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瘴魔と蒼白のツルギ~世界を滅ぼす剣を持った少年と、問題児だらけの第七小隊~  作者: 堕落だらだら
第一章 始まりの夜明け

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第16話「希望と、新たな報せ」

「紫音、そっちの位置、まだ動いてないよな」

 蒼司はデバイス越しに確認を取りながら、紅華と共に指定された座標へと急いだ。

「動いてない。急いでくれ」

 紫音の声には、いつもの落ち着きの中にも、微かな焦りが滲んでいた。

「――ってか、なんで白雨さんたちも合流してんだ? 東と西、別々に捜索してたはずだろ」

 蒼司が走りながら疑問を口にすると、紫音が短く答えた。

「見えない瘴魔の反応が別の場所でも出てるって話、覚えてるか。俺がこっちで察知して、二班に合流指示を出した。単独より二班合同の方が対応しやすいと判断した」

「――で、それが裏目に出た、と」

「……ああ」

 瓦礫が入り組んだ一帯を抜け、崩れた高架下に差し掛かったところで、蒼司たちはようやく目的の場所に辿り着いた。

「――あれ」

 紅華が息を呑む。

 開けた空間の中央に、簡易的な医療スペースが設営されていた。地面には担架がいくつも並べられ、その上には白雨、鬼頭、御影、黒瀬の四人が横たわっている。誰もが装備のあちこちを焼け焦がし、包帯が幾重にも巻かれていた。

「紫音、翡翠、志摩さん――」

 蒼司が駆け寄ると、紫音がデバイスを操作しながら振り返った。少し離れた場所では、翡翠が担架を運んできた搬送班に何やら指示を出している。志摩は、さらに向こうで厳しい表情のまま無線に耳を傾けていた。

「――遅かったな」

 志摩がそう言うが、責める色はなかった。むしろ、安堵の方が強く滲んでいるようだった。

「討伐、お疲れ」

 紫音が短く労うと、蒼司は担架の四人に視線を向けた。

「これ、どうなったんだよ……」

 白雨は薄く目を開けたまま、力なく笑ってみせた。

「……蒼司さん。無事、討伐したみたい、ですね」

「無理して喋んなくていいですよ」

 紅華が慌てて止めるが、白雨は小さく首を振った。

「大丈夫、これくらいは……」

「――蒼司、紅華」

 紫音が二人の注意を引くように口を開いた。

「お前らが見つけた攻略法、白雨さん達にお前達が戦闘している間に共有した。粉塵を使って輪郭を可視化する、あれだ」

「なら、なんで……」

 蒼司は担架に並ぶ四人を、改めて見渡した。

「攻略法が伝わってたのに、なんでこんなことに」

「――理屈が分かっていても、実行するのは簡単じゃなかった、ってことだ」

 志摩が代わりに答えた。

「あちらの敵は、蒼司たちが戦った個体より、明らかに戦闘経験が豊富だった。粉塵で姿を晒されると分かった瞬間から、動きを大きく変えてきやがった」

「私の爆撃みたいな広範囲を継続的に何発も粉塵をあげる手段が四人にはなかったのも、厄介だったんだよね。」

 翡翠が、包帯を巻いて彼等の応急処置を終えてこちらに歩み寄りながら口を挟んだ。

「土煙って、意外と持続時間短いから。粉塵が薄れるたびに撃ち直す必要があるから。小隊の特性上、攻撃の初動作を防ぐ御影さんがレーザーをバラ撒いたみたい。でも、その間に削られたみたい」

「――そうだな。」

 志摩が頷く。

「四人とも、致命傷は避けられた。だが、深追いされた末に、かなりの深手を負ってる。紫音の回復力じゃ、正直治しきれん」

「……悔しいけど、その通りだ」

 紫音の声には、隠しきれない悔しさが滲んでいた。彼のガジェットは急速再生を可能にする事も可能だが、それはあくまで一定の限度内での話だ。四人が負った傷は、その限度を明らかに超えていた。

