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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第二章 ガルディア救出編

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第三十八話 信頼の行方

 ガルディア東門を抜け、しばらく歩いた。


 昨日も通ったはずの平野なのに、調査しに来たと思うだけで、まるで違う場所に見えた。


「どっちに行きましょうか」


 丘の上で足を止めると、ファラさんが隣に並んだ。


「フライさんの調査ですので」


 緑髪を揺らして、辺りを見回す。


「行きたい方向へ、どうぞ」


「じゃあ──」


 僕は、一度遠くの地平線を見渡してから、器に声をかけた。


(クロープ)


(強い気配を、徒歩半日圏内で探れるかな)


(んー……)


 のんびりした声が返ってくる。


(広いから、ちょっと待っててねー……ZZZ)


「フライさんって」


 不意に、横から声が飛んできた。


「いっつもボケー……」


 ファラが、じっとフライの顔を覗き込む。


「……じゃなくって」


 慌てて言い直した。


「時々、何か止まってる感じの時ありますよね?」


「へっ」


 僕は思わず変な声が出た。


「あー、その」


 焦って、言い訳を探す。


「ちょっと、頭の中で色々考えてて……」


 危うく心の中の言葉を、口に出しそうになる。


「ふーん」


 ファラさんが、じとっとした目になる。


「な、何でもないですよ」


(変なところ鋭いな、ファラさんは)


(ぼろ出さないように気をつけてね)


 パンが笑いながら言った。


⸻


(フライ)


 パディットが声をかけてきた。


(お願いがある……)


(もし赤目が出たら)


 少し間を置いて──


(戦いたい)


 思わず足を止めかけた。


(でも、ファラさんが見てるよ)


(分かってる)


 パディットは、それでも譲らなかった。


(分かってるけど)


(赤目の件で、オレは黙っていられない)


(あの時──)


 かつての記憶が蘇る。


 制御できないほど膨れ上がった力。


 頭の中を埋め尽くす破壊衝動。


 血の匂い。


(下手したら、オレは死んでいた)


(フライと出会わなかったら)


(今頃……)


 そこから先は、言葉にならなかった。


(でも、テイムバンクを見られるわけには……)


 ぎゅっと拳を握る。


(ホルスさんが聞いたら、激怒して、呆れて、それから──)


 言いかけたところで、パンが冷静に言う。


(パディットの言ってることも分かるよ)


(いつも冷静なパディットが、ここまで言うのは珍しい)


(私としても)


 ネールが、静かな声で言う。


(パディットの意見を尊重したく思う)


 その時──


「まただ!」


 現実の方で、ファラさんが叫んだ。


「フライさん?」


「だ、大丈夫!」


 慌てて顔を上げる。


「行こうか!」


「……あ、や、し、い」


 ファラさんは、さらに怪しさを募らせた表情で、じーっと僕を見つめた。


⸻


 歩きながらも、器の中で会話は続いていた。


(ファラなら)


 パディットが、ぽつりと言う。


(信用できる)


(王サイドには関係ないし、誰にも言いふらさないと思う)


(でも、リスクがでかすぎるよ)


(ガルディアの中心で、テイムのことがバレたら、ただの変わったテイマーじゃ済まない)


 パディットは、それでも譲らない。


(それでも頼みたい)


(気持ちはわかるけど)


 ムーは、何も言わず、ローブの中で小さく丸くなっていた。


(でもねパディット……)


 僕が、そこまで考えた、その瞬間だった。


(……ぷはっ!)


 僕のローブから、変な音がした。


「え?」


 と思う間もなく──


(のんっ!)


 僕のローブの中から、ぽよん、と何かが飛び出した。


「ムー!?」


 顔が真っ青になった。


「うわっ!」


 隣のファラさんが、反射的に叫ぶ。


「スライムですよ!」


 ファラさんは素早くローブの裾をつまみ、いつでも杖を抜けるような体勢になった。


「どこから出てきました!?」


「し、しょうがないです」


 ファラさんは勢いのままに、杖の柄に手を伸ばす。


「強敵ですが、戦いますよ!」


「ま、待って!」


 僕が慌てて手を伸ばした瞬間。


 ムーは、ぴょん、とフライの足元に着地すると──


(のん)


 と言いながら、フライの足にぷにぷにと頬ずりした。


 それから、そのままぴょんと跳ねて、僕の肩に当たり前みたいな顔で乗った。


「……え?」


 ファラさんが、絶句した。


「フ、フライさん危ないです!」


「スライムですよ!?」


 ファラさんが叫びながら、半歩前に出る。


「違います!」


 僕は、慌てて手を振った。


「ファラさん、違うんです!」


「あの、その……なんというか……」


 言葉が喉でつっかえる。


「このスライムは、仲間なんです!」


「……は?」


 ファラさんが、完全に止まった。


「何を、訳分かんないこと言ってるんですか!」


 そう言いつつも、どう見てもさっきからこのスライムは僕に懐いている。


 攻撃する気配は、まったくない。


 むしろ、楽しそうに肩の上で、ぷるぷる揺れている。


「へ?」


 ファラさんが、眉をひそめた。


「ま、まさか」


「本当に……ですか?」


「……です」


 観念したように肩を落とした。


「えっと」


 深呼吸をひとつ。


「スライムの、ムーです」


(のん!)


