1話 石倉遥という男
これから毎日17時辺りに投稿したいと思っています!
稚拙な文ではありますが読んでいただけると幸いです。
あとタイトルは「歪しい人の愛し方」と書いていますが「ただしいひとのあいしかた」と読みます!
『本当に大切なことは目には見えない』
このセリフはあまりにも有名であり、原文を知らない人や原作を読んだ事がない人までもがこの言葉、そしてそれの秘める意味を知っているだろう。無論、人によって解釈は分かれるだろうが大まかな部分では皆同じような解釈に纏まっていると思う。
要するに肝心なコトや大切なモノは目で見ようとするのではなく心で見ろという事だ。『考えるな、感じろ。』という有難い名言である。
俺──石倉遥はこの言葉を小学生の時に初めて聞いた時はそれはそれは深い言葉でなんて素晴らしいのだと思っていた。
実際、今でもこの言葉自体は一言で纏められているものの考える余地が残されている為名言であることに違いは無いのだと思う。
だが、同時に思うのだ。
目に見えないのならばどうやって守るのだ。どうやって大切なモノを守ればよかったのか。目に見えないモノを守る方法を知らない人間にとっては、この言葉はあまりに残酷すぎたのだ。無力な人間にとってはこれは道標であると同時に身体中に絡みつく枷と成り果てていた。
あの時、俺が動けていれば…。あの時俺が一言でも声をかけてれば…。
そんな後悔が今でも思考を支配し身体の軛と化している。
同じ過ちを繰り返さないよう、俺はこの問いに対して答えを出す必要がある。答えが出る問なのかどうかは分からないが自分なりの答えを出しておかなければまた大切なモノを失ってしまう。それだけは避けなければいけない。
そう心に誓いながら隣で歩く少女に目を遣った。
すると向こうもこちらを見ていたのか目がバッチリと合う。
「ハル君、なんか顔色悪いよ?どしたのさ」
駒場台高校の入学式終わりの真っ昼間、俺達2人は校門前に続く私道を歩いていた。
明るい声の彼女──佐々木那都の風貌は世間一般で見たらかなり可愛い端正な顔立ちをしており、雪を欺くかのような純白色の髪色をしている珍しさもあってか俺が知っている彼女は周囲から良い意味で浮いていた。
彼女は端的に言うならばとても顔が良く性格も人間らしい。完璧超人に見えて少し抜けているというのも含めて彼女の人気の要因なのだろうと思う。
オタクに優しいギャルというよりかは皆に優しい多趣味で陽気な女子、と言ったところか。
「え?そんな顔してた?目つき悪いからなのかなぁ、俺細目だし」
幼い頃から自然体で居ると目がそこまで開かなく、第一印象として「怖い」「悪態をついてきそう」「ひねくれてそう」というイメージを持たれたり言われる事が多々ある。最初の2つはまだ分かるが最後1つに関してはギリ誹謗中傷だろ……。
第一印象が悪くてもその後の会話を通して修正すれば良いじゃないか。と思われる事もあるのだが、第一印象というのは思った以上に大事なものだ。実際問題、素の状態の俺は目つきが怖いから近付きたくないと言われ続けてきた。
一部の物好きを除けばこの目つきは近付き難さを醸し出しているのだろう。
なので、俺は人と話す時だけでも目を開くようにして第一印象を極力悪くさせないように心がけている。
「いやいや、ハル君の目つきの悪さなんて今更気にならないって。寧ろ長年の付き合いがあるとそこがチャームポイントなんだよ。分かってないな〜」
長年の付き合いがあると言っても俺とこの物好きな少女が仲良くなったのは小学5年生の夏休みが始まるくらいからなので4年と9ヶ月。つまり5年弱くらいだ。
チャームポイントとかは要らないけどこういうナツのような物好きにとってはそうなのだろう。
そんな事を考えていると、楽しそうにけらけらと笑いながら話していた彼女は、こちらを見つめながら表情を真剣な顔付きに戻し口を開いた。
「私が言いたいのはね、そういう事じゃないの。ハル君は気が付いてないかもだけどそういう顔をする時って大体は苦い物を食べた時か辛い事を思い出してる時だけなんだよ?」
「まじか、そんな顔に出てるのか。じゃあ……苦い物でも食べたのかもな。ナツでも見逃すくらいの速度で」
「確かに普通の人ならそれは可能性としてはあるかも」
その言い方だとナツは普通の人間じゃないのか……。
話を逸らそうと試みはしたがそんな事はお見通しかのように、ナツはてとてとと小走りで俺の前に回り込んで進行方向に立ち塞がる。
「でも、私がハル君の挙動を見逃すとでも?甘いね。甘すぎるよ。甘ちゃんだよ。うまかっちゃんの黒豚とんこつくらい甘いよ」
「あー、絶妙なところを突いてくるな……。確かにあれはちょっとスープが甘いがそれがアクセントというかそれが美味いんだよな。俺は好きだぞ」
多分普通はこういう例を出す時は甘納豆とか砂糖とかを挙げる。
しかし彼女が別の選択肢を取ったという事は、それは彼女なりの気遣いの形なのだろう。
そういうちょっと変な所も含めてとても可愛げがあると思う。
「それは分かるけど私はもっとガツンと来る塩味が欲しいんだよね。だからデフォルトのやつが一番好き。王道が一番なんだよ、結局。そこに辣油を少し垂らすのが私の結論構成かな」
「あー……美味そう。確かにそれは俺も好きだわ。あ、そういえば昔ナツの家に行ったらそれ出された気がするんだよな。あの時は辛くてめっちゃ噎せたけど今なら好きな味かも」
「でしょでしょ〜。ハル君の好みには詳しいんだから──ってそうじゃない!」
前に立つ彼女は突如両手を俺の肩に伸ばした。
「ど、どうした?ラーメンでも食べたくなった?それなら帰りに久しぶりに行く?」
確かに最近はあんまり食べてなかったので今日くらいはアリかもしれない。なんならラーメンの腹になってきた気がするぞ!
