第九話 ようこそこちら側へ
※本作は一次創作です。
※AIは執筆補助として使用しています。
任務報告は、思っていたよりあっさり終わった。
廃都での妖討伐。
海斗の初任務。
報告を聞いた豪徳寺は、腕を組んだまま少しだけ笑った。
「未熟」
「最初からそれですか」
「事実だろ」
「まあ……はい」
海斗は言い返せなかった。
三回は死んでいた。
自分でもわかっている。
豪徳寺は続ける。
「けど、現場で足は止まらなかった。そこは悪くねぇ」
その言葉に、海斗は少しだけ顔を上げた。
「……ありがとうございます」
横から碧がひょいと口を挟む。
「三回で済んだなら優秀じゃない?」
「それ褒めてる?」
「褒めてる褒めてる。数えやすくて助かるし」
「数えるなよ」
愛が静かに言う。
「でも、事実」
「愛まで……」
碧は楽しそうに笑っていた。
その後、五代神社の一人からの口添えもあり、海斗の正式加入が決まった。
見習いではない。
これからは、正式に任務に関わる立場になる。
嬉しくないわけがなかった。
けれど同時に、胸の奥が少し重くなった。
碧はそれに気づいたように、机に頬杖をついた。
「嬉しそうなのに、顔が葬式」
「そんな顔してないだろ」
「してる。ね、愛ちゃん」
「してる」
「してんのか……」
海斗はため息をついた。
碧は笑ったまま、けれど声だけ少し落とした。
「実戦で折れないのは才能だよ」
「……」
「でも、それだけじゃ死ぬ」
軽い言い方なのに、妙に重かった。
愛も頷く。
「足運びが甘い。間合いも甘い。武器に振られてる」
「そこまで言う?」
「言う」
「容赦ないな」
「死ぬよりいい」
海斗は黙った。
反論できなかった。
碧が指を一本立てる。
「そこでおすすめがあります」
「嫌な予感しかしない」
「剣道部」
「部活まで修行なのかよ」
「青春だねぇ」
「たぶん違う」
愛が即答した。
碧は気にせず続ける。
「足運び、間合い、相手を見る癖。全部鍛えられる。しかも学校で」
「効率良すぎて嫌なんだけど」
「効率がいいのは正義だよ」
「その正義、怖いんだよな」
それでも、海斗は考えた。
自分は弱い。
それは昨日、嫌というほどわかった。
正式加入が決まったからといって、急に強くなるわけじゃない。
強くなりたい。
その気持ちは、本物だった。
「……わかった。道場、行くだけ行く」
碧はにこっと笑った。
「うんうん。とりあえず道場行ってみるといいよ」
その言い方が、なぜか引っかかった。
放課後。
海斗は剣道場の前に立っていた。
引き戸の向こうから、竹刀が空を切る音が聞こえる。
一度だけ深呼吸して、戸を開けた。
そこには、袴と胴着を着て座り、胴をつけている碧がいた。
隣では愛が、無言で竹刀を振っている。
碧は顔を上げると、まるで待ち合わせに来た友達を迎えるみたいに笑った。
「海斗くん、ようこそ剣道部へ」
海斗は固まった。
「……あなたたちいるんですね」
「いるよ」
愛も竹刀を下ろして言う。
「いる」
嫌な予感しかしない。
碧は胴紐を結びながら、さらっと言った。
「で、入部届は?」
「いや、まだ入るとは言ってない」
「そうだっけ?」
碧は本気で不思議そうに首を傾げた。
「だって海斗くん、強くなりたいって言ってたじゃん」
「それは言ったけど」
「足運び甘いよね」
「……うん」
「間合いも甘い」
「うん」
「体力も足りない」
「ぐっ」
「ちなみに全部、剣道で鍛えられる」
逃げ道が、ひとつずつ閉じていく音がした。
愛が横から短く言う。
「剣道おすすめ」
「愛まで」
「実体験」
海斗は、碧を見た。
碧は勝ち誇った顔をしていなかった。
ただにこにこしている。
それが一番怖い。
最初からこの人、俺がここに来る流れを作ってたんじゃないか。
そう思った瞬間、碧が道場の隅を指さした。
机の上に、入部届が置かれている。
「そんじゃあ入部届出して?ほーら早く〜」
「……帰っていい?」
「だめ」
愛の返事は早かった。
碧は楽しそうに笑う。
「大丈夫。数週間くらいで慣れるよ」
「数週間の地獄が確定してる言い方やめろ」
「お、理解が早い」
海斗は少し泣きそうになった。
正式加入の喜びは、竹刀の音にまぎれて、どこかへ飛んでいった。




