3話
笑顔も泣き顔もどんな困難も包み込んでしまう、そんな魔法が欲しいと遠い昔に神様にお願いしたんだ。
そして願いが叶う時と同時に彼は運命を受け入れた。
彼は私の記憶の何千何万何億の1ピースでしかないと思う、でもその1ピースの居場所は出来ればいつまでも、、、
とある物語の断片
~~~~~~~~~~~~♪
玲音は、あれからほぼ毎日皇綺羅図書館へと通いつめた。
本を読む事と颯人と本の感想や他愛のない話をするのが楽しくてしょうがなかった。
颯人も打ち解けたのか玲音からのお願いもあって、まだぎこちないが玲音に対してはタメ語を使うようになっていった。
「昨日の"世界から猫が消えたなら"面白かった、何かね?途中で猫がしゃべるでしょ?あそこなんか笑ったなぁーなんで昔の喋り方なんだろって。」
玲音は世界から猫が消えたならを思い出しながら笑っていた。
颯人もその楽しそうに喋る玲音をみてると幸せな気持ちになっていった。
颯人にはある感情が芽生えていた。
何故玲音を見ていると安心するのだろう?
何故玲音とお話すると楽しい気持ちになるのだろう?
何故玲音と、、、、
一緒に居たいと思うのだろう?
「颯人?どうしたの?」
玲音の一言でふと我に返った
「あ、ごめん、ついつい考え事を、、、」
「颯人が珍しいね?ごめんね、私が毎日来てるから疲れちゃったのかもね、、、ごめん、、、」
「いや、本当に疲れてないんだ、ただ私は玲音に知りあえてこうして一緒に居て、それだけの幸せを噛み締めてる所なんだよ」
凄い幸せな事を言われた玲音だがどことなくその寂しい表情からは伝わりきれなかった
ただ自分が原因で疲れたのでは無いと分かると少し肩の力が抜けた。
「あ、そういえば颯人ってこの図書館から外に出た所を見た事ないじゃない?気分転換に一緒にお散歩行きましょ?」
どうしても話題を変えたかった玲音は普段から気になってた"外に出ない"について問い正してみた。
すると颯人がイタズラそうに笑った。
「そうだね、本当は外に出て玲音とお出掛けがしたい、二人で遊園地に行ったり、二人で映画館にいったり、二人で笑ったり、、、でもね?私は外の光を浴びると火傷の様になってしまうんだよ。」
「え、それって、、、?」
すると颯人はバツが悪そうな顔になり。
「いや、この話は辞めよう。ただ私はこの図書館が好きでここから離れたくないんだ。」
玲音は不思議でいっぱいだった。
この人は食事とかどうしてるのだろう、とか色々考える様になってはいたが、この事を颯人に問いただしたら、一生会えなくなりそうな、そんな気がして玲音は少しの疑問は心の奥底に閉まっておくことにした。
「そっかー、そんなに好きなんだね、でも私もこの皇綺羅図書館は好き。何かこう暖かくて、人は居ないのに人の暖かさがあると言うか、、、落ち着く場所、、、」
先程颯人が作ってくれたオムハヤシライスを食べたせいか玲音は気がついたら暫くの間眠りについていた。
、、、、、
「あれ?」
ふと目を覚ますと図書室の電気は落とされ、辺りは暗くなっていた。
少しビックリして慌てたが、次第に落ち着きを取り戻し周囲を見回した。
すると奥の方で電気が煌々と着いてるのを発見した。
「ん?颯人かな?てかあそこに扉なんてあったっけ?」
玲音はその光の方へ足を向けていた。
扉に近付くにつれ音楽な鳴っている事に気がついた。
とても懐かしい感じのピアノとウッドベースとドラムだけのトリオJAZZが流れていた。
「懐かしい、子供の頃に良くお父さんが聴かせてくれた、ビル・エバンスのワルツフォーデビー」
ドアには鍵がかかっておらず鳴るべく音をたてずにそぉっとドビラを3センチ程開けた。
するとピアノの音がハッキリ聞こえ出し玲音はしばらくその音色に聴き入っていた。
そしてある事に気付く。
「え?もしかして、、、」
その音が生の音である事に気付いた。
そしてそのピアノを弾いているのが颯人だった。
「凄い、颯人君てあんな才能があったなんて、、、でもあのベースとドラムの人は誰なんだろう?」
ここからだと余り良く顔が見えないのだが男の人の様な人影が見えた。
どことなく、知っているシルエットだった。
「お、、とう、、、さん、、、?あれ?、、、何でだろう?、、」