「それは賛成だし私も行くけどそうじゃないよ。ハル君が何か辛い事を思い出してたからそれが何なのかって話。上手く逸らそれちゃったじゃん」
前言撤回。別に気遣ってくれていた訳ではないらしい。確かにちょっとズレてる所もそれはそれでナツっぽくはあるが。
「だから何も考えてないって。今日から高校生なんだなって考えてたら少し昔の事を思い出しただけだ。だから気にしないで大丈夫」
「昔……。それってさ……ハル君のお姉さんの事だったりする?」
そう言ったナツは少し間を空けて話を続けた。
「そっか。その事なら言わないでも大丈夫だよ。ハル君に辛い思いをさせたい訳じゃないし。ただ辛い事があるならちゃんと話して欲しかったってだけ」
俺は何も言えなかったが、顔が図星だと言っていたのだろう。ナツは何かを察したかのように慈しむような声色で言った。
「そうか。心配させてごめんな……。今度話すから」
空気を重くしてしまった事を猛省しつつ、俺に出来ることは謝る事と釈明する事だけだという無力感が心を縛っていた。
そんな様子を見たのか、ナツはくるりと身体を半回転させて歩き出した。
「違うよ、ハル君。ハル君の話したい時に話してくれればいいんだよ。ハル君が私に話したいって思った時に話してくれれば私は大丈夫なの。それまで待ってるからさ、何年でも」
彼女の歩きは先程とは打って変わってやや速いものになっていたので、俺は追い付くだけで精一杯だった。
ナツの表情は見えないが、後ろ姿の纏う雰囲気は何処か寂しいものに思える。
「……ありがとな」
言うと、ナツは早歩きだった足の速度を緩めて俺と歩調を合わせた。
どうかしたのだろうかと彼女の表情を窺うと、それは元のとても柔らかく温かみのある笑顔に戻っていた。
「よし!重い空気はここでお終い!早くラーメン食べに行こ!麺が伸びちゃう!」
「まだ注文どころか店すら決めてないだろ」
こういう時に彼女の朗らかな笑顔と明るい雰囲気を見ているといつも心が浄化される。なんかこう、言い表せない安心感があるのだ。
今の表情のままだと空気を変えようとする彼女の対応に失礼なので、俺は必死に悪い考えを端に追いやり、思考と気持ちを切り替えた。
「そうだな。ここら辺はめぼしい場所無いしぁ。……それじゃ、横浜で食べるか」
俺が明日から通う私立駒場台高校は渋谷にほど近い場所に位置しており、立地と偏差値共に良い学校と言えるだろう。駒場台高校は全国で見ても最上位辺りに数えられる程の進学校であり毎年最上位国立大学の合格者を多数輩出している。
最寄り駅は駒場東大前駅か池尻大橋駅なのだが、あまり良さげなラーメン屋が事前調査の段階だと見つけられなかった。勿論探せばあるのだろうが、今それをやるほど腹と思考に余裕は無い。今度ここら辺を探索してみるのもアリだな。
「そうしよ!今からここら辺で見つけると時間かかっちゃうし、横浜なら帰り道の途中に色々あるし。もうお腹ペコペコで死んじゃうよ〜」
俺とナツは2人とも横浜駅周辺に住んでいて、ナツの家は俺の家から徒歩10分くらいの場所にあるため一応ご近所さんではある。
「よし、そうと決まればとりあえず帰るか」
俺達はとりあえず横浜のラーメン屋に向かうという事だけを決めて池尻大橋駅へ向かった。
帰り道、春風が真正面から吹いてきて髪が酷い様になったが元から寝癖気味ではあるので天パがオールバックになったくらいの差異でしかなかった。
だいぶ違うな。
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