表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/32

前世を思い出しました

「いってきまーす!」

「いってらっしゃい、日和」

「ああ、いってらっしゃい」



通っている高校の制服を着てスクールバッグを肩にかけた私は、両親に挨拶をして家を出た。

家を出た私が最初に向かうのは私の家の向かいにある大きな一軒家だ。



――ピーンポーン



チャイムを鳴らした私はインターホンに向かって呼びかけた。



「流星!そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃうよ!」



しかし誰も出てこない。

もう、流星ったら!いつも遅いんだから!

私はもう一度チャイムを鳴らして再び声を掛けた。



「流星?まさか寝坊したの?今日から私たち二年生なんだよ!?」



そのとき、ドアがガチャリと開いた。



「……ったく、うるせぇな」



中からは不機嫌そうな顔をした彼が出てきた。



……!



そんな彼の顔にも思わずドキリとしてしまう。



―― (すめらぎ)流星



私の幼馴染であり、初恋の相手でもある人だ。

家が近かったこともあって、私たち二人は幼い頃からの遊び相手だった。

十年近く前に、私は流星に一目惚れしたのだ。

もちろん今でもその気持ちは変わらない。



「流星、早く学校に行こう」

「……」



私がそう言って彼の手を引っ張ると、彼は無言で歩き始めた。



もう……機嫌悪いんだから……。



朝の彼はいつもこんな様子だ。

どうやら朝が苦手なようで、不機嫌さを隠そうともしない。

まぁ、私は彼のそんなところも好きなのだが。



それから私と流星は横並びで学校への道のりを歩いた。



「流星、今日から新学期だね」

「……そうだな」



彼が無愛想なのは誰に対してもそうなので別に気にしていない。



「昨日ちゃんと寝れた?」

「……ああ」



流星は素っ気なく返事をした。



私はこうやって毎日流星と登校している。

理由はただ単に、私が彼と一緒にいたいからである。



流星は私が毎朝家まで迎えに来るのを嫌がってるけど、私は彼と一緒に学校まで行きたいんだもん。



「あ、学校が見えてきたね、流星!」

「……」



流星は無言でぷいっと顔を背けた。

もう、どうしてそんなにいつも無愛想なのよ!

彼が私に興味が無いのは分かりきっていたが、こんな風にされるといくら私でも傷付く。



「ちょっと流星、聞いてるの!?」

「何だよ」



私は歩いていた彼の前に出た。

しかし、そのせいで後ろが見えていなかった。



「キャアッ!」



後ろ向きで歩いていた私は、段差につまずいて転んでしまった。

背中から地面に倒れ、全身に鈍い痛みが走る。

特に頭がズキズキする。



「おい、大丈夫か!?」



焦ったような流星の声が聞こえてくる。

こんなの、彼らしくない。

しかし今の私にとってはそれどころではなかった。



あれ……何これ……。



そのときの私の頭に流れてきたのはとある人物の記憶だった。

一人暮らしで、仕事に明け暮れる日々。

唯一の楽しみは仕事が休みの日にやるゲームだけ。

恋愛なんて一度もしたことのない、変わり映えの無い日々。



そうだ……私には前世がある……。



そのとき、雷に打たれたような気分になった。

転んで頭を打ったことで前世の記憶が、突如として蘇ってきたのだ。



「おい、日和!」

「……!」



顔を上げると、流星が倒れた私の顔を覗き込んでいた。



待って……日和って……。



「おい、お前何だか顔色が悪いぞ」

「あっ……」



私は彼を心配させないようにすぐ立ち上がった。



「な、何でもないよ!私、転んで怪我しちゃったみたいだからちょっと保健室に行ってくるね!」

「あ、おい……」



それから私は流星の引き止めも無視して猛ダッシュで学校へと入って行った。

私が向かったのは保健室ではなく学校のトイレだった。



「やっぱり……」



トイレに備え付けられている鏡で自分の姿を見た私は確信した。



ここ、私が前世でプレイした乙女ゲームの世界だ……!





――「ラブドキッ!恋愛学園2020」



少し前に流行った恋愛ゲームをリメイクして発売したもので、私が前世で最もやり込んでいたゲームだ。

タイトル通り、ヒロインがラブイベント起こりまくりな学園で見目麗しい攻略対象たちと恋をするゲームである。

どうやら私は乙女ゲームの世界に入り込んでしまったようだ。



しかし、問題はそこではなかった。



どうして私が、悪役令嬢役の五条日和に転生してるの――!?



そう、私はゲームの中でヒロインを苛め抜いて最後には学園を退学となりメインヒーローから絶縁を言い渡される悪役令嬢・五条日和に転生していたのだ。



五条日和はメインヒーロー・皇流星の幼馴染であり、ヒーローと仲良くなるヒロインに嫉妬して陰湿な苛めを繰り返すのだ。

そして最後には全ての悪事がバレて想い人である流星には軽蔑され、さらには学園を退学となってしまうのである。



こ、こんなのってないよ!



それを知った私は絶望した。



せっかくならヒロインが良かったなぁ……。



しかし、いつまでもこうしちゃいられない。

私は前世の知識を頼りに今日が何の日かを思い出す。

そして、あることに気が付いた。



「………………乙女ゲーム始まるの今日からじゃん!!!」



トイレにいた他の女子生徒がギョッとした目で私を見た。



そう、今日はヒロインが私と流星のいるクラスに転校してくる日なのだ。

ちなみに攻略対象たちは何の因果か、全員私のクラスにいる。

なので今日はヒロインが全員の攻略対象と出会う日でもある。

ヒロインが誰を選ぶかによって、私の未来が――



……いや、むしろやらかす前に思い出せてよかったのかも?



神様が悪役令嬢に転生した私を憐れに思ってくれたのだろうか。

こうなったら、私がするべきことはただ一つである。



ヒロインと流星の恋を応援して、断罪回避!!!



私の前世は生粋のアラサー喪女である。

男の人と付き合った経験も無ければ、関わったこともほとんどない。



そんな私にあんなキラキライケメンは無理です、ハイ。



流星はその整った容姿と「皇」という苗字から学校の女子たちの間では「皇子」と呼ばれていた。

彼の人気は凄まじく、学内でファンクラブまで出来てしまうほどだ。



私も何度羨望の眼差しで見られたことか……。



だけどそれも今日で終わりだ。

自分の未来が分かった今、これ以上彼に纏わりつくつもりはない。

それに流星は元々私には無関心だった。

離れていったところで別に何とも思わないだろう。



せっかくだから学園生活を楽しむべきだよね!



前世では青春などしたことが無い。

高校時代は年がら年中ボッチだったのだから。



「よぉし、楽しむぞー!」

「ヒ、ヒィッ!」



両手を上げてそう叫んだ瞬間、周りの女子たちが何やらビクッとしていたが気にしない。

私は私で学園生活を謳歌するのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