1-22 ペット?
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「ふぅ」
ちょっとヒヤリとした場面もあったが、どうにかあの頑丈なゴリラみたいな奴を斬り捨てる事が出来たな。
だが、これで一つはっきりしたな。
剣の切れ味だけに頼った戦い方はダメだな。
まあ、わかりきってるけど。
今のは剣の切れ味と限界突破による力押しを行使しただけだ。
(願わくば限界突破無しであのゴリラぐらい斬れるようになりたいな)
正直な話、斬撃を弾かれたのが悔しかった。
太刀筋がひどいとあそこまで形にされてしまったのだ。
型にはまらない振るい方をしていたとは言っても、それとは話が別だ。
「はぁー。誰か剣術の師匠いないかなー」
マーレ師匠は戦いの師匠であって剣の師匠ではない。
マーレ師匠は戦う時武器を使わないしな。
てことで目的変更。活性化よりも今は剣だな。
☆ ★ ☆ ★
「だーかーらーわーすーれーてーたー!!」
森中で俺の声が反響する。
あのゴリラのせいで完全に忘れていたが、俺って今絶賛迷子中じゃねえか。
せっかくいい剣を手に入れたのだ、この剣を使いこなせるようになろうと決意したばかりだというのに……はぁ、まあ仕方ない。
色々と締まらないのはぶっちゃけいつもの事だ。
「さて……どうするかな」
困った時はとりあえず叫んでみると良い、それだけで結構落ち着くものだ。
無論、人に迷惑の掛からない場所でだぞ? お兄ちゃんとの約束だ。
現実逃避気味の思考は一旦止めて、とりあえず木の上にでも行くか。
せっかく上からこの大地を見下ろすのだ、ならばできるだけ高い所からがいいな。
ということだ、ここらで一番巨大な木々を探すこと十数分。
「すげえ……」
それはあまりにも立派だった。
生命力に満ち満ちた大木。
触れるだけで手のひらから生命エネルギーとでも呼びたくなる何かが流れ込んで来るみたいだった。
『あれ? 人間? 人間がいるよ?』
「えっ?」
今、何か聞こえたか?
周囲を見渡してみるが……何もいないよな。
なんだ、ただの気のせいか。
『あれれ? もしかしてボクの声が聞こえてる?』
やっぱり気のせいじゃねえ!
反射的に俺は飛び退くと周囲に目を光らせる。
「誰だ!」
『ここだよーここー』
「いや、だからどこだよ!」
『ここだってばー。まったくバカだなぁー』
イラッ。どこだ声の持ち主は。叩き斬ってやろうか!!
『仕方ないなー。もう一度この木に触れてごらーん』
とてつもなくバカにするような高い声。
言う通りにするのもあれだが、この声の持ち主を露出させるには言う通りにするしかないのか。
しゃーなしだな。
「おらよ。これでいぃ……か……」
木に手を触れた瞬間、全身から力が抜けていった。
そして、俺の視界は安息の黒に染まった。
『ふふ。いらっしゃい。ボクの世界に』
☆ ★ ☆ ★
「……う、うぅ……なんだ、ここ……」
えーと? ちょっと頭がぼんやりしているな。
まるで寝起きのようだ。
さて、まずは状況把握が大切だな。
とりあえず周囲をキョロキョロ。
うむ。なんだここ? 三六○度が深い谷になっていて、気持ち程度の木が生えている円形のエリア。
空は雲一つない晴天だ。
さて、次は思い出してみよう。俺の記憶の中で俺は最後に何をしていた?
アンサー。木に触れた。
そうだ。あの木に触れた瞬間、まるで吸い込まれるようにして意識が無くなってしまったんだ。
つまり原因は。
「あの小馬鹿にしてきた声の持ち主かっ!」
「ピンポンピンポーン」
声が聞こえたのは横方向ではなく、上。
驚きつつも空を見上げると、そこには翼の生えた人間が浮いていた。いや、飛んでいたか?
翼が生えてる時点でこいつは普通じゃない。だけどここは異世界と同じなのだ。この程度じゃ慌てない。
ただちょぅと思った事が一つ。
「ちっさ」
「ちっちゃい言うな!」
それの大きさは手のひらサイズ……まではいかないが、十センチぐらいしかないんじゃないか?
肩に座らせるとちょうどいい感じだ。
小さい身体なりに手足を大きく動かして自己主張するちっこい少女。
「なんだお前」
「むぐぐぅー。ボクはピピカ。この世界の創造主さっ!」
ちっさい身なりでドヤ顔をしてくるピピカ。うむ、言いづらい名前だな。
「で? ここはなんだ?」
「だーかーらー、ボクの作った世界だって言ってるでしょー? まったく、バカだなー」
ちょっとムカついたので剣で叩き落としてやろうかと思ったが、くそ、この剣、両刃だった。
……峰打じゃなくてもいいかな?
「ちょーっとストップ! 指を柄にかけない!」
「……ちっ。小蝿が」
「くっち悪いな君っ!?」
「黙れ。こちとら迷子で大変なんだ。早く俺をここから出せ」
俺をこの妙な世界に連れてきたのは確実にこいつだ。
曰く。
ここはこいつの世界らしい。ならばだ、こいつならばここから俺を出す事が出来るだろう。
正直地味に腹減った。ご飯、食う。
「だーめだめ! せっかく来て貰ったんだもん。ただじゃ出してあげないよーだっ!」
いちいた俺のことをバカにしているようにしか思えないやり方のこの、ピピカとかいうちっこい奴。
……斬るか?
「だーかーらー! 柄を握らないっ! 言っておくけど、ボクが死んじゃったらここから出ることなくこの世界も消えちゃうからね!」
この言い様。多分本当だ。だけど、一応確認。
「そうか。なら試してみるか」
「ちょ! 本当だってば! 本当にボクが死んじゃったらこの世界消えて無くなっちゃうよ!? そうなったら肉体との繋がりがない君は死ぬ事も生きる事も出来ずに未来永劫彷徨う事になるよ!? だから抜いた剣を仕舞ってーっ!!」
両目を大なり小なり記号のようにして叫ぶ。
威嚇で抜刀してみたのだが、うむ、やっぱり本当っぽいな。
「それじゃあどうしたらこの妙な世界から俺を出してくれるんだ? ちっこい神様」
「ボクは神様だなんてあんな柱たちみたいに立派な存在じゃないよ。ボクはそうだね。精霊みたいな存在かな?」
「……へぇー」
こいつが精霊ねぇー。
まあ確かに、翼の生えた小人。精霊っぽいっちゃぽいか?
「で?」
「え、えーと、一つ頼まれて欲しいんだ」
「頼み?」
嫌な予感しかしないな。
だが選択肢なんてない。
「……なんだ。言ってみろよ」
「うんっ! ボクと契約して欲しいんだ!」
次回更新はフィフティーフィフティーで明日です!
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