23.白井はいつも空腹
コトン、コトン。
二枚の陶器が響く音がした。若林さんが何か作ってくれたのかもしれない。こうばしい香りが漂い、忘れていた食欲を思い出す。
でも思うように体が動かない。疲労に襲われ体はぐったりとしている。
せっかく作ってくれた若林さんに申し訳ない。体を起こさなきゃ。そう、目を閉じてちゃいけない。
気持ちとは裏腹に、体は底なしのソファに沈み込んでいくようで、意識と無意識の狭間をさまよっていた。
「できたんだけど、白井」
四枚目の皿を置き終いてから、起き上がらない人をテーブル越しに覗きこんだ。さっきと変わらず、お腹に手を置いたまま、固まっている。あったかい皿を鼻先に近づけてみた。
白くやわらかい湯気が、目を閉じたままの彼女の顔にふれる。
「食べたくない? 起きないと、一人で食うぞ」
閉じた世界の指先が曲がり「待て」のポーズをとった。
「……食べる、食べたい」
眠そうな目をこすって、ようやく体を起こした。
「いい匂い」
テーブルに移動して、食べ始めた。
少し元気になったようだ。
彼女が食事を取る状況というのは、これからも変わらないのではないだろうか。
それでもおいしそうに、熱中して食べていた。
「おいしいんだけど、どうしてかぼちゃのポタージュと、ビーフシチューっていう組み合わせなの?」
白井の前に並べられている二つの皿は、どちらもスープ状で、ご飯などの主食がない。
「まあ、いいじゃん。うまいんだろ?」
「うまいけど。でもなんで若林さんまで食べるの?」
かぼちゃのポタージュと、ビーフシチューは、ぼくのテーブルの前にもあった。
うまくできたかが気になり、味見だけではなくて、実際に食べる人と同じ立場になって、食べてみたかった。最近は洋介の作ったものばかり食べていて、自分で作ることもできない。




