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79話『隠秘された正体』



12個の宝石を揃えたプレイヤーが現れました。これにて、ゲームは終了とさせて頂きますーーーー



そのような内容の手紙が送られて来たのは、同日の午前7時頃だった。







『12個の宝石』



挿絵(By みてみん)








「本当に、行くのね?」



人の影のない駅前広場に立つ、二人の男女。午前とはいっても中途半端な時間なので、通行人も少なく、視界には彼女の姿だけが目に映っていた。


雪乃は心配そうな表情を浮かべながら、裕仁に問いかけた。この質問は既に何度も彼女の口から出ている。恐らくは本当に心配しているのだろう。普段の飄々とした態度とは違い、強く危険を訴えかけるような目でこちらを見ているからだ。確かに、怜悧な彼女ならばこの行為の危険性というものを裕仁以上に把握しているのだろう。それでも、ここで立ち止まるわけにはいかないのだ。



「……あぁ、これは誰かがやらなくちゃいけないんだ。ただ、その貧乏くじは俺が引かされたってだけだ。」



尻尾巻いてこの状況から逃げ出せるのならば、すぐにでも逃げ出したい。正直に言えばこのゲームが次も行われ、誰かが知らないところで死のうと知ったことではない。とは言っても優勝が確定した時点で次回への参加は確定してしまったのだが……そうであっても他人の死は所詮、他人事だ。誰だって我が身の可愛さが一番なのだ。良い格好をしていた自分自身でさえ、結局は自分自身の命の事を考えてしまっていた。そして、“生き残る”という当初の目的は無事に達成したのだ。




それでも、裕仁は“運営”を叩くと決めた。




このゲームを本当の意味で終わらせるために?


これ以上の犠牲を増やさないために?


そのような立派な精神など持ち合わせてはいない。裕仁を奮い立たす意思は結局ただ一つ。「雪乃を苦しめたこのゲームが許せない」。たった、ちっぽけで自分勝手な理由だった。しかし、他人から見れば小さなその理由だけで、裕仁は拳を握ることができる。


それだけで、男は悪に立ち向かうことができる。



「そう………。」



雪乃はもう裕仁を説得できない事を悟ってか、一歩身を引いた。そして一度顔を俯かせると、数秒経ってすぐに顔を上げた。その表情に、裕仁は不覚にも心を奪われる。



「……ちゃんと、帰って来てよね。」



彼女は顔を綻ばせ、清々しい笑みを浮かべた。その瞳の奥にはやはり、不安を隠せずにいた。それでも彼女は精一杯に健気に微笑み、戦地へと旅立つ裕仁を笑顔で見送ろうとしてくれている。思わず裕仁も頬を緩めた。



「あぁ、必ず帰ってくる。」



そろそろ行かなくちゃ、と裕仁は優しく見送る雪乃に背を向け、改札口へと歩き出そうとする。そのタイミングで、突然ホームに響いた声に呼び止められた。



「ゆうじんーーー!」



その声はどうしてか、少々懐かしいもののように感じた。裕仁は少し嬉しそうに口角を上げると、その場でゆっくりと振り返った。すると遠くから大声をあげて、こちらに駆けてくる少女の姿が見える。夏休みなので今まで寝ていたのか、髪も跳ねており、あからさまなパジャマで走ってくる。なんだかこちらが恥ずかしくなるような格好だった。



「……海音」



海音は勢を殺す事なく、そのままタックルするように裕仁に飛びついた。海音の頭部が腹部にめり込み、昨晩で痛んだ全身から力が抜けて倒れ込んだ。



「ぎゃっ!」



小さな叫び声を上げた海音は、すぐにその場から飛びのいて呵呵と無邪気に笑った。間に合った、と満面の笑みを浮かべ、後ろで手を組んで裕仁を見つめた。



「……これで、本当に最後なのよね?」



そのような彼女の言葉に、裕仁は起き上がりながら微笑んで答えた。



「あぁ、これでこのゲームは幕引きだ。帰って来たらみんなで祝杯だ。もちろんジュースで。」



そうね、と雪乃も愉しげに笑って答えた。雪乃と海音は互いに顔を見合わせると、二人して裕仁の方へ顔を向ける。そして、声を揃えて言った。



「行ってらっしゃい。気をつけてね。」



裕仁は少し照れ臭そうに頭を掻くと、背筋を伸ばして凛と立った。



「あぁ、行ってくる。」



そして裕仁は大きく手を振り、改札を抜けた。

















ーーー今回のゲームの優勝者は、“藍浦裕仁”様です。


優勝者である貴方は、正午に緋水ひすい駅までお越し下さい。そちらに迎えの者を向かわせます。













裕仁は電車に揺られ、指定の場所へ向かった。電車内もやけに静かで、裕仁以外には誰もいなかった。まるで人払いされているかのような不気味さがあった。しかしついつい眠ってしまいそうな心地の良い日差しが差し込み、電車は小気味のいい音を立てながら走り続ける。そのような複雑に空気の絡み合った密閉空間に閉じ込められた裕仁は、ただただ目的の駅の到着を待った。


時間にして約1時間ほどだっただろうか。次は緋水駅であるとアナウンスが入った。緊張をほぐすように一、二回深呼吸をし、肩を回す。それだけでどうこうなる話ではなかったのだが、少しだけ体が軽くなったような気がした。結局は気分の持ちようなのだろう。駅が近付くにつれ、揺らいでいた心に漸く決心がついた、といったところだろうか。それから数分経ったところで、電車はゆっくりと停車する。左側の扉が開くと、裕仁は踏みしめるようにその地へ降り立った。風に煽られる髪を抑え、ホームの階段へと足を運ぶ。