「白雨たちは、一度前線を離れて、後方の医療施設で治療を受けさせる」

 志摩が静かに告げた。

「東部第一小隊は、俺を除いて、ここで一時的に戦線離脱だ」

「……隊長、すみません」

 黒瀬が、掠れた声で謝罪する。

「謝るな。生きて戻ってきたんだ、それで十分だ」

 志摩の言葉に、四人はそれぞれ小さく頷いた。

             *

「――搬送班、到着しました!」

 少し離れた場所から、輸送用の車両が近づいてくる。志摩の部下たちが手早く指示を出し、白雨たち四人が慎重に車両へと運び込まれていった。

「必ず、また戦線に戻ります」

 白雨が、担架に横たわったまま、それでも気丈に笑ってみせる。

「無理はするなよ」

 蒼司がそう返すと、白雨は小さく頷いた。

 車両が土煙を上げながら走り去っていくのを、全員が見送った。

「……四人分の戦力が、丸ごと抜けたわけだ」

 志摩が、重い口調で呟いた。

「東部第一小隊は、しばらく俺一人で回すことになる」

「そんな……志摩さん一人じゃ」

 紅華が心配そうに言うと、志摩は苦い笑みを浮かべた。

「心配すんな。これでもAランクの端くれだ。そう簡単にはやられねえよ」

 だが、その言葉とは裏腹に、彼の表情には隠しきれない疲労が滲んでいた。

             *

「――それと、もう一つ、共有しておくことがある」

 志摩が、無線端末を軽く叩きながら続けた。

「さっき、東部一帯の監視班から報告が入った」

「なんだよ、まだ何かあるのか」

 蒼司が身構える。

「――姿の見えない瘴魔が、既に数体、別の場所でも確認されてるらしい」

 その一言に、その場の空気が凍りついた。

「数体って……」

 紅華が、思わず声を漏らす。

「今、蒼司たちが倒したのは、あくまでその一体に過ぎないってことだ。同じ特性を持つ個体が、他にも潜んでる可能性が高い」

 志摩の声は淡々としていたが、内容の重さは誰の耳にも重くのしかかった。

「――マジかよ」

 蒼司は思わず頭を抱えた。

「あれだけ苦戦した相手が、まだ何体もいるってことか」

「厳密には、同格かどうかも分からない。強さにバラつきがある可能性もある」

 紫音が補足するが、それが慰めにならないことは、彼自身も分かっているようだった。

「正直、数だけでも勘弁してほしいんだけどね」

 翡翠が、小さくため息をついた。

「今回みたいに粉塵で炙り出すにしても、私一人じゃそう何体分も撃ち続けられない。弾も体力も無限じゃないし」

 誰も、しばらくの間、言葉を発せなかった。

 この場所に来てから、まだそれほど日数は経っていない。それにもかかわらず、増援である闇夜たちの到着まで数日を残した状況で、姿の見えない瘴魔が複数体存在するという事実は、あまりにも重かった。

