1-21 初めてなの
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森に入ってから数分が経った。
何も考えずに奥に奥にと進んでいたのだが、現状。
「くっそーーっ!!」
迷子。プラスアルファで、よくわからない何かに追われていた。
「なんだよあれ! 猿か? にしてはなんかおかしいだろ!」
見た目は猿なのだが、とりあえず配色がおかしい。
普通イメージ的に茶色だと思うのだが、こいつ、黒い。
いや、別に黒が悪いとかそういう話ではないのだが、あまりにも黒い。真っ黒い。
目と思われる部分だけ赤く光っており、大きく生い茂っている木々たちで日の光の大半が覆い隠されてしまっているため薄暗くなっている森の中に赤い線を残しているのだ。
そんなのが初期は三匹。
今じゃ十匹近くいる。
「ぶっちゃけ怖いぞこのやろう!」
地面からは大きな根っこが露出していることもあってめちゃくちゃ走り難い。
だがあちらさんは枝から枝に跳んで移動しているためそんなのは関係ない。
(くそっ。こんな事になるなら三匹の時に斬っとけば良かったな)
多少剣道をやっていたとしても所詮授業での範囲内だ。
ほぼやっていないのに等しい。
ということで初戦は一対一がよかったのだが、何事もうまくいかないもんだな。
「ああもう! やればいいんだろ! やれば!」
多分こいつらが前に言っていたイーターっていうこの世界独特の化物共なのだろう。
このまま逃げていても距離は離せない。それどころかスタミナがなくなれば後はやられるだけになってしまう。
てことで急ブレーキを掛けつつ後ろに振り返ってみると。
(ざっと数えて十三匹か。増えたなこのやろう!)
あの店主ーーそういえば名前知らないな。よし、仮称として……おっさんでいいかーーに貰ったジャジャ馬剣【浅斬】を抜く。
「キキィーッ」
「せいっ」
素人がただ剣を振ってみただけとしか言えないほどに、自分でも残念だとわかってしまう太刀筋で剣を振るう俺。
言い訳をすれば中学の時に持った竹刀より重いんだもの!
だが、それでもだ。
跳び掛かって来た猿みたいな化物は真っ二つになってそこに落ちた。
「……おぅ」
なんだこの切れ味。完全にチートじゃねえか。
ぐだぐだの太刀筋でもこれだけの切れ味を発揮してくれるって、マジか。
「って、感心してる場合じゃねえな!」
まだまだ数いる内の一匹を倒しただけだ。
真っ二つになった奴が霧とか煙とか、そんな言葉で表現されるであろうものになって消えていくのを横目に、俺は次の獲物を見据える。
「キキィーッ」
仲間が一瞬で倒され、警戒でもしたのか動きを止めていた猿共だったが、やがて一番近くにいた一匹が跳び掛かってきた。
おっと。後ろからも来てるな。
「ターンを一回、斬っ!」
こいつら相手ならわざわざ型のようなものにハマって斬りつける必要はない。
ということで俺は軽い気持ちでぐるりと回った。
どうぜやられても治るしってのは内緒だ。
俺の回転斬りかっこ笑いによってまた二匹が煙となって消える。
うわー、斬った手応えすらなーい。
「おっさん感謝するぜ! てな!」
難しい事を考える必要はない。
竹刀よりは重いとは言っても、慣れれば苦ではない。
ただこの刃が敵に触れればそれで切れるのだ。
多少のダメージなら一瞬で回復出来るし、マーレ師匠のスピードを見続けてきた俺にとって猿共のスピードは遅い。
まあ、見切れるってだけで俺よりも速いけどね?
「チェストー」
やる気のない掛け声と共に俺は【浅斬】を振るう。
見ろー、敵が豆腐のようだー。
いや、本当に。冗談みたいに良く斬れるなこの剣。
なんかRPGの序盤で中盤の武器を手に入れちゃったかのような感じだ。
これでもあの店じゃ三位なんだろ? 一位の剣って一体どれほどの。
……やばい。欲しい。
「おっと」
そんな事を考えながら戦っていたらいつの間にか猿共は皆消えて無くなっていた。
ほぼ反射神経で戦ってたけど、なんか、この剣のおかげで俺の戦力が文字通り倍化したな。
「……けど、これじゃあこの剣を使いこなしたって事にならないよなー」
剣に慣れるために来たのにそういう意味じゃ成果無しだな。
まあ、それ以上にこの剣の性能がわかったから良しとするか。
☆ ★ ☆ ★
森を出ようと決めてから約一時間。
「迷子なの忘れてた!」
剣の切れ味に興奮し過ぎて忘れていたのだが、どうしよう。
いつの間にか空は暗くなっていた。
別に真っ暗闇が怖いってのはないのだが、それではちょっとな……。
まあ、とりあえず歩いていればどこかに着くだろう。
それに最悪木の上にでも登れば何かしら見えるだろ。
そんな軽い気持ちで俺は再び歩き出しだ。
その瞬間。背後から随分と重たそうな振動が響く。
「えっ?」
振り向くとそこにあったのは、巨大な猿の顔。
……というよりこれは。
「ゴリラ!?」
驚くのもつかの間、そこにいた体長五メートルほどの大猿というか、ゴリラのようなそれは大木のような腕を振り上げると。
「ゴガァー!」
耳障りな叫び声と共に振り下ろした。
「ちっ」
その場から飛び退く事で避けた俺は鞘から剣を抜くと深々と地面に突き刺さっている大腕に一閃。
「なっ!」
さっきまであれほどまで簡単に猿共を二つにわけてきたというのに、こいつには小さなかすり傷しか与える事が出来ていなかった。
「おいおい、嘘だろ!?」
驚きによって俺の動きが鈍ってしまったその瞬間、反対側の腕が薙ぎ払われる。
「くそっ」
剣を間に挟さみ、ガードしてみるが勢いを防ぎきる事なんて質量的に無理だった。
マーレ師匠ならそんな問題無視してしまいそうだが、師匠ならそもそも攻撃を受けるなんて失態を演じる事もないか。
軽く数メートル飛んだ俺は木に激突することによって止まった。
経験でわかる。これはちょっと内臓がやばい事になっているな。
けどまあ、この程度でやられる俺じゃない。
「回復式、出力アップ」
意図的に抑えない限り常に発動している俺の自動回復式だが、意図すれば一時的に回復速度を上げることだって出来る。
「よし、治った」
体内でシャッフルさせられた臓器たちを一瞬で治した後、俺は全身のリミッターを解除した。
「行くぞ」
その場で軽く跳び、宙で九○度回転すると木の側面を地面の代わりにして再度跳ぶ。
通常時の三倍を超えるパワーとこの剣の切れ味があれば斬れないものはないだろう。
俺は空中で剣を両手で握ると上段に構えた。
そして。
「一○○パーセントっ!!」
まるで弾丸のように打ち出された俺は背後で足場にした木が弾け飛ぶ音を聞きながら剣を振り下ろす。
カウンターのように振るわれた大猿の拳と剣がぶつかり合う。
拮抗したのは一瞬だった。
純粋な力と力のぶつかり合いを制したのは俺の剣だった。
次回更新はきっと明日です!
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