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輝き町友愛銀座商店街  作者: 二糸生 昌子(にしお しょうこ)
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輝き町友愛銀座商店街

輝き町で、かんたらの公演が2日に渡ってあった。

劇の題名は「風の道・月の影」

平安時代の姫君が、月読みの命に明智光秀を助けてほしいと祈る。

だが、光秀は源 義経のところに助っ人を頼みに行く。

が、兄に裏切られ義経は悲しみのうち命尽きようとしてた。

そのそばで月読みの命が舞を舞う。

雷神風雨神が3日だけの天下をやろうと光秀に持ちかける。たった3日であっても、信長に勝つことができたなら、後の生涯を差し出そうと、

光秀は言う。この異変を知って卑弥呼は空海を呼び出すが、彼は沈黙の中から動かず。あとは激しい月読みの舞で幕が下りる。


一番前のど真ん中に席をとった町長の目は、始めから終わりまで閉じられたままだった。要するに寝ていたのだが。

にも関わらず町長は芝居が終わると同時に目を覚まし、立ち上がって盛大な拍手をし、振り向いて観客にも盛大な拍手を促し、「アンコール」と叫んだ。

隣に座っていた焼き鳥うまひまの主人が「町長、コンサートじゃあないんですから、アンコールはおかしいですよ」

「おおそうか!じゃあなんて言うんだ?」

「ブラボーとかじゃなですかね?」

「わかった!ブラボー ブラボー ブラボー」

劇団員の女性が「しぐれさん・・・恥ずかしいんですけど」と言った。

「町長さんよ。いい人よ」しぐれはそ言うと、町長に挨拶に行った。

「いや〜〜素晴らしかったね〜きみ!最高傑作だ。芸術だねえ」

しぐれは町長が寝ていたのを知っていたが「ありがとうございます」と答えた。

この町長は、堂々とお世辞を言う男だった。大概の場合お世辞を言うとき、お世辞と気づかれないように気遣うものなのだが、この男のお世辞はもうめちゃくちゃで「シェイクペアに勝るとも劣りませんなあ」とか平気で言う。

「町長、シェイクスピアですよ」「そうだ!そのピアだ」

「だが何ですねえ。わかりましたか?あの芝居」居酒屋ホイキタで、焼き鳥うまひまが言った。

「結局・・・・どう言う話だったかな?」

「さてね。明智光秀が出て来ましたねえ。信長に勝ちたいと。だけど台詞が早口で何言ってるんだかさっぱりで」

「かと思えばやたらゆっくり過ぎる人物もいたなあ」

「しかし、明智光秀は源義経には会わんだろう?」「卑弥呼にもな」

しぐれの芝居には理由の説明がない。しぐれは世の中の出来事の多くには理由がないのだという。ただ起きるのだと。自然界に理由なんてないでしょう?

「たとえばテレビが映らない。なぜ?壊れたからと言う理由があるわよね。では、なぜ壊れたの?寿命だったから。不良品だったから。ではなぜ不良品だったの?こうやってなぜを繰り返して行くとなぜの答えは無限に広がっていってしまい、解らないに到達する。だから人は自分の必要ななぜの答えと思しきところでなぜを切り捨てて、理由にしているだけで、いい加減なものなのよ」

「だがなあ」と庭子の父親が言う。

「明智光秀が源義経に会いに行くと言うのは、時代が合わんだろう?」

「それは時間というファンタジーの表現よ。誰もが同じ時間を生きているわけではないってことよ」

「さっぱり解らんぞ」

けれど、この芝居が絶賛された。何と言っても、しぐれの舞台は美しいのだ。

そしてしぐれの独特な色彩感覚と照明が彩なす舞台に立つ鵜堂杏里。月読みの命を演じた彼の見事な踊りの美しさは観客の心を惹きつけて離さない。「惚れるわね」としぐれが言った。


この町の材木屋だった店が、木材置き場や作業所などをかんたらに無料でお貸ししたいという申し出があった。いつも練習場を探し歩くのに疲れていたかんたらの団員たちは飛び上がって喜んだ。団員の何人かが輝き町の廃業寸前のアパートを借りて住み出した。

