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「華ちゃん!ありがとう……!ありがとうね……!!!!!」
本当に、見つかってよかった。私が近づき肩を叩くまで、こちらの声に気付かないほど意気消沈だったおばちゃん。うん、本当に見つかってよかった。
な の に
「…なんです?その顔は」
「何がだ」
結局、今日中にお暇させてもらうことになり、只今夜道をドライブ中である。私の隣に座る久遠さんは、眉間の皺を深くし、車道を睨みつけている。折角全てが解決したのに……。なんでそんな浮かない顔をしているんだろうか。おばちゃんも、家の中を探してた未希子さんもあんなに喜んでいたのに。
「もしかして気付いてません?今の久遠さん、絵に描いたような極悪面ですよ」
「……なんだそれは」
「あれ、ほんとにわかってません?眉間の皺がいつもよりすごいです」
そう言えば、自身で眉間の皺を触り始める久遠さん。…なにその仕草、可愛過ぎません!?この人本当に成人して………あれ、成人してるんだよ、ね?お、お酒だって飲んでたし……。年齢聞いても変にはぐらかされるし、久遠さんって一体いくつなんだろ。
「…葛城、」
「はいはい?」
「明日おまえも……参加、しろ」
「参加って……会議にですか?」
こくり。はっきりくっきりと、縦に振られる首。もう一つ不思議なのはこれ。流暢に喋る時と、そうでない時のこの差は一体なんなのか……。しかも比較的私には流暢に長く話そうとしない気がする。なにか気に障った、って訳ではなさそうなんだけど……。うーん、なんでなんだろうか。
ぽつり、ぽつりとあるオレンジ色の街灯。それに映される久遠さんの綺麗過ぎる横顔。白皙の肌も、長くて綺麗な髪も、物憂げな瞳もきっとたくさんの人を惹きつけてきたに違いない。そんな彼は、どこか不安定に見えてしまう。…いや、うん、大丈夫大丈夫、久遠さんは現実にいるよオッケーオッケー。
「運転中に手を離すな」
「すいません」
「…頬なんか抓って……、なんだ、眠いのか」
「え!?あー、や、違います違います!大丈夫です起きてます!」
……そうだよまさかこの人の存在そのものが夢なんてそんなの在る訳ない。
「これ、美味しいねぇ」
こくり
「ね、華ちゃんも」
「う、うん……」
広い畳の上、口の形に並べられた長机。先程まで賑わっていた室内とは打って変わり、現在この空間は静寂に包まれている。…おばあちゃんと久遠さんの空間を除いて、だが。よくもまあこんな静まり返った空気の中、おまんじゅうを食べほのぼのできるもんだ。
数十分前まで行われていた町内会議、基おばちゃんの独壇場はいつも通り平和に終わった。意外なことに久遠さんもその場に馴染み、偶に振られる話題にもきちんと対応していた。…というか、この人心配され過ぎである。「久遠ちゃん、ご飯ちゃんと食べてるの?」「ごみの日は覚えたんか?」「洗濯はもうできるようになったの?」「倒れる前に家に来るんじゃぞ、食わしたるから」……などなど。どれもこれもが生存確認、いや生活のことばっかなのがなんとも久遠さんらしい。
「で、話があるって?」
出口に近く、一番端に座っていた不動産屋の社長が野太い声で静寂を突き破った。残っているのは私、おばあちゃん、久遠さん、田中のおばちゃん、不動産屋の社長に須藤さん、そして後から合流した未希子さんの七人。関わりがあるような、ないような不思議なメンバーだ。ロ型に並べられた机の角隅に座りL字型のように不動産屋組み、田中家、私、そして久遠さん、おばあちゃんの順に座している。……うん、位置的に私は真ん中ら辺だ、それはわかる。だけどなんで投げかけられた疑問が私に向いているんだろうか。
「……えーっと……?」
「え?華ちゃんが話したいことがあって招集したんじゃないの?」
「いやー……はは、」
未希子さんの疑問は尤もだろう。確かに、招集をかけたのは私だ。だけど私は別に話したいこともなければ、招集したかったわけでもない。集めてくれ、と頼まれたのでわからないまま、そう手配しただけだ。…理由は聞いたけど教えてくれなかったのだ、察してほしい。
「久遠さん、」と横にいる彼を肘で突付けば、そっと紙を渡された。……なにこれ。
「華ちゃん……?」
「あ、うん!いやそれが集まってもらったのは久遠さんが………ってええ!?」
が、の合図で腕を物凄い勢いで引っ張られそのまま、出口へと連れて行かれる。久遠さん意外と力ありますよね。というか強引過ぎて足首が若干捻ったんですけども。
「おまえは馬鹿か!」
廊下に出た瞬間浴びる罵声、なぜだ。why?
「紙に書いてあることを読んだか」
「はあ、『事件の真相はおまえが話せ。記載した通りに読み進めろ』…ですか?」
「そうだ。…何故その通りにしない?」
溜息に呆れ顔、おお無表情崩れた!なんて思っている場合ではなくて……。いやもうなんか突っ込みどころが多すぎて……。
「そもそもなぜ私が?久遠さんが話せばいいじゃないですか!久遠さんが招集させたんだから」
「……私、には無理だ」
「何故です?」
今度は青褪めた。歯切れも悪い。視線をあちこちに向け、少したじろいだ様子を見せる彼に再度問うた。
「…め、目立つのは……あまり好きでは、ない」
……今更すぎるだろう、それは。




