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8話

「ごめんなさい、リナリア様。また私のせいでご迷惑をおかけしてしまったみたいで……」


「アニータは悪くないよ。急に具合が悪くなったんだから、そんなに気にしないで……」


「でも、おふたりはデートだったんですよね。それなのに中止になってしまったじゃないですか」


「デートなんてまたいつでも出来るよ」


 いやいやいや、何でマルクが勝手に私の代弁してるの。アニータ嬢は私に謝ってるんでしょ。てか、謝るのはどっちかというとアニータ嬢よりもお前だろ。

 目の前にいる婚約者とその幼馴染は、一昨日の件での謝罪をしに私の元を訪れたらしい。実際に謝っているのはアニータ嬢だけね。マルクは一応当日に『すまない』って言ってたからそれで謝罪は終了したことになってる感じなのかな。


 アニータ嬢の体調不良は本人の意思でどうにもならないことだ。仮病でないのが前提だけど……。しかし、デートの約束を当日になってキャンセルすると決めたのはマルクの判断だ。彼が自分で選んだ選択なのに、さも仕方がない事であったのだと、私の前で改めて強調しているのが小賢しい。後ろめたい気持ちを誤魔化すためでもあるのだろう。

 ステラと観た芝居よりも芝居がかったふたりのやり取り。しかも観客(私)は置いてけぼり。登園して早々、タダでも観たくない茶番劇を披露されてうんざりを通り越してイライラしている。


「リナリア様、マルク様は昔から心配性で……私がちょっと転んで膝を擦りむいたくらいで大泣きする方なんですよ。一昨日の件も私への心配が行き過ぎてしまったがゆえなんです。今後はこのような事がないように致しますので、どうか……」


「ちょっ、それは僕が子供の時の話だろ。今はさすがに泣いたりしないよ。心配は当然するけど……」


「私は大丈夫ですから、次からはリナリア様を優先にしてあげて下さいね」


「か弱いアニータを放ってはおけないよ。リナリアは優しいから理解してくれるよ」


 この劇クソつまんない。早く終わってくれないかな。謝罪を受けているはずの私はまだ一言も喋っていない。独りよがりも甚だしい……完全に役者だけが盛り上がってるやつじゃん。

 アニータ嬢は瞳を潤ませながらマルクを宥めている。健気で思わず守ってあげたくなるような可愛らしい女性。私とは正反対だ。こんな幼馴染がいたら夢中になるのも仕方がないのかもしれない。それでもだ。毎度毎度と同じことを繰り返して、その度にこの見せ物のような謝罪劇を始めるはやめて欲しかった。


『あんなに謝ってるんだから許してあげればいいのに……』


『アニータ嬢は突然倒れたんだっけ? 幼馴染がそんな事になったら心配して当然だよね。リナリア嬢って冷たい人なのね』


 周囲から私を非難する声が聞こえる。またこうなってしまうのか。だから嫌だったのに……

 マルクとアニータ嬢の謝罪は、なぜか必ず周りに人がいる状況で行われるのだ。今回は教室だった。当然、他の生徒たちもいる。第三者の目がいくつもある場所でするような話ではないと、私は常々思っている。場所を変えようと提案したこともあるが、のらりくらりとかわされてしまい実現したことはない。


 彼らの姿が下手な役者のようで白々しいと感じているが、それはこのシチュエーションも大いに影響している。側から見たら私を含めて本当に見せ物のようになってしまっているのだ。しかも、最悪なことにヒーローとヒロインはマルクとアニータ嬢。私は彼らを苦しめる意地の悪い女という配役で……

 こんなことを何度も行っているせいで、いつしか根も葉もない噂までも広がってしまった。本来はマルクとアニータ嬢が婚約するはずだったのを私が横槍したとか……私が裏でアニータ嬢に嫌がらせをしているだとか……そういう類いのものだ。アニータ嬢の体調不良もどんどん大袈裟に広まり、不治の病を患わっているなんて勘違いをしている者までいる始末。

 当たり前だけど全部でたらめである。でも、気づいた頃には時すでに遅しで、私は想い合っているふたりを切り裂いた悪役のような立ち位置にされてしまっていた。


「もういいです。いつものことですから。……けれど、アニータ嬢がそのように頻繁に体調を崩されるのは心配ですね。一度しっかりと検査をなさった方がよろしいのではないですか? 父の知り合いで良い医者を知っていますので、紹介しましょうか?」


「……お気遣い痛み入ります、リナリア様。でも、お医者様でしたらレシュー家から手配して頂いておりますので……お気持ちだけ頂いておきます」


「そうですか、余計な世話でしたね。レシュー家のかかりつけの医者ならさぞ優秀なことでしょう。アニータ嬢のお身体が早くよくなるように祈っております」


「ええ、ありがとうございます」


 さり気なく仮病ではないかと嫌味を言ってみたら、レシュー家との繋がりの強さアピールで返されたな。アニータ嬢は私に対抗心のようなものがあるのは間違いなさそうだ。事あるごとに自分とマルクの関係の深さを強調し、私を煽るような言動を続ける理由……

 やはりアニータ嬢はマルクに対して幼馴染以上の感情を持っているのだろうか。だから婚約者の私が気に入らない?

 私自身はマルク個人の事なんてもう割とどうでもいいけど、家の事を考えると彼との婚約関係は上手く続けていかなければならないのだ。彼女だって男爵家の娘。そんな事は分かっているはずなのに。


「さて、そろそろ授業が始まります。アニータ嬢はご自分の教室に戻られた方がよろしいかと……」


「そうですね……。では、リナリア様、本当に申し訳ありませんでした」


 最後にもう一度謝罪の言葉を口にし、彼女は立ち去っていった。そんな彼女の後を従者のようについて行くマルクを見て溜息が溢れたが、ふたりがいなくなってくれたおかげで、私へ集まってい好奇の視線も無くなった。ようやく私は胸を撫で下ろすことができた。

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