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まだまだ暑い8月、私はこの時期が嫌いだ。

大きな布団にくるまって、出来るだけ小さく丸まって部屋の隅っこを占拠する冬場が恋しい。今はクーラー全開にしてダラダラと掛布も無く過ごす夏休みだ。そして手元にはゲームがあればもう何も怖くない。

そんな引きこもりみたいな私も、気が付けば高校二年生である。




「お姉ちゃん、お願いがあるの!!」

などと珍しい事を言いながら、我が妹が乱入してきた。





「すまん、私はゲームに忙しい」

「一生のお願いだから!! 正確に言うとこうちゃんのケーキあげるから!!」

「よし聞こう」

こうちゃんこと、神埼 浩輔は私たちの近所のお兄さんで、私より9歳も年上である。そんな彼は家業のケーキ屋さん(お店の名前はキャットテイル)を継いで、そのケーキたちは地元でも中々の人気を博している。



既にケーキとフォーク、ジュースを用意している辺りかなり重大な事らしい。

つい先日部屋に入り込んだ蝉を退治しろなどと言ってきた時にはクッキー一枚しかくれなかったのに。

まぁそれでもやったけどさ、セミ駆除。


そんな現金な姉にかしこまって何を言い出すのやら。むむ、こうちゃんまたケーキの腕前上げたな。このしっとりとしたチョコレートケーキ、まるでケーキの宝石箱-…「お姉ちゃんを題材にした小説書きたいの!!」



……は?



「…小説?」

私はケーキを食べる手を止めて妹を見据えた。


「勿論、名前とかは変えて書くから。お姉ちゃんを題材にした小説書きたいんだ」

ふむ…、私を題材とした小説となれば、コメディな話しか出てこない。

彼氏もいないし、こうしてダラダラしているのがデフォルトの私。だが中々のコメディアンな性格なので、そう考えるとやはりコメディな話になるだろう。


私は真剣に見つめる妹を見る。むしろ見た目可愛い系の妹を題材とした逆ハーものの恋愛書いた方が楽しいんじゃないかなぁ。





「うん、まぁいいよ」

「本当!? 良かった! でさでさ、書いた小説はサイトとかに載せたいんだ。でもそのサイト18禁なの」

「うんうん」「で、私が書いた話が18禁かどうか、投稿する前にお姉ちゃんがジャッジしてくれない?」

コメディな話に18禁も何もないと思ったが、もしかして血飛沫が舞うバトルマンガみたいな小説を書くのだろうか。




巻き起こる砂塵

吹き飛ぶ仲間たち

そして、『お前はもう死んでいる』とカッコ良く台詞を言う私。




中々じゃない。中々の超大作じゃない!?最後には妹がラスボスとなって出るだろう。



「グロく無かったら大丈夫だよ」

「うん、グロいのはちょっと軽めに書くよ。でもそれでもやっぱり心配で…」

「…まぁ、手伝ってやらん事もない」 

内心、私を題材にしたギャグバトルを見てみたいとも思うのだ。物語の中で私が敵を切ったりツッコミをいれたりする話。

運営の気持ちになって、ちゃんと妹の超大作をジャッジせねばなるまい(うずうず)。



「本当!?良かった~!じゃあ、今から書くから、多分新学期始まった位には見せに来るよ」

「おう、任しとけ。因みにキャストは?」

「今決めてるのはお姉ちゃんとお姉ちゃんのクラスメートとかかな」

ほう、中々のキャストだ。きっと隣の席の山田君はサイボーグとして出演するに違いない。

だって無愛想でほとんど顔の筋肉が動いたのを見たことないし。直立不動だし。昔の武士みたいな雰囲気だしね。

サイボーグとして出演した暁には、空港のあの金属を持っているか検査するゲートをくぐってビービー鳴らした後、首を傾げる山田君に、


「いやお前存在自体が金属やん」

とツッコミを入れて


「不覚ッ!!」

とか言ってその場に崩れ落ちて貰いたい。




「山田君とかいいと思うよ」

「分かる!!あの人とは鬼畜な話じゃなくてほのぼのとした話がいいよね!!」

分かっているではないか妹よ、見た目無愛想な彼だからこそ、ボケ担当に相応しい。彼にはほのぼのとボケて貰いたい。




こうして、管理人(私)と作者(妹)の関係が出来上がった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆




新学期とは、どうもこうして憂鬱なのか。暑さにバテつつも私は学校に歩く。



「おはよー、ねこちよ」

「はよー」

ちょうどその途中でクラスメートに出会った。斎藤 桜。そしてねこちよと呼ばれたのが私だ。

何故にねこちよかというと、猫田 千夜という名前だから、名字の猫を取ってねこちよと呼ばれる。なんて安易なネーミング!!