かんたらの芝居も順調で毎回満員御礼だ。輝き町友愛銀座商店街は、人通りも日に日に多くなって行った。

劇団かんたらは見事、町長の得策になったのだ。町長は鼻を高くしながら、毎回かんたらの公演にやって来ては最後に立ち上がって「ブラボー」と叫んでいる。


ある日、鵜堂杏里はフランスに飛び立った。

ある映画監督が鵜堂の舞台を動画で観て、ぜひ自分の作品に力を貸してほしいと言ってきたのだ。

「鵜堂ちゃん、行きなさい」

「でも、かんたらの仕事が・・・」

「かんたらを一人で背負わなくていいのよ。かんたらの踊り手は3人いる。どの子もいい踊りを踊るのよ。

鵜堂ちゃんは心置きなく新しい道を行きなさい」

「僕はすぐに・・しぐれさんの所に戻って来ます」

「そんな約束をするのはやめなさい。きっと鵜堂ちゃんの才能が許さないから」

鵜堂がフランスを拠点に世界を回り、しぐれの元に帰ってきたのはそれから15年後だった。

しぐれは50歳で鵜堂杏里47歳と一緒になった。


建は10年という歳月を送った庭のテントを畳んだ。

「ようやく飽きたか」と言った父親に、建は、

「本格的なテント暮らしを始めることにしました」

「まだテントか。本格的なテント暮らしとはなんだ?まさかエベレストに登るとか言ったら許さんぞ」

「お父さん。僕はモンゴルに行きます」

「朝青龍のか!」

「ちょっと古いけど、そうです。僕は草原の民になります」

「そう簡単にどこかの国の草っ原の民なんかになられても困る。しかもそんな遠い国の」

「草原のと言ってください。草っ原じゃなく。それと、モンゴルは、関西空港から飛行機に乗ってすぐです」

「そんなに近いのか?」

「お父さん、どうか僕を嫁に出したと思ってください」

「・・・はあ?」

建はモンゴルに引っ越して行った。

そして1年後、建から1枚の写真が送られてきた。

髪をおさげに編んだ丸顔の可愛らしい娘が写っていた。

写真の裏には、この人と結婚しますと書いてあった。

さらに3ヶ月後、送られて来た写真には、義理のお父さんは馬頭琴とホーミーの名手ですとあり、民族衣装のカッコいい男性と、小柄で美しい女性が写っていた。

そして最後に民族衣装に身を包んで馬に乗った建の写真があった。

建はまさに草原を渡る風の行方を見ているかのような目をしている。モンゴルの雄大な夕日に照らされて、建は美しくそして幸福そうだった。


八尾は車で15分の所に畑を借りて、野菜を作り始めた。無農薬の有機農法から、無肥料の自然農法と色々やっている。

「庭子、俺この頃野菜と草を分けるなんておかしいと思うようになったんだ。野菜も草だろう?

草を刈らずにタネを撒くと、野菜や草達の集落ができるんだよ。どうやら草や野菜にも気が合う合わないがあるらしくて、何となく集落や家族みたいなものができるんだ。その場所で居心地良さそうにしているものもいれば、どうしてこんな所に目を出しちゃったのかなと、落ち込んでいるようなやつもいるんだぜ。だけど、野菜が草と一緒に育った所には虫はほとんどつかないんだよ」

庭子は野菜も草も人間と似ていると思った。仲間や家族を作り、集落を作り、集落の中で暮らす者、集落から離れて暮らす者。同じ種類の野菜だけを作ると、虫が大量に発生したり病気になりやすくなるのなら、人間社会も同じ価値観の同じ好みや考え方を持つ者だけで構成された街ばかりだったらどうだろう?

思った以上に退屈で、エネルギーは停滞して行き、活力が奪われ生命力が減少して行ってしまうのではないだろうか?働き蟻の社会にいる働かない蟻を取り除くと、今まで働いていた蟻が働かない蟻になると言う。

人間社会でも同じことが起きるのかもしれない。誰かが違う者になって行くのだ。自然界の生命には「違い」が必要なのではないだろうか?考えや生き方の違う人間が集まって生きるからこそ、活力が生まれ生命が輝きだすのかもしれないと庭子は思った。


次第に輝き街に活気が戻ってきた。

町長が提案した「もっと外国の人を受け入れましょう案」が、すごい得策であること間違いなしと言って、シャッターの降りた店をそれほど高くない値段で貸し出した。人は草のようにどこへでも行ける。

そして、その場所で生きる力を持っている。

人も草も強いのだ。

遠い国から来て店を出す人々が増えた輝き町友愛銀座商店街には、新しい活気が漲っている。


庭子は八尾が話てくれた草や野菜の話を、子供も読めるような本にするつもり。

庭子に握られた色鉛筆の柔らかな緑が、描かれた草に夢のような温かさを与えた。


風が吹いて草原の匂いがした。





人間を描くのが好きです。一人ひとりのキャラクターに物語を与えて行く作業が気に入っています。

私が作り上げた人物をどなたか一人でも面白いと思ってくださったら、これほど嬉しいことはありません。

読んでくださった皆様に、心からお礼申し上げます。


     二糸生  昌子

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「普通の人」のすごさを体験してしまったバーチャルリアリティー。 最初『輝き町友愛銀座商店街』というタイトルから連想するに、昭和の町の話かと思いくすんだ絵本をめくるような気持ちで読み始めたの…
[良い点] 後半一気に読ませて頂きました。輝き町友愛銀座商店街のそれぞれの素敵な個性溢れるキャラクターの展開をワクワクしながら読ませて頂きました。 小説の中のいくつかの台詞に今の自分とを重ねる気持ちが…
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