自然と玲音の眼の奥からは暑い物が頬を滴り落ちていた。
そして脚から力が抜け全身脱力状態になり、いつしか意識が遠退いていった。
、、、、、、
「、、、おん、、、うぶ?」
「、、、、、、れおん?、、、大丈夫?」
かすかに声が聞こえ始めた。
何処か優しくて、、、、
何処か落ち着く声、、、
「は、、、、、や、、、と、、」
薄く目を開いた、まだぼんやりとだが颯人がそこに居るのだけは確認できた。
それだけで安心してふっと笑みが零れた。
「颯人、、、私、、いつから、、?」
「まだ2時間位かな、でも突然倒れてびっくりしたよ。大丈夫?」
颯人は玲音に気を使い、少しゆっくりと話しかけた。
「なんとか、でもね?不思議だったの、、、颯人がピアノを弾いてる隣で私のお父さんがウッドベースを弾いてるのが少しだけだけど、見えたの、、、」
すると颯人は否定せずにまだ煎れたばかりの珈琲に口をつける
「そう、見えたんだ、私が呼んだんだ、玲音が心配でいつも近くには居たんだよ?お父さんベース弾けたんだね?凄い上手いから驚いちゃったよ」
天を見上げながらニヤッと口角を上げた。
そこに父が居るのだろうか?
玲音も同じ方向をみた。
何故か驚きはしなかった。
むしろ父が近くに居るという確認が出来た事が凄く嬉しかった。
「そっかー、ベース弾けたんだね、、、私知らなかった、、、そう言えば私、、、お父さんの事、あまり知らないや、、、」
玲音が幼い頃から多忙だった父 武雄は家になかなか帰る事が無かった。
お父さんって何処の家もそうなのよ?
と小さい頃暁美に教えられてたので何処もおかしい事はないと教えられてた。
仕事は印刷業で働く中時々音楽の仕事をしていると教えられてたが、ベースを弾けるとまでは聞いていなかった。
むしろその頃にベースと聞いてもピンと来なかったと予想した暁美はそこまで玲音に教えなかったのであろう。
そして今日、初めてその事を聞かされたのであった。
普段から無口だった武雄は自らあまり喋る事はなく、むしろ娘と接するのが苦手だったんだと思う。
なので玲音は武雄の事を何も知らずに生きてきたのであった。
唯一知っていたのは、武雄はチョコレートが好きだったって事。
時々玲音が起きてる時に武雄が帰ってくると決まって明治のチョコレートをお土産に買ってくることがあり、月に何回かあるのでそれを楽しみにしていた。
いつしか玲音はチョコレート好きになっていた。
そして颯人が玲音に何か差し出した。
よーく見ると昔ながらの茶色長方形の包装紙、、、
それは玲音が昔から好きだった明治のチョコレートだった。
「これ、、、」
「そう、玲音のお父さんから預かりました。もしかしたらもう食べないかもしれないけどって」
そう、武雄が亡くなってから暁美が明治のチョコレートをみて思い出させたくないと思いあれ以降明治のチョコレートは口にしていなかった。
気がついたらもうその指は包装紙を破っていて指で割って口に入れていた。
「甘い、、昔と変わらない味ね、、、美味しい。」
颯人とはただ無言でその姿を愛おしそうに見ていた。
そして四分の一程食べ終わった頃に玲音は遂に疑問に思っていた事を口にする。
「ずっと、、、聞きたかった事なのだけれど。颯人は何者なの?宙に浮かんだり、お父さんに会えたり、、、別に怖いって訳じゃないの、ただ、、、颯人の事がもっと知りたいの。何かね?お父さんみたいに颯人の事も何も知らないままいつの間にか何処か遠くに行ってしまいそうで怖いの。」
玲音から大粒の涙が流れていた。颯人も武雄の用に気がついたら遠くに行ってしまうのではないかと急に不安にかられた。
そして、、、
何時間沈黙が流れたのだろう、、、
本当は何分しか流れていない時なのに、その何十倍、何百倍も無音の図書館に居るようだった。
凄く空気が重い。重くて息が出来ない程に。
苦しい。
本当の事なんて知らないほうが良い、知ってたって待っているのは絶望だけだ。
玲音の心は色々な想いが葛藤していた。
だがここで、このタイミングで聞かなくては明日颯人がこの皇綺羅図書館ごと居なくなってしまうかもしれない。
その方が玲音にとっては断然怖かったのだ。
颯人も同じ気持ちだったのだろうか?
