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親友を作りたいなら女の子になればいいじゃない  作者:
最終章. 天使との運命の文化祭
29/40

29. ちぐはぐな想い

久々の土曜投稿?です。ようやく奏の過去が明らかになります。評価ポイント100を超えました!皆さんありがとうございます!


活動報告は話のネタが浮かばな……ゲフンゲフン。明日あたりに更新します。


追記 2019.11.10

活動報告更新しました

 ぽこぽこと電気ケトルからお湯が沸騰する音が聞こえる。時計の音がカチカチ鳴る中、ただひたすらにゆっくりと時間が流れているように感じる。


 カチッ


 お湯が沸いたみたいだ。エリスはそれを紅茶の茶葉が入ったポットに注ぎ始める。ポットの中でお湯がみるみる色を変え、綺麗な濃い赤色へと染まっていく。

 ある程度蒸らした後で、それをティーカップに注ぐとテーブルに着いてるお客の前に差し出す。


「よ、よろしければどうぞ」


 客人は気まずそうにしながらそれを受け取る。


「どうも」


 俺たちの分も入れ終わると、それをテーブルに持ってきて椅子に腰掛ける。だが、この空間に流れる気まずい空気は変わらなかった。

 何でこうなったんだろう。手に汗をかきつつ、状況を整理する。



 客人、(とも)()()()が現れたのはついさっきだ。美香は俺とは幼なじみであり、家族絡みで付き合いが深い。母さんの仕事のこともあり、よく美香の家に預けられたり美香の家族と出かけたりしていてとても仲が良かったと思う。

 だが、あの件においては美香が俺を助けてくれるのことはなかった。俺が不登校になってからは美香とは会うことはなくなった。

 何度か家に来てくれていたらしいが、俺は部屋に引きこもっていたから会ってはいない。母さんから聞いた美香の伝言は「ごめん」の一言だった。


 その美香がさっき現れた。しかも(・・)の記憶を持って。どうやら美香には概念変更の影響がなかったらしい。

 そして、久しぶりに知人の呼ばれる声を聞き駆けつけたところ知人の家には知らない女性が二人。美香からしたら明らかに複雑な状況だろう。

 美香は動揺する中で俺も動揺していた。俺にとって美香には裏切られたと思っていた。だから、今後仲良くすることも、再び会うことも考えていなかった。例え望んでもそうならないと思っていた。

