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42.一人

「好きとかきらいとか、そんなこと、どうでもいいんだ。そんなんじゃなくて……」

 言葉を詰まらせながら、話をつづける。


「いじめられてんのに、気にも留めてない。いじめられてる奴って特徴あるだろ。不潔だとか、気が弱いとか、オタクだとか、技量を越えた態度で生意気だとか。個性を持った奴らがダサいというレッテルを貼られていじめられるんだ。いじめに合う奴はみんな、世間に流されない奴らだよ。自分が悪いわけでもないのに、奴らは消極的になる。自分が普通の人と比べて、劣っていると劣等感を持つんだ」


 怒りとも、あきらめともつかない静かな声だった。


「そうなっても仕方ない。常識を先生からも同級生からも押しつけられて、答えを見失ってるんだ」


「洋介の言う答えとは?」


「答えとは、自分の中に見つけるものだ」


「答えを?」


「譲れないものをね」


 そこに幼い十四歳の顔は消えていた。


「おれは譲れないものはないんだけど、答えを見つけるための理屈ならわかる。譲れないものから、答えは見えてくる。結局答えなんて、個人によってちがってくるんだ」


 返答に困った。答えと譲れないものが、どう関係するのかいまいちよくわからない。


「みんな自信がないから、自分を信じていいのかわからない。いじめられる奴も、はっきりとは、どうしてこんな目に遭ってるのかわからない。そのうち下を向いて歩くようになる。常識に潰される」


 洋介の思考に、俺の思考が揺らされていく。 


「大抵はそうなんだけど、一人、踏んでも、のしても、潰されない奴がいるんだよ」


「それが、今日いた?」


「そう」洋介の頬が緩んだ。


「いっつも移動教室も、昼休憩も、帰るときも一人でいる女子がいるんだ。あまりに普通で変哲がないから、最初いじめに遭ってるとは思わなかった。特段、肩を張ってるわけでもなく、うつむいているわけでもない。俺が見てるときに、たまたま一人なんだなと思ってた。だから知ったときは驚いた。あれがいじめにあってる奴の顔? どこが? どうどうとしていて、自信に満ちてる」



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