桜はチビの私より10センチ以上も身長がある。羨ましい程にその胸元は膨らんでいるし全くけしからん野郎である。



「久しぶりだね~。この前遊んで以来?」

「だね、学校に来るのはは実に1ヶ月ぶりだよ」

「やだな~勉強、宿題やった?」

などとたわいもない会話をしながら教室へ入る。

そこにはほとんどのクラスメートが揃っていた。




「おはよ、山田君」

「……ああ」

隣の席の山田 龍生君に話しかける。武士な彼は応答も渋い。「俺と(ジャンケンで)勝負しよう」などと言われたらもう頭に浮かぶのは吹き荒れる野原で真剣を使った真剣勝負しか頭に浮かんで来ない。

ダジャレじゃない。ダジャレじゃないよ。




「ねこちーおはよ~!!」

「おはよー広樹」

そしてもう一人、小学校からの腐れ縁の小林 広樹が話しかけてきた。茶髪に染められた癖のある髪に、猫目の彼は、クラスのムードメーカーでもあるのだ。クルクルとよく笑う彼と山田君は正反対に感じるが、これがまた不思議に仲がいい。

彼は山田君の前の席を後ろに向けて座った。


するとさっきまで一緒だった桜も現れ、広樹の横、私の前の席に座り込む。



「ねこちー宿題やった?俺英語以外やってない」

「馬鹿だな広樹、私は英語以外は完璧だ」

「まじで!?じゃあトレードしよトレード!!」

広樹はいそいそと鞄を取りに行こうとするが、優等生で真面目な桜に怒られる。



「あんたちゃんと勉強しなさいよ」

「えー」

「えーじゃないわよ。ねこちよも」

「桜は優等生だから分かるんだよ。山田君だって宿題の一つや二つ位やっていない教科あるよね?」

「いや、全部やってきた」

「「なん…だと…!?」」

おののく私と広樹。優等生の桜以外にも、宿題全部やってくる人がいるとは…!



「ほらみなさい。あんたら2人して先生に怒られればいいのよ」

「ひ、酷い桜!! 私の英語が壊滅的な事知ってる癖に!!」

「だからってやらなくていいわけじゃないの」



と、そうこうしている内に担任がやってきてしまう。



その後、私はしょうがなしに体育館へ行き、生徒会長の挨拶を聞き流し、先生の話も聞き流し、嬉々として下校した。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆


新学期1日目は半日で終わる。さぁゲームだと思ったら、まさかの妹が乱入だ。



「お姉ちゃん、小説出来たよ!!」

とノートパソコンを差し出してくる。妹はPC派らしい。

因みに、彼女も同じ学校の一年生なので、私とのスケジュールはほぼ一緒である。




「初めてだから、今日はショートストーリーにしようと思って」

「へぇ」

「お姉ちゃんと山田先輩を出してみた!」

山田君か、さぞ楽しいコメディーとなっているに違いない。

私はPCへと目を向けた。








~見つめる先には~




彼は物静かな人だ。大騒ぎするような人柄ではない。だけど、どうしてこんなにも彼を見てしまうのだろうか。今だってそうだ。


「ナイシュー龍生!」

「あぁ」

体育のバスケの授業中、シュートを決めた山田君がクラスメートと会話する姿をぼんやり見つめる。



彼、山田 龍生君はクラスの中心に立つような人ではない。滅多に笑わないし口数も少ない。家が剣道の道場らしくて、たしかにそんな渋い雰囲気を醸し出している。


鋭い眼光に短い黒髪。

180cm位はありそうな体は程よく筋肉がついている。



ちいさっき、彼がシュートを決めて、走り出す彼を目で追って、



「ねこちよ、また山田君見てる」

そんな友達の声に飛び上がった。慌てて振り向いてみれば、友達の桜がこっちをニヤニヤと見つめていた。その目は完全に私をからかう気満々のようだ。



「な、何言って」

「また山田君見てたでしょ?」

「違うよ!!私はね、ほら、男子のバスケはやっぱり凄いなぁって!!」

「えー本当かな~」

否定しても彼女のニヤニヤは終わらない。きっと何を言っても聞いてはくれないだろう。

私は精一杯の抵抗として顔を明後日の方向に向けた。



だって、分からないのだ。

まるで好きな人を目で追っているように見えるかも知れない。だけど、私と山田君はそこまで接点がある訳ではない。名前だって、私は『山田君』と呼び、彼は私の名字である『猫田』と呼ぶ。