 だからこそ突然美香と対面してたこの状況は俺もどうしていいかわからずただ呆然としているだけだった。

 互いに固まってしまった状況にエリスがこの家に住んでるなどの軽い説明を加えた。その後エリスはあろうことか「とりあえず中に入りませんか?」と美香に尋ねたのだ。

 美香はその誘いに乗り、今この状況になるわけである。



「えーと、どこからお話しましょうか?」


 エリスは紅茶を一口飲むの美香に質問する。美香はすぐさま答えた。


「お二人は、本当に、(・・)の親戚なんですか?」


 美香に軽く説明した時、エリスは俺たちが(・・)の親戚であると話した。実際のところ美香に親戚がいるなんて話をしたことは今までない。


「はい、そうですよ。あっ、自己紹介が遅れましたね。私は柏木襟澄、でこっちが柏木奏向です」

「かな……た?」

「はい。たまたま(・・)くんと名前が同じなんですよね。でも、漢字は奏でるに向かうで奏向です」

「奏向……」


 そう呟くと美香は俺の顔をじっと見る。俺はどうしていいかわからず石のように固まってしまう。


「まだ納得いかなければ、後で叔母さんに聞いてみてください」

「わ、わかりました」


 エリスの言葉に、美香は俺を見るのをやめた。エリスは美香の前ということもあり、本当に親戚であるような言葉遣いで話している。続けて美香は質問をしてきた。


「じゃあ、(・・)はどこへ行ったの?」


 美香は少し不安そうな顔で訪ねてくる。終始黙っている俺に変わってエリスが説明を始める。


「もともと、私たちがこちらにお邪魔するのは(・・)くんが私たちの家に来ることとの交換条件だったんです」

「つまり、(・・)はあなたたちの家に今入るってこと?」

「そうなりますね」


 美香は言葉を失ったように呆然としていた。しばらくしてから、弱い声で質問する。


(・・)は、なんで、ここを出て行ったの?」


 この声音は震えていた。エリスが答えようとするが、テーブルの下でエリスの腕を掴んで止める。エリスは驚きつつも回答権を俺に譲ってくれた。


(・・)くんは、ここから出たいと思った、それだけの事があったから、だと思います」


 その言葉に美香の顔は一気に血の気が引いたように真っ青になった。ショックを受けている。一目でそう見える。でも、俺には何故ショックを受けてるのかの理由がわからない。

 俺を見捨てた、裏切ったならそんな感情は思わないはずだ。なのに、美香は明らかに動揺している。なら美香は、今何を思ってそうなっているんだ?


「やっぱり、(・・)の側にいてあげるべきだった」


 ぽつりと漏れた美香の言葉。この言葉は後悔? だとしてそれは裏切った後悔? それとも……。


「よろしければ、お話ししてもらえませんか。美香さんと(・・)くんに何があったのか」


 答えの見つからない考えを巡らせていると、エリスが美香に問いかけた。それに対して美香はまだ浮かない顔のままで、


「馬鹿な話よ? それでもいいの?」


 そう問い返した。すると、エリスはちらっとこっちの顔を伺った。俺に聞く覚悟があるか、そう聞いているのだろう。今の俺には、前の考えのように美香がただ俺を裏切った、見捨てたようには思えなかった。

 何か理由があるのでは、(いち)()の望みだとしてもそう思いたいだけなのかもしれない。


「お願いします」


 でも、言葉が出てしまった。その言葉に美香は、あの時の話をし始めた。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 クラスに変な噂が広まった。それに気づいたのは、中学三年の最後の頃だった。ちょうど高校への入学試験でクラスが浮き足立っていた時。私の友達、昔からの幼なじみの奏の悪い噂。

 それは、特別に否定をするものではなく奏という人間を知っていたら嘘だとわかるようなものだった。

 奏本人にも噂は届いていたが、クラス全体に違うと説明する程のものではないと、奏も特に気にしてはいなかった。


 でも、ある時を境にクラスの雰囲気が変わっていった。奏に対して露骨な嫌がらせをする人が出始めた。

 それは次第に大人数に膨れ上がっていって、最後にはクラス全体がいじめムードに染まっていった。

 明らかにおかしい。でも、誰もそんなことは言わない。いじめていることが正義のようになっていた。

 奏も最初の頃は耐えられていた。でも、いじめがエスカレートするにつれて奏から笑顔が消え始めていった。


 私は、奏を助けたかった。でも、クラスの女子たちはそれを許さなかった。私が奏に接触するような行為をすると、他クラスの友達に危害を加えるようになった。

 私が奏を助けようとすれば、他の子が辛い思いをする。私の中で天秤が揺れていた。奏を助けるのか、他の友達が苦しむのか。奏が苦しむのか、他の友達が助かるのか。

 考えれば考えるほどわからなくなった。日が経つごとに、いじめは辛くなっていった。

 私は、結局奏と接触することを辞めた。そのまま、他の誰かが奏を助けてくれると思って、私は……。奏を見捨てた。


 時が経っても、奏を助ける人は現れなかった。変わりに奏はどんどん沈んでいった。

 そして、奏は学校に来なくなった。それから、学校からクラスのいじめについてを聞かれるようになった。

 学校側がようやくいじめを解決しようと動き始めたときには、もう遅かった。卒業までに、クラス会議、面談、そうやっていじめの犯人を探し始めた。

 結果はクラス全体に責任が下った。あの噂を広めた犯人は最後まで見つからなかった。

 ようやくいじめが解決した時には、もう卒業式間近で。奏はその後も学校に来ることなく、私は中学を卒業した。


 その後も、春休み中は何回も奏の家を訪れた。でも、奏は部屋から出てこなかった。奏のお母さんに「ごめんなさい」の一言を告げると私は帰った。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「それからは高校が忙しくなって、(・・)とはそれっきり。だから、まさかこの町からいなくなってるなんて思わなくて……えっ?」


