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17.空腹は突然に

 一口に洋食屋のメニューといったって、その数はざらじゃない。かしこまっていない洋食のメニューなんていくらでもあるし、一つの種類に対して味付けは無数にある。ざっと見繕ってもシューベルトには四十種類の洋食がある。普通なら無意識に覚えられる数じゃない。ぼくは洋介の意外な一面を垣間見ることになった。


「まあ、覚えてるけどさ、これを見るのはそれなりに楽しくないか」


 と、ぼくはメニューを手にし軽く上げた。


「そ?」


 洋介はそんなことなんとも思っていない風である。


 そこへメニューを聞きに父さんがやってきた。店は父さんと母さんが二人だけでまかなっているので、ウェイトレス・ウェイター役は交代だった。長いコック帽をかぶったまま、あっさりとした醤油顔の父さんは、にこにこと笑っている。


「ずいぶん久しぶりなんじゃないのか。うまいもん出してやるから、たまには食いに来いよ。あ、ちょっと試作があるんだが、食ってみないか?いや、でも今日のお勧めはビーフシチューかなあ、いい肉が入ってきたんだ」


 周りの客を意識して、身内話は若干小声だが、父さんの嬉々とした声は二、三となりのテーブルにまで聞こえているんじゃないだろうか。


「洋介が食通に目覚めたって言うんだ。今日来たのは洋介に誘われたからで、信じられる?」

 父さんは目を丸くして洋介を見た。


「洋介、どうしたんだ、雪でも降るんじゃないのか。食通に目覚めるってどういうことなんだ? まさか味にうるさくなるだけ、なんてことはないだろうな」


 洋介はいかにも面倒くさそうに、口数の多い父さんにうんざりしている。


「別に。兄ちゃんもあんまり言うなよ、うまいもんを食べたくなっただけなんだから、いいだろ」


 聞き取りづらい早口で、つらつらと言い放ち、それが小さくて擦れがちだから、なお何を言っているのかわかりにくい。父さんのほうがそんな弟の態度に気を使っている。


「いいよ、ただ珍しいこともあるもんだと。二人とも、今日はたくさん食べていきな、どうせ次にくるのはいつだか分からないんだから。……何にする?」


 嫌味のない温かみのある口調で、豪快に食べることを進めてくれる。


 話しているうちに腹が減ってきて、堪らなくなってきた。空腹っていうのは徐々にくるものじゃなくて、気付いたときには一気に我慢できないところまで来ている。


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