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第4話 日常の崩壊と、理不尽な拉致

※本作は一次創作です。

※AIは執筆補助として使用しています。

 深夜。街灯がまばらに続く夜道を、一人の少女が歩いていた。

神宮碧は、両耳にイヤホンを差し込み、スマホの画面を凝視している。画面の中で流れているのは、歴史学者が淡々と語る「建勲神社」の資料動画だ。

(……織田信長。実戦主義、既存の破壊。……加護の傾向は分かるけど、具体的な『能力』の引き出し方が見えてこない。もう少し、エピソードを掘り下げる必要があるわね)

思考の海に沈んでいた碧の背後。街灯の届かない闇の中から、ぬらりと巨大な影が這い出した。それは餓えた妖。獲物を定め、碧の無防備な背中へ向かって音もなく跳躍する。

碧はスマホの画面から一切目を離さない。

ただ、左手を無造作に顔の高さまで上げた。

天を指していた人差し指を、背後の妖に向けて、勢いよく垂直に振り下ろす。

――刹那。

碧が指し示した空間に、空から一点の迷いもなく雷光が落ちた。

轟音も、衝撃波も、アスファルトへの焦げ跡すら残さない。ただ、対象となった妖だけを、音もなく分子レベルで消滅させる精密な雷撃。

碧は一度も後ろを振り返らない。

「……やっぱり、戦術的な資料しか出てこないわね」

独り言ちて、画面をスクロールする。耳元で流れる解説に意識を戻しながら、彼女はそのまま夜の闇の先へと歩き去っていった。

「今日は、夜空がキレイなのか…」


翌朝。

「おはよう、海斗。今日は早いのね」

台所から聞こえる母の穏やかな声に、海斗は大きく息を吐いた。

(……あぁ、良かった。いつも通りの家だ。いつも通りの朝だ……)

昨日の、あの血生臭い会議室。碧の冷たい指先。愛の理詰めの追撃。

それらすべてが、出来の悪い映画か何かの間違いだったのではないか。そんな淡い期待を抱きながら、海斗は食卓についた。

だが、その期待はテレビから流れたニュースによって無惨に粉砕される。

『――昨夜、都内某所で局地的な落雷が発生しました。奇妙なことに、現場には落雷の痕跡が一切見つかっておらず、気象庁も原因の特定を急いで……』

「……っ」

海斗の手が止まる。箸がカチカチと震え、顔が急速に引きつっていく。

(……うん、昨日のこととは、関係ない……よな?たまたま、だよな?)

そう自分に言い聞かせても、昨夜の廊下で感じた、あの「逃げ場なんて、もうどこにも無いんだから」という碧の声が耳の奥でリフレインした。

学校へ着いても、絶望は続いた。

教室へ入った瞬間、海斗は自分の席の周囲に漂う

「異物感」に立ちすくむ。

「あ、おはよう、上原くん。朝ニュース見た? 怖いよねぇ、変な雷」

爽やかな笑顔で声をかけてきたのは、学級委員長の神宮碧だ。その隣には、当然のように裏宮愛が立っていた。

「上原くん、あまり緊張しすぎると体に毒よ」

愛の声はどこまでも平坦だ。周囲のクラスメイトたちは、「美男美女の最強コンビに気に入られた幸運な奴」として海斗を羨望の眼差しで見ている。

「愛。そんなに冷たくしたら上原くんが可哀想だよ?」

「碧こそ、さっさと日誌を出しな。……行くわよ、狐サン」

「ひどいなぁ。……ねぇ、狸サン? そんなに怖い顔しなくてもいいじゃない。ガッキュウイインチョーは忙しいんだから」

漢字表記の名前に、カタカナの敬称。二人にしか分からない、ふざけた符牒。

そのやり取りは傍目には微笑ましいものだったが、海斗だけは気づいていた。二人の瞳の奥が、全く笑っていないことに。

(……日常が。俺の、何の変哲もなかった日常が、こいつらに塗り潰されていく……)

放課後。

海斗は一刻も早くこの場から逃げ出そうと、終礼が終わるや否や教室を飛び出した。校門を抜け、駅へと急ぐ。

だが、校門近くの死角――。

「……もぉ~だめじゃない」

耳元で囁かれた、氷のように冷たい声。

腕を強引に掴まれ、そのまま人目のない裏路地へと引きずり込まれる。

背中を壁に打ちつけた海斗の首元に、鋭い何かが突きつけられた。

「こう言ったのに反応できるようにならないと、すぐに死んじゃうよ?」

目の前にいたのは、碧だった。

彼女が握っているのは、一見何の変哲もないボールペン。だがそのペン先は、正確に海斗の頸動脈を捉えている。碧の瞳は、昨夜の会議室で見せた「仲間を殺した」と言った時と同じ、無機質な輝きを宿していた。

「……碧、やめなさい」

背後から、呆れたような愛の声が響く。

「そのボールペン、私の貸したやつでしょ。インクが漏れたらどうするのよ」

「あ、ごめん愛。これ書きやすいから気に入っちゃって」

碧が瞬時に「素」の表情に戻り、首元からペンを離す。

「(……インクの心配!? 俺の命の心配は!?)」

海斗が心の中で叫ぶが、二人は気にした様子もない。

「ま、そういうわけだから。本部にGO! 特別メニューを用意して待ってるよ、上原くん」

「……え、待っ、どうやって――」

碧が左手を掲げる。

次の瞬間、海斗の視界から夕暮れの裏路地が消えた。

「――ひ、っ!?」

あまりの重力変化と風景の変貌に、海斗はその場にへたり込む。

目を開ければ、そこは学校でも裏路地でもない。

窓一つない無機質な空間。代行者本部の、冷え切った廊下だった。

「……さて。一ヶ月のカウントダウン、スタートだよ」

碧が振り返り、残酷で、けれどどこか楽しげな笑みを浮かべた。

「ようこそおいでくださいました。建勲神社代行者サマ…上原 海斗(うえはら かいと)サン?」

そう言った碧は、なんだから嬉しそうな顔をしていた気がした。

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