それは分からないが颯人もなかなか口を開こうとはしなかった。
玲音の言葉が当たっていたのだろうか?
「玲音?前に私は魔法使いだって言ったよね?分かっているとは思うけど。私は魔法使いではなく、、、死神なのです。」
「えっ?」
「最初から死神と言っていたら玲音はもうこの図書館には来ない、と思ったのでなかなか言えなかった。」
すると玲音が何も言わずとも颯人はそのまま語りだした。
「僕がまだ死神見習いの頃の最初の担当が玲音のお父さん、武雄だったのです。最初は右も左も分からなかった私に死に間際の武雄は言いました。『なぁに、こんな優しい死神さんがいたんだねぇー新人死神さんの初めてが私で何か幸せだねぇー』って。とてもポジティブで正直驚いた。人間が死を間近にしてこんなにも笑顔で要られるものかと。その時私は何か武雄に対して"借り"みたいなのが出来たと思い何か、恩返しみたいなのが出来たらなと考えてた。」
そう言うと颯人は少しその場を離れて何か紙切れ2枚を大事そうに抱えて持ってきた。
「この2枚を武雄は宝物だと言っていたよ。」
その2枚の紙切れが写真だと渡されて気がついた。
しかもとても古いモノクロの写真と古いけどカラーの写真2枚だった。
それは玲音がまだ赤ちゃんの頃、父、武雄に大事そうに抱えられて母、暁美がその二人をしょーがないわね、みたいな顔で見つめてる写真だった。
すると、右下に何かメッセージみたいなのが書き込まれていた。
『私の大事な宝物が皆の心に爽やかなそして鮮やかな音を奏でますように。父より』
その言葉はかつて暁美が言っていた言葉だった。
小学の頃、暁美に学校の宿題で名前の由来を聞いてくるというのがあったので玲音は、自分の名前を暁美に聞いた時にそう言っていたのを思い出した。
最初は全く意味の分からなかったが今になって全ての意味が分った、お父さんは私を大切にしていたんだとこの時確信して、気がついたらまた涙が止めどなく溢れた。
「そう、武雄は音楽が好きだったからどうしても自分の宝物(我が娘)には音と言う文字を付けたかったらしい。それは武雄の玲音に対する愛情表現だったのだよ。自分は娘が出来てもどう接したら良いのか分からずにここまでお互い成長してしまった、その事だけが唯一の後悔だと武雄は言っていたよ。」
次から次へと玲音の知らない武雄の真実が明かされていく。
「それでね?武雄に言ったんだ。可能な願いなら1つだけ叶えてあげるよ?って。そしたら武雄が、玲音に自分の音を奏でたいって言ったんだよ。で、さっき一緒に練習していたんだ。」
「なるほど、じゃーさっきのは本当の、、、」
「お父さんだよ」
その時だった、
フワッと玲音の頭の上に暖かい懐かしい大きい手が置かれる感覚だった。
その感覚は小さい頃に何か良い事をするとお父さんが撫で撫でしてくれたので覚えていた。
玲音は振り返らずとも分かった、そして目を瞑り微笑んだ
「会いたかった、、、お父さん、、、」
それに応えるかのように武雄は
「玲音、大きくなったな。もう俺の宝物は立派に育ち過ぎたよ。後は、、、暁美を宜しく頼む。」
そう言って何かを握らされた。
『明日、19時から皇綺羅図書館2階、レストラン会場にて1日限定JZZライブ開催!』
と手書きのチケットだった。
「お父さんっ!!」
そう言って玲音は振り返ったが、もうそこには武雄の姿は無かった。
続く
3話目読んで頂き有り難うございます。
最近はまだ真夏では無いのに真夏の様な暑さで私もバテバテになっております。
その真夏の前にこの物語を終わらせようとしているのですがこれが書いててなかなか終わりそうもないので、真夏を過ぎてしまっても仕方ないと半ば諦めている今日この頃でございます。
それはさておき夏と言えばビアガーデンですね?
私はお酒飲めないのですが、仲間とその場にいる雰囲気が好きでよくビアガーデンに行ったりしています。
そして、お酒が飲めない結果、、、
大きな出費が、、、、
後々財布を見て涙がする場面が多々あるのですが、この時期になると辞められないのですよねぇ~
とまぁ、話は反れてしまったのですが万華鏡4話も楽しみにして頂けると幸いで御座います。
おかぴ先生