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18話

 マルクの話がひと段落して、ようやく今日の本題……薬物事犯の捜査についての説明を受けることになった。バージル様は『こんな時にすまない』と私を気遣ってくれたけど、もともと約束していたことだから気にする必要はない。マルクの訪問がイレギュラーであり、バージル様には何の落ち度もないのだ。


「捜査協力として、リナにやってもらいたいことはひとつ。3日後に学園で行う張り込みに同行して貰いたい」


「張り込み……しかも学園で?」


 張り込みというと……特定の人物の動静を注意深く観察する行為だ。事件の容疑者とか怪しい者に対して行うイメージである。

 リシャール殿下から伝えられた、私に協力を仰ぐ理由に学園の生徒であるということがあった。その時から薄々感じてはいたが、バージル様のこの発言でほぼ確定である。それでも何かの間違いではないのかという一縷の望みをかけて、彼に確認をしてみた。


「……あの、それって例の違法薬物に関わっている人間が学園内にいるってことですか?」


「由々しき事態だが……」


 その短いひと言で全てが察せられた。視線を左へ流し、悲痛な面持ちでバージル様は語る。


「学園の生徒の中にDPの所持及び使用……そして譲渡の疑いをかけられている者が複数人いるんだ」


 外国から流入した違法薬物……『DP』と呼ばれているそれは、年若い貴族たちの間を中心に蔓延していると聞いた。学園に在籍している生徒たちは正にメインターゲットともいえる。

 バージル様と殿下は疑いをかけられている者たちの動向を注視してはきたものの……いまだ決定的な証拠を押さえられていないのだそうだ。限りなくクロではあるが、証拠がなければ捕えることはできない。もどかしい思いを抱えてきたらしい。


「どうやら彼らは薬の取り引きを学園内で行っているようでね。上手く考えたものだよ。学園は殿下ですら大っぴらに踏み込むことができない特別な場所。外界から隔絶された閉鎖空間と言っても過言ではないからね」


 広い学園内には身を隠す場所もたくさんある。生徒同士であるなら薬の譲渡も容易いだろう。会話をしながらさりげなくなんて事もできてしまいそうだ。

 神聖な学舎で恐ろしいことだと、バージル様は溜息を溢しながら嘆いている。学園が掲げる教育方針と真っ向から対立するような行為……それが平然と行われているのなら悲しくもなるだろう。バージル様は学園の卒業生であるので思い入れも強いはずだ。


「それで私の協力が必要だと……」


「ああ。証拠がないのなら現行犯でしょっぴくしかない。危険なことは承知の上でな。本来なら君を巻き込むこともしたくなかったのだが……」


 現役の学生である私なら学園内を自由に行動できる。周囲から怪しまれることもない。バージル様だけでは万が一張り込みが気づかれた時のごまかしが難しい。私はそんな不測の事態に備えてのフォロー役でもあるそうだ。


「最初にも言ったが、君は私が命にかえても守る。だから心配するな」


「ジョゼット家の跡取りがそう簡単に命を差し出さないで頂きたいのですが……」


 そのくらいの覚悟を持って挑むという意味だろうけど、私などのために恐れ多いことだ。でも、心の中ではバージル様の言葉を素直に嬉しいと感じてしまう自分もいる。

 やめて下さいと拒否を示す一方で、胸の鼓動が高鳴っていくのを否が応でも受け入れなければならなかった。私がこれまでに抱いていたバージル様の印象がどんどん塗り替えられていく。


「こちらの都合でろくに説明もしないまま君を振り回しているのだから当然だよ。国のためだなんてもっともらしい理由を持ち出して私は……」


 バージル様はその言葉を最後まで言うことはなかった。あれだけ強引に私を捜査に引き入れておきながら、それを酷く後悔しているような表情だった。

 最初は私もどうして自分がと懐疑的な感情を抱いていた。それでもここまで話を聞いたのだから、既に腹は括っている。


「バージル様、私は大丈夫です。不安が無いと言えば嘘になりますが、お手伝いをすると決めたのは私の意思です。だからそんなに気に病まないで下さい」


 きっかけを作ったのは殿下とバージル様だが、私だって国を守りたいという気持ちはあるのだ。危険を伴うことだって分かっているつもりだ。


「おふたりの足手纏いになることだけが心配ですけどね」


「……ありがとう、リナ」


「それを言うのは早いですよ。私はまだなにもしていないんですから」


 お礼は事件が無事に解決してからお願いしますと笑顔で伝えると、バージル様もぎこちなさはあるものの、笑顔を返してくれた。私の胸の鼓動はますます大きく早くなっていく。なんだろう……これは————


「ちょっと!! リナが来てるってホント!!?」


 突如室内に響き渡ったバンっという大きな音。そしてそれとほぼ同時に、私たち以外の第三者の叫び声が鼓膜を震わす。私とバージル様は弾かれるように部屋の入り口へと視線を向けた。


「ステラ!!」


 そこにいたのは私の親友……そして、バージル様の妹であるステラ・ジョゼット。その人であった。

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