 話が終わる頃には俺はただ美香を見ることしかできなくなっていた。


「ひっく、そ、それは、づらい出来事でじたね」


 エリスはどうやら号泣しているらしい。美香はエリスの顔を見て驚いていた。


「い、いや、だから馬鹿なことをしたって話で」

「私だってその二択になったら選べませんよ」

「っ!?」


 エリスはハンカチで涙を拭うと美香にそう言った。美香は動揺を見せる。


「大事な友達がどちらも傷つく選択なんて、選べるわけないじゃないですか」

「で、でも、私は、(・・)を、見捨てたんだよ! そんなの、奏が可愛そうだよ! 私が、私が悪いんだよ!」


 美香は悲しげにそう叫んだ。すぐにはっとした美香は「ごめんなさい」と言う。静まり返る室内。


「もし、(・・)くんがそのことを知ってたら、きっと、許してくれると思いますよ」


 俺は、美香にそう言った。二人とも俺を見る。エリスは優しそうな顔で、美香は驚いた顔で。


「なんで、そんなことわかるのよ」


 美香はややうわずっていた声で聞いてくる。俺自身も、答えがこうなるとは思ってなかった。

 自分を見捨てた美香に、たとえ理由があろうとそれをした美香を許すことはできない。そう思っていた。


 でも、美香は俺のことを思っていてくれた、俺のことを案じていてくれた。そのことが…………すごく嬉しかった。

 ずっと、ずっと、見捨てられて、見限られて、美香にとって、俺はどうでもいい存在になってしまった。そう思ってた。

 大事な人に裏切られて、大切なものがなくなって。それが、それだけがただ悲しくて。

 だからこそ、美香が俺のことを思ってくれた。嫌われたわけでもない、ただその事実だけで十分で。


「きっと……きっと、そう、言いますよ」


 俺は美香に微笑みながら答えた。美香が動揺している。急いでポケットを漁ると、俺にハンカチを差し出してくれた。

 俺はよくわからずそのハンカチを受け取る。すると、不思議なことに出した腕に水滴がいくつも付いていた。

 空いてる手でそれを拭うも今度はその手の甲に水滴がついてしまう。ふと、ハンカチを自分の目のあたりに近づける。離したハンカチを見ると、濡れていた。その時、ようやく自分が泣いていることに気がついた。


「な、なんで、涙なんて。んっ、悲しくなんて、ひっ、ないのに」


 ハンカチで拭っても涙は(おさま)らない。それどころか拭ってないもう片方の目から流れ落ちてくる。片手も使って拭うが治る気配はなかった。


「えっ、えっ!? なんで?」


 美香は俺の反応に慌ててるようだ。俺もどうしていいかわからず、流れる涙を拭うばかりだ。

 すると、隣にいるエリスの腕に俺は抱かれた。柔らかい感覚と共に温かい気持ちなってくる。耳元でエリスが囁いた。


「奏向、それが嬉し泣きなんですよ」


 そっか、俺は嬉しくて泣いてるのか。それに気づくと俺の感情は決壊した。俺はわんわんとエリスの腕の中で泣き始め、美香はただそれをあたふたしながら見守る。

 前にエリスが言っていた。概念変更の影響がない理由、一つは家族のように関係が深い人であること。そして、もう一つは想いが強い人であること。

 つまり、美香は俺のことを思い続けてくれた。そのことが嬉しくて、嬉しくて、どのくらい経つかわからないほど、俺は泣き続けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ほんとイジメなんてろくでもないですね...
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