当然なのか、偶然なのか、この駅に降りたのもやはり裕仁だけだった。そして裕仁は階段を下り、改札を通って駅の外へ出た。ここは思っていた以上に都会のようで、高層ビルが屹立している。見上げていると首が痛くなりそうだ。





その時、不意に誰かに声をかけられた。



「ーー藍浦裕仁様ですね?」



裕仁は視線をビルから、その声の主の方へと移した。するとそこにいたのは、スーツに身を包んだ一人の女性だった。


黄金比、というのだろうか。顔は欠点が見つからないほど整っており、化粧は控えめだがそれでも十分だった。目は猫のように大きく、そして鋭い。まるで全てを見透かすような、透明感のある瞳だった。年は二十代前後だろうか。高いヒールのせいか身長はやや高く見えるが、実際はもう少し低いだろう。長めの髪は後ろに纏めて束ねられ、溢れんばかりの若々しさをタイトなスーツで包んでいる。手紙に記されていた“迎えの者”というのが彼女なのだろうか。だとすれば、この女性も“運営側”の人間ということだ。



「……あぁ、そうですけど。」



女性は深々と一礼すると、前口上のように話し始める。その言葉には抑揚がなく、無感情さを感じた。



「私は“瑠璃川”というものです。まずは、この遊戯の最終勝者となられたことについて、ご祝辞を述べさせて頂きます。この度は、誠におめでとうございます。貴方のご活躍は皆、重々承知しております。貴方の勝利には、誰もが納得いたしましょう。主も貴方を歓迎しております。」



そして瑠璃川と名乗った彼女は近くに停車してあった車の扉を開けると、



「では、参りましょう。」



と言った。誰の目から見ても、この車は高級車だ。リムジン、というのだろうか。漆塗りのように艶やかな黒の長い車体は、富豪の象徴のようなものだ。実物を初めて見た裕仁は今まで乗って見たいと思っていたのだが、このようなシチュエーションでは乗りたくないと感じた。リムジンの放つ威圧感は圧倒的なものだ。彼女の言う“主”の持つ財政力を見せつけられている気分になる。この高級車は、社会的に圧倒的な地位にいるという証拠だ。そのような人物と、今から一介の高校生である裕仁は会うというのだ。頭痛がする。巳空と対峙する時とはまたベクトルの違った恐怖が芽生えていた。


だが、扉を開けて待つ彼女に急かされるような気がして、大人しくリムジンの中へと乗り込んだ。「おくつろぎください」と言われたが、その言葉の所為で余計に萎縮してしまう。


車窓にはカーテンがかかっており、外の様子は一切伺えない。もしかするとこのまま見知らぬ山奥へ連れ去られ、誰の目にもつかないように殺害されて捨てられる……なんて可能性も否めない。しかし、それならばこちらにも対抗手段がある。裕仁の持つ、12個の宝石ーーー。




しかし、そのような心配も杞憂に終わった。車が停止したかと思うと、扉が開いた。



「着きました。こちらへ、」



裕仁が降りると、其処はどうやら地下の駐車場のようだ。しかしコンクリート造りの殺風景な駐車場とは違い、全面が白塗りで清潔感のある空間だった。ここもまるで一つのオフィスのようだ。他にも数台の車が停めてあり、隅には観葉植物もある。海外映画で見たことがあるような洒落たガレージだ。


瑠璃川に促されるままに移動すると、エレベーターに着いた。本来ならば窮屈な箱型なのだが、こちらもまたスケールの違いというものが顕著に見られる。このエレベーターはガラス張りの円柱型となっており、相当な人数が乗り込める物だと分かる。エレベーターはみるみると上へ昇り続け、街の景色も小さくなってゆく。


そして到着したのは、どうやら最上階のようだ。彼女に案内されるがまま歩き続けると、とある一室の前にたどり着いた。瑠璃川はその扉に立つと、ノックを4回した。4回という回数が、この部屋の中にいる人物がどのような人間なのかを確信させてくれた。ノックには相手によって、または状況によって回数を変えるプロトコルマナーがある。2回のノックはトイレの開きを確認する時に、3回は親しい相手が部屋にいるかを確認する時に使用する。または、就職活動などの面接でのノックの回数だ。これは高校受験の時だが、面接練習の時に教員から教わった知識だ。そして、4回……この回数が意味するのは、目上の人物や、礼儀を重んじる相手に対する訪問。つまりは、この室内にいる人物。それこそがこの女性が“主”と呼ぶ存在であり、“運営者”……。


裕仁が扉を睨みつけていると、室内から「入りたまえ」という男性の低い声が届いた。瑠璃川は「失礼いたします」と一言口にしてから、その扉を丁寧に両手で開いた。






「よく来たね。」






黒色の革製のデューロンチェアーに凭れかかる初老の男性が、裕仁に優しく声をかけた。


髭は均等の長さに整えられ、髪も型が崩れぬように固めている。スーツは一切着崩さず、糸屑の欠片すら付着させてはいない。外見に一寸の綻びを宥恕せず、常に完璧を装っているようで、神経質な男なのは間違いない。彼の姿容には、些細な例外すらも紛れ込ませてはいなかった。


男性の前にある机の上も書類が分類ごとに束で整理され、必要最低限な仕事道具のみが並べられていた。簡素だが、決して何かが欠けている訳ではなく、無駄な物があるわけでもない。


これらの情報からある程度“彼”という人間性が想像できる。彼は並外れた意識の高い男性だ。それも、欠損も蛇足を望まぬ完璧主義者だ。そして………





「お前が………このゲームの首謀者か?」




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