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夏祭り①

夏祭り当日。



「日和、出来たわよ!」

「ありがとう、お母さん」



自宅にて、私は母親に浴衣の着付けとヘアメイクをしてもらっていた。

髪は下の方で一つにまとめており、あらかじめ購入しておいた浴衣と同じ色の髪飾りをサイドに着けている。



「もう、私の娘は何て美しいの!これなら流星君もイチコロよ!」

「ちょ、ちょっとやめてよ!別に流星に見せるために着てるわけじゃないんだから!」



そうだ、私は別に流星のためにこんな風に着飾っているわけではない。

絶対に、そんなこと――



『一昨日のあれ、よく似合ってたぞ』



……ッ!!!

そこで私の頭に浮かんだのは、少し前に帰り道で流星に言われたことだった。

あんなのただの気まぐれよ、気まぐれ。

流星が本気でそんなこと思ってるはずがない。



それに今回の私は脇役である。

流星と朱里ちゃんの恋を進展させるためにこのデートを仕組んだのだから。



花火大会が始まり次第、私は適当な理由を付けて抜けるつもりだ。

そうすることで流星と朱里ちゃんは二人きりになる。

せっかく流星ルートに入ってるんだから、ちゃんとイベント作ってあげないとね。



ああ、もう最高!

二人のラブイベントを想像するだけで鼻血が出てきそうだ。



「とにかくありがとう、お母さん。そろそろ待ち合わせの時間だから行ってくるね」

「ええ、いってらっしゃい。しっかり流星君の心を射止めてくるのよ」

「だから、そんなの狙ってないってば!」



いつものようにお母さんにからかわれながらも、私は家を出て待ち合わせ場所へと向かった。





***





「朱里ちゃん、お待たせー!…………って、一ノ瀬君?」



集合場所に着いた私は、朱里ちゃんの隣にいた人物に目を丸くした。

驚くことに、集合場所にいたのは朱里ちゃんだけではなかったのだ。



――攻略対象の一人・一ノ瀬雅。

彼もそこにいたのだ。

驚愕で固まる私に、一ノ瀬君が呆れたように朱里ちゃんの方を見た。



「朱里……まさか五条さんに言ってなかったの?」

「あー……言ってなかったかも……ごめんごめん」

「もう、相変わらず抜けてるなぁ。この馬鹿」

「ば、馬鹿とは何だ!」

「本当のことじゃん」



一ノ瀬君が来るだなんて……。

状況を整理しつつ、冷静に朱里ちゃんに尋ねた。



「一ノ瀬君も一緒ってこと?」

「うん、何かダブルデートみたいで楽しいかなって」

「ダ、ダブルデート……」



ダブルデートだなんて。

前世アラサー喪女にはレベルが高すぎるのではないか。



……そんなことより、どうしよう。

一ノ瀬君も一緒だと、流星と朱里ちゃんを二人きりに出来なくなってしまう。

何より、一ノ瀬君は朱里ちゃんのことかなり好いてるみたいだし。



……いっそ、流星と一ノ瀬君によるヒロインの取り合いもいいかも?

そんなことを考えて一人でニヤニヤしていたとき、一ノ瀬君が何かに気付いたように声を上げた。



「あ、皇君じゃん」

「ほんとだ!皇くーん!こっちこっち!」

「え、流星?」



振り返ると、ちょうど流星がこちらへ歩いて向かってくるところだった。



お、おお……。

流星の私服姿久しぶりに見たかも。

相変わらずカッコイイ。

もしここに学校のファンクラブ会員たちがいたら卒倒してるだろう。



ゆったりとした歩幅で歩いてきた流星は私の傍で立ち止まった。

ちょっと待って、あなたが来るべき場所こっちじゃない。



「待ったか?」

「ううん、全然だよ!」

「そうか」



流星は満足げな笑みを浮かべた。

その笑顔はズルい。



「全員揃ったところだし、行こうか」



朱里ちゃんのその言葉で、私たち四人は歩き出した。

夏祭り会場に着くと、既にそこは人で賑わっていた。



花火大会まではまだ時間があるから……。

まずはやっぱり腹ごしらえよね!

夕食を食べていないので、お腹はペコペコだ。



「本当に色んな屋台があるんだね」

「そうだね、どれにしようか」



こんなにもたくさんあると迷ってしまう。

自分で言うのも何だが、私はなかなかに食い意地が張っている。

あちこちからする美味しそうな匂いに釣られてしまいそうだ。



あ、りんご飴だ!

あっちにはわたあめもある!

美味しそう!食べたい!



「食い意地張ってるぞ」

「……!?」



私の隣で悪戯っぽく笑いながらそう言ったのは流星だった。

彼は笑いを堪えきれないとでもいうかのような顔で私を見ていた。

それが女の子に対して言う言葉か!



「あ、私あれやってみたいな!」

「……?」



朱里ちゃんが指を差した先にあったのは、金魚すくいの屋台だった。

金魚すくい……!

前世でやったことは何度かあるが、出来たためしが無い。



「じゃあ行こうか。二人も大丈夫だったかな?」

「もちろんだよ!」

「……」

「りゅ、流星もオッケーだって!」

「……そう言っているようには見えないんだけど」

「アハハ、流星って元々こんな感じだから気にしないで!」



それから私たちは、金魚すくいのコーナーへと向かった。

流星に関しては、私が腕を引っ張って無理矢理連れて行く形となったが。



「私に出来るかなー!」



朱里ちゃんがお金を払い、店主から金魚すくいのポイとお椀を受け取った。

やるぞ!と意気込み朱里ちゃんは本当に可愛らしかった。



「あっ!」



しかし、朱里ちゃんのポイはすぐに破けてしまった。



「破けちゃった……」



落ち込む朱里ちゃん。

そんな彼女に声を掛けたのは一ノ瀬君だ。



「下手クソ」

「そ、そんな風に言うことないでしょ!」

「次は僕がやるよ」



次のチャレンジャーは一ノ瀬君だ。

さすが攻略対象というべきか、彼はあっという間に五匹の金魚を獲ってみせた。

す、すごい……!

攻略対象って本当に何でも出来るんだろうか。



そして彼は、ビニールに入った金魚を朱里ちゃんに手渡した。



「え、一ノ瀬君……?」



朱里ちゃんは驚きながらもそれをそっと受け取った。



「ほら、これをあげる」

「いいの……?」

「もちろん、朱里のために取ったんだから」

「……ありがとう、一ノ瀬君!」



朱里ちゃんは軽く頬を染めて嬉しそうに笑った。



こ、こ、これは……!

あの毒舌に、デレが出始めている……!

間違いない、一ノ瀬君は朱里ちゃんに惹かれている。

流星はこれを見てどう思ってるんだろう……。



おそるおそる彼の方を見てみると――



「……」



何と、流星は非常に冷めた目で二人のラブストーリーを眺めていた。



え!?

何かすっごい興味無さそう……。

ヒロインは流星ルートに入ってるはずなのに……。



「朱里ちゃん、どこか行きたいところある?」

「あ……うーん、お腹空いちゃったな」

「じゃあ何か食べようか」



それから私たちは金魚すくいのコーナーから離れ、再び歩き出した。




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