり、周囲に振りまいたりして使うものだ。振りまくのは魔物よけぐらいだけど。基本的に魔法薬といえば、この類が中心になる。


 つまり日常的に使う機会が多いもの、だ。

 当然、お店の商品もそれが中心。

 一般市民にも需要が高くて、他にお腹の薬、風邪薬なんかも販売してある。

 この世界の薬は基本的に液体で、大瓶だったり試験管のようなものに詰めたりして販売されている。これは、この世界における薬の製法のせいなんだと僕は作業を眺めて改めて思う。

 まず素材を丁寧に砕く。

 素材は基本的に、薬草などの植物が中心らしい。

 乾燥させたそれらを粉にして、それからレシピ通りに調合。好みやオーダーに合わせて少し微調整。ここが腕の見せどころらしく、ウルリーケはそこが上手だとブルーは言っていた。

 だからカレー風料理に使うスパイス調合を、ウルリーケにやらせてたんだろう。


 ――話を戻そう。

 そうやって調合した粉は、専用の液体と混ぜ合わせる。無色透明で、わずかにとろりとした液体は味もなく香りもないもので、飲むのにも塗るのにもちょうどいい程度の粘度がある。

 これに混ぜた状態になって初めて、それは魔法薬と呼ばれるようになるそうだ。

 以前はただの水に溶かしていたそうだけど保存がきかなくて、そこで専用の薬品を開発したらしい。さらに身体に浸透しやすいように改良し、今も研究は続いているのだという。

 これに調合した粉を入れて、温めながら混ぜあわせると色が変化する。


 薬の系統によって色の系統も同じなので、見分けは簡単だ。例えば緑色は傷薬、青は病気などの治療薬。病気とはゲーム的に言うところの状態異常の類で、風邪なんかも含まれる。

 最後に場合によって甘味料などをさっと入れて、お薬完成。

 色でわかるとはいえ効能に差があるので、丁寧にラベルを貼ったら店に並べる。基本的に大瓶サイズでまとめて作って、必要なだけ量り売りするのだそうだ。

 ごとん、と音を立てて作業台に置かれた空っぽの大瓶。

 さぁ、ここからが僕の仕事だ。


 作業台の横にある、ウルリーケならすっぽり入り込める大鍋。そこには今仕上がったばかりの魔法薬がある。もっとも需要のある傷薬。大瓶に注がれていく淡い緑色が綺麗だ。

 いっぱいになったら、ウルリーケはそれにコルクのようなもので栓をする。ガラス瓶にも貼り付けられる糊を塗った紙をぺたりとくっつけ、僕がその大瓶を店の方へと運んでいく。

 紙――ラベルには商品名と、作った日時が書かれていた。例の無色透明無味無臭の薬品のおかげで以前よりは長持ちするとはいえ、それでも一年ぐらいの消費期限があるのだそうだ。

 力仕事になるこれの手伝いは、僕の仕事の一つだ。

 もろもろの事情で冒険者も増えて、こういう消耗品の需要も高い。食堂があって美味しい和食が食べられるとなって、工房を始めた直後に比べるとお客さんはかなり増えている。

 更にこういうアイテムも手に入るので、結構繁盛しているようだった。


「ウルリーケ、お疲れ様」


 最後の大瓶を運び終えて戻った僕は、鍋などを片付けている小さな背中に声をかける。

 腕を伸ばしてぽんぽんと軽く叩くように、その頭を軽く撫でた。

 身長的にちょうどいい高さで、小柄だからまるで小動物みたいに見える。あえて言うならうさぎだろうか。ガーネットに備わっている耳が、彼女にも似合うような気がした。

 長い前髪の向こう、それでもわかるくらいその瞳が大きくなり。


「……っ、っ!」


 ウルリーケが驚きのあまり腰を抜かして座り込み、その時に物を倒してそれなりの物音を立ててしまってガーネットがすっ飛んできて、僕の生命が危うくなるのはもう少し先のこと。

 お願いだから、そろそろ僕の存在に慣れてほしい気がします。

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