16.メニュー全部覚えてる説
「やっぱりカレーも捨てがたい」
だが洋介の口からついて出てきたのは、飽きるほど食べているはずの定番メニュー。
意気込みばかりで習慣を追い越せない。結局「食通宣言」もそう長くはつづかないかも。
「こっちにも見せろ」
洋介の手からメニューを抜き取った。その国ごとの言葉で書かれているメニューの文字の下に、読み方がカタカナで書かれている。たとえばSOUTHEN FRIED CHICKENは南部風フライドチキン、VICHYSSOISEはヴィシソワーズ、CEASER SALADはシーザーサラダというふうに。
「兄ちゃん、メニュー全部覚えてるんじゃないの?」
胸が早鐘を打ったのがわかった。思いもよらぬことを言われて、身体がふつふつし熱くなり、周りの騒音が遠のいていく。
「わざわざ覚えてるわけないだろ、新作も出てるのに」
ぼくの顔からは汗が浮いているにちがいない。
洋介が何を知っているというのだろう。父さんと母さんのレシピのメモをこっそり読んでいることや、ためしに作ってもいるという、うちのメニューととぼくの内緒のつながり。
洋介がそんなに鋭いというのか?
「そうか。そういわれてみればちょくちょく新しいのも出てるだろうし、全部を把握してるわけじゃないよな。なんとなくでメニューを開いたけど、よく考えたらいまさら見なくてもいいじゃないかって思ったよ。でも新しいのが出てることを忘れてたな」
何か気になる思いが胸に残った。動悸。鼓動。先ほどの比ではない。洋介が自分の知っている人物ではないという感覚とでもいうか。
「ってことはお前、全部メニュー覚えてるのか?」
洋介は小首を傾げて、
「覚えてるだろ。いつからここに通ってると思ってるの」
なんとも不思議そうな顔をしている。それで当然、兄も、メニューなんて見ずとも、覚えているもんだろうと思ったのだ。




