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11話

「その様子だと……バージルは君に全く説明をしないで連れてきたみたいだね」


「は、はい……」


「諍いに巻き込まれたと言ったでしょう。そんな余裕が無かったんですよ」


「……理由も分からないまま、突然こんな扱いを受けてはリナリア嬢が戸惑うのも無理ないな」


 リシャール殿下……こんなに近くでお顔を拝見するのは初めてだ。確かバージル様より2歳ほど歳下で……でも、そんなことを感じさせないほど堂々としていて威厳のある佇まい。さすがだな。


「お前は仕事は出来る癖にそういう細かい気遣いに欠けているんだよ。女性に対してはもっとこう優しく丁寧にだな……」


「だーかーらー、トラブルがあったんですってば!!」


 話には聞いていたけど本当に仲が良いんだ。立場的に言えば主と臣下になるが、おふたりの間に堅苦しさは全くない。纏う空気はとても気安いものだった。


「先触れも出さずにすまなかったね、リナリア嬢。バージルの言う通り、楽にして構わない。とりあえず、ここに座ってくれるかな?」


 殿下はご自身が座っているソファの向かい側を指差した。状況が飲み込めていないけど……これ以上殿下の前で情けない姿を晒すわけにはいかない。なるようになれだ。


「はい。失礼致します」


 殿下の穏やかで落ち着きのある雰囲気のおかげで、高ぶっていた気持ちはずいぶんと楽になった。これなら冷静に話を聞けそうだ。ソファに腰掛けて一瞬だけ体の力を抜いた。ほんの僅かな気の弛みであったが、その後すぐに私の隣から発せられる強烈な『圧』によって、再び身体はガチガチに強張ってしまうことになる。


 バージル様……なんで私の隣に座るんだ。



「よし。それでは、本題に入ろうか」


 殿下は気に留めず話を始めてしまった。そりゃ殿下の隣に座るわけにもいかないだろうし、私が座っているのに彼だけ立っていろとも言えない。そう考えると受け入れるしかない状況なんだけど……いや、隣に座るくらいならまだいい。なんでこんなマジマジと見つめてくるの? もはや殿下よりもプレッシャーを感じてるわ。


「申し訳ありません、殿下。その前にひとつだけ彼女に確認させて頂きたい事があるのですが、よろしいでしょうか」


「うん? 別に構わないが……」


 バージル様の表情は真剣だった。そのただならぬ様子に私も殿下も背筋を伸ばした。


「ああいった事は頻繁にあることなのか?」


「へ? 何がですか」


 バージル様の質問の意味が分からず、間の抜けた声を出してしまった。そんな私に対して彼は呆れたように息を吐く。そして、質問の内容を詳しく言い直してくれた。


「先ほどアニータ・ルザネを含めた複数の令嬢たちに取り囲まれていただろう。あんな目立つ場所で辱められることは度々にあるのかと聞いている」


「辱められるってほどではないですが……まあ、たまに?」


 確認だなんて何かと思ったら……バージル様はさっきの御令嬢たち相手の一悶着のことを言っていたのか。

 彼はアニータ嬢に対してかなりそっけない対応をしていたが、名前を知らないというのは嘘だったんだな。しっかりとフルネームを把握しているじゃないか。


「かなり理不尽な理由で責められていたように見えた。マルク・レシューは自分の婚約者があのような目にあっているのに傍観しているのか」


「えーと、私を心配して下さっているのですね。ありがとうございます。マルクは……女性同士の揉め事には口を出しずらいのでしょう。私が一方的に責められているように見えたかもしれませんが、こちらもそれなりに言い返しておりますから……」


 あの程度の罵り……小鳥の囀りのようだとちゃらけて見せた。ところが、私のこの態度は更にバージル様の怒りを助長させてしまう。


「女性同士の揉め事で放置していいわけがないだろう。他ならぬ原因を作っている張本人が!!」


「ひっ……すみませんっっ!!」


「バージル、落ち着け。令嬢が怯えているぞ」


「別にリナに怒ったわけじゃ……」


 バージル様の迫力に押されてつい謝ってしまった。彼の気遣いは嬉しいが、殿下もいらっしゃるこの場で私とマルクの問題を深掘りして欲しくはない。体裁が悪い。先ほど助けて頂いたお礼は改めてするとして、早々にこの話題を終わらせるように仕向けなければ……


「……すまない、リナ。興奮してしまってつい……」


「いいえ、私もふざけ過ぎました。あの、本当に大丈夫ですので……どうかお気になさらず」


 バージル様が落ち込んでる。そのおかげでマルクについてこれ以上言及される心配はなくなったけど、気まず過ぎる。どうしよう……この空気。


「感情的になるな、バージル。お前がそのような状態では解決するものもしなくなるぞ」


「はい、申し訳ありませんでした」


「リナリア嬢。こいつはこいつなりに君の事を大切に思っている。不器用だから上手く表現できないだけなんだ。どうか分かってやって欲しい」


「はい、さっきも助けて頂きましたし……感謝しております」


「そうか……良かった。それじゃあ、気を取り直して次は私の話を聞いて貰っていいかな?」


「もちろんです」


 殿下が場を仕切って下さったおかげで助かった。俯いていたバージル様も持ち直したようで何よりだ。大体、ここに連れてこられたのはマルクやアニータの話をするためじゃないはずだ。ようやく理由が明らかになる。私は気持ちを切り替えて殿下のお言葉を待った。

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