それに、タイプって程でもない。

私のタイプはよく笑って一緒にいて楽しい人で、つまり山田君はタイプじゃないわけで。

なのに、何で目で追ってしまうのか。そんな事、私が知りたかった。

私のチームは休憩中なのでコートの隅っこでうずくまった。






と、そこまで読んで私は顔を上げた。

キラキラした顔の妹を見つめ、



「私の王道ファンタジー超大作は!?!」

そう叫んだ。



「は?何行ってんのお姉ちゃん。私が書きたいのは恋愛小説だよ」

「えぇ!?私ずっとコメディーな話書くとばかり思ってたのに!」

「違うよお姉ちゃん!私が恋愛小説以外書くとでも!?」

えぇ、詐欺だ!せっかくサイボーグ化した山田君とかにツッコミを入れるシーンを読みたかったのに!!


やる気を無くした私に気付いて、妹がギロリと私を見つめた。



「まさか、もうヤダなんて言わないよね?せっかくこうちゃんのケーキ、一番高いやつあげたんだから」

「だ、だからあんなに上手かったのか……。分かったよ、好きにすれば」

ちょっと妹によるクラスメートとの恋愛妄想は気が引けるというか、こう、あまり見たい物ではないが、約束してしまったからにはしょうがない。



「ほら、山田先輩とのほのぼのだよ?」

「あ~、うん」

その後の展開を軽く読み流す。

その後の展開は、私は保健室に行って手当てしてもらい、なんかよく分からないが山田君と帰り道一緒になった時に頭撫で撫でされ、恋の自覚をする、というなんとも甘酸っぱいお話だった。

青春だねー(棒)




「どう?18禁引っかからないよね?」

「いいんじゃない?セーフセーフ」

「だよね、良かったー」

多少は心配していたのか、妹はほっと胸を撫で下ろした。



「じゃ、じゃあさ、ちょっと別の作品で、書き途中のがあるんだけど、ある一つの章がちょっと微妙なの。

いけない所教えて欲しいから、これも読んでみて!!」

そう言うや否や妹はパソコンを操作して、違う小説を開いた。



ん~と、何々…?




……

………で、彼は手錠を握り締めた。



「や、やだ、止めて桐生君…」

「それは無理な話かなぁ」

震える私の腕を取り、鈍色の手錠をはめられた。

嬉しそうに微笑んだ彼は、私の体をベッドへと沈めさせる。



「ちよちゃん、また他の男と喋ってたでしょ。僕が嫉妬深いって知ってる筈なのに…。だから、お仕置きだよ」

綺麗すぎる顔は微笑んでいるのに、凄く怖くて喉がヒクリと動いた。

彼の白魚のような美しい手が服の隙間から侵入する。



「あぁ、やだよ桐生君やだぁ!!」

「駄目。今日は泣いても許さないから」

それだけ言って、彼は私の服全てを剥ぎ取り無理やり私の蜜壺をあい(ry




「はいアウトー。この小説アウトー。18禁指定ー」

「えぇ、何で!!」



むしろ何で大丈夫だと思った。







その後を見てみるが私とクラスメートの桐生 燐君によるめくるめく官能世界が広がっていた。



だ、誰だこんな物書いた奴!ええい焼き払え!!このようないかがわしい腐海など焼き払え!!

私の右腕がその命令に答える、サーイエッサー!とばかりにデリートボタンを押しまくる。

うおぉ唸れ右腕!!



「あー!!何してんの!!」

と、途中で妹にパソコンを奪われてしまった。クッ……!!やはり巨○兵が必要だったか。



「ふん、消されてもちゃんと予備とってあるし。お姉ちゃんのバーカ」

「小賢しい!ていうかね、桐生君は手錠かける人じゃないから、みんなに優しい神の遣いなんだから彼は」



桐生 燐君は、名前こそ日本語だがフランス人と日本人のハーフさんだ。

サラサラの金髪の髪に透き通るような青い瞳。身長180ありつつ細マッチョでとにかく人気者の彼だが、誰にでも優しい。そんな天使さんなのだ。



だが、妹は『こいつ何も分かってない』とばかりに首を横に振った。



「面では優しい王子様で裏が非情で鬼畜なヤンデレってのが萌えるんじゃない!!」

わ~お、桐生君ヤンデレ指定されてる。




その後も、いかに桐生君がヤンデレであったら生じるだろうメリットについて延々と説明された。

運営の大変さが分かった気がする。



結局、山田君と私のほのぼの作品(名前は変更)だけが、サイトへと載ることになった。




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