「……このままだと、正直、持たない」

 翡翠が、誰にともなく呟いた。

「――弱音を吐くな、とは言わねえ。事実、厳しい状況だ」

 志摩が頷く。

「だが、悲観するのは後だ。足を止めても瘴魔達は止まってくれねぇ」

             *

 そう志摩が言った、ちょうどそのタイミングだった。

 紫音のデバイスが、着信を示す音を鳴らした。

「――闇夜部隊長からです」

 紫音が僅かに姿勢を正し、通信を繋ぐ。

「――紫音、聞こえるか」

 闇夜の、いつも通り抑揚のない声が響いた。

「聞こえます」

「現状の報告は、志摩から受けている。状況は、想定より厳しいようだな」

「……はい」

「増援の予定を繰り上げる。当初は一週間後だったが、それを待っている余裕はないと判断した」

 その一言に、その場の全員が息を呑んだ。

「――本当ですか!?」

 蒼司が、思わず声を上げる。

「本当だ。第一陣を、できる限り早く現地へ向かわせる」

「助かります」

 紫音が安堵の声を漏らすと、闇夜は続けた。

「それと」

「はい」

「第一陣には、私自身も同行する」

 その言葉に、全員が驚きの表情を浮かべた。

「――部隊長が、直接ですか」

 志摩が、思わず問い返す。

「他の六個小隊にも、それぞれ問題が発生している。だが、この状況を放置すれば、被害はさらに拡大する。私が動くのが最も早い」

 淡々とした口調の中に、確かな決意が滲んでいた。

「……ありがとうございます」

 紫音が、深く頭を下げる仕草を見せた。

「礼はいらない。到着まで、持ち堪えろ」

 通信は、それだけで切れた。

             *

「――闇夜部隊長が、自ら来てくれるんだって」

 蒼司が、まだ信じられないという顔で呟いた。

「マジで来てくれんのか、あの人」

「らしいな」

 紫音も、僅かに口元を緩めていた。

「闇夜部隊長が来てくれるなら、正直、百人力だな」

 志摩も、安堵の表情を見せた。

「あの人の実力は、俺も何度か見たことがある。あれが来るなら、この状況も一気に好転するかもしれん」

「お、希望が見えたわね。私達も安泰だわ」

 翡翠が軽くからかうように言うと、蒼司達は苦笑いを返した。

 久しぶりに、その場に僅かな希望の色が差し込んだ。蒼司達の目にも、これまでの疲労を押しのけるような、確かな光が宿っていた。

「よし、それなら――」

 蒼司が拳を握りしめ、何かを言いかけたその時だった。

「――報告! 報告です!」

 遠くから、切迫した声が響いてきた。

 全員が振り返ると、傷だらけの共鳴者が一人、こちらへ向かって必死に走ってくるのが見えた。装備は半壊し、足取りも覚束ない様子だったが、それでも彼は足を止めなかった。

「志摩隊長、緊急事態です!」

「――どうした」

 志摩が真っ先に反応し、駆け寄る。

 共鳴者は、肩で息をしながら、なんとか言葉を絞り出した。

「あの、人型の瘴魔――先日確認された個体が、また現れました」

「なに?」

 志摩の表情が、瞬時に険しくなる。

「今度は、無数の瘴魔を引き連れて……民間人の避難区画、その周辺への侵攻を、再開しています」

 その報告に、全員の顔から、先ほどまでの安堵が一瞬で消え去った。

「――民間人の多いエリアだと?」

 蒼司が、思わず声を荒げる。

「はい……このままでは、避難が――」

 言い終わる前に、共鳴者の体がぐらりと傾いだ。

「――おい!」

 志摩が咄嗟に手を伸ばすが、間に合わなかった。限界まで力を振り絞っていたのだろう、彼はそのまま気を失い、地面に崩れ落ちた。

「――っ、誰か!」

 紅華が悲鳴じみた声を上げる。

 場の空気が、一瞬で凍りついた。先ほどまで確かにあった安堵は、跡形もなく消え去っていた。

 残された蒼司、紅華、紫音、人型、志摩は、それぞれの表情に緊張を宿しながら、東の方角――民間人が多く暮らす区画がある方向を見つめた。

 誰も、しばらくの間、言葉を発することができなかった。


蒼司

「闇夜部隊長が来る!」


紅華

「助かった!」


翡翠

「これでもう勝ち。」


紫音

「希望が見えてきた。」


蒼司

「よし! これで一安心――」


作者

「はい、人型再登場。」


蒼司

「早い早い早い!! 安心した時間三秒なんだけど!?」


紅華

「作者って希望アレルギーなの?」


翡翠

「たぶん『平和』って文字を見ると蕁麻疹が出る。」


紫音

「作者だからな。」


蒼司

「納得しちゃったよ!」


紅華

「しかも今度は民間人エリアとか。」


翡翠

「休ませる気ゼロ。」


蒼司

「ブラック企業でももう少し休憩あるぞ!」


紫音

「作者。」


作者

「……。」


紫音

「そろそろ主人公を大事にしろ。」


作者

「善処します。」


蒼司

「信用できねぇ!」


紅華

「『続きが気になる!』と思ったら、ブックマーク・★★★★★・感想をお願いします!」


翡翠

「作者の更新速度が上がるかもしれない。」


蒼司

「その分、俺が疲れる!」


四人

「次回も『瘴魔と蒼白のツルギ』をよろしくお願いします!」

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