 ムーが、頭の上で元気よく跳ねる。


「絶対、内緒ですよ!」


 慌てて付け足した。


「そ……」


 ファラさんが一泊おいて。


「そんなこと……」


「い、言えるわけないじゃないですか!」


「た、い、へ、ん、なことになります!」


 ファラが、半泣きみたいな顔で叫ぶ。


「というかモンスターが仲間とか、おかしいし変……」


 そこで、はっと口を押さえた。


「いや、おかしいし変です!」


「僕、ちょっと変わったテイマーなんです」


 恐る恐る言った。


「いやいやいや」


 ファラが、両手と頭をぶんぶん振る。


「変わってるとかで済む話じゃないです!」


 ムーはというと、ファラの混乱なんてどこ吹く風とばかりに、僕の頭の上でぴょんぴょん跳ねていた。


(ムー)


 パディットが、小さく笑う。


(ありがとうな)


(ムーは、外に出てみたかっただけなのん)


 僕は、ため息をつく。


(わかったよ……)


(僕がなんとかするよ)


(ムーには、してやられたよ)


⸻


「謎が解けました」


 ファラが、ふいに真面目な声で言った。


「謎?」


「ホルスさんほどの剣術の使い手が負傷しても」


 ファラさんは、僕をまっすぐ見た。


「平野を街道も使わずに抜けて、ここまでたどり着けた理由です」


「……」


 何も言えなかった。


「ちなみに」


 自分で自分の首を絞めにいくような気分になりながらも、続ける。


「仲間は、これだけじゃないんです」


「このスライムさんしか、見当たりませんが?」


 ファラさんが、きょろきょろと辺りを見回す。


「驚かないでくださいね?」


「無理です……」


 ファラさんが、力なく言った。


「いえ」


 小さく深呼吸をする。


「なるべく、頑張って驚かないように努力します」


「じゃあ」


 器に意識を向け魔力を流す。


「〈〈テイムバンク〉〉」


 足元に、白い魔法陣がふわりと広がった。


 光が立ちのぼり、その中心からしなやかな影が姿を現す。


 灰色の毛並みに、ところどころ白い模様。


 鋭い牙と爪、しなやかな脚と筋肉。


「……っ!?」


 ファラさんの喉から、変な音が漏れた。


「キラー、ウルフ……」


 呟きにもならない声。


 それからすぐ──


「えええええええーーーーーー!?」


 悲鳴が、平野に響き渡った。


 ファラさんが、涙目で叫ぶ。


「キラーウルフ!?」


「だ、大丈夫です!」


 僕は、慌ててパディットの首元に手を置く。


「仲間です!」


「名前は、パディット」


 パディットは、ファラさんに向き直って、静かに頭を下げた。


「……もう、何でもありなんですね」


 ファラが、空を仰いだ。


(ファラの頭が、オーバーヒートするのん)


 ムーが、僕の頭の上でぷるぷる震える。


 ファラさんは、頭をぶんぶん振った。


「ちょっと、整理しますね……」


 目を閉じて、一度深呼吸。


「……できませんでした」


「ごめん」


 僕は、申し訳なさでいっぱいになりながら口を開いた。


「驚かせてばっかりで、本当にごめん」


「でも、事情があるんだ」


「今は言えないけれど──」


 ぎゅっと拳を握る。


「信じてほしい」


 ファラさんは、しばらく黙っていた。


 やがて、ゆっくりと口を開いた。


「正直すぐには信じられないですが……」


「フライさんの人柄は、知ってます」


「優しくて、勇敢で、何より、命を重んじる」


「そこを、信用することにしました」


 ファラさんが、少しだけ肩をすくめる。


「助かるよ」


 僕は苦笑した。


(とにかく、赤目を探そう)


 パディットが、静かに言う。


(クロープ)


 パンが呼びかける。


(この辺りは?)


(んー……)


 眠たそうな声が返ってきた。


(さっきから、嫌な感じはあるねー……)


(どこか分かるかな)


(川辺の方だねー……)


 クロープが、地形のイメージを送ってくる。


(徒歩で二時間ほどかなぁ……ZZZ)


「ファラさん」


 俯いていた顔を上げた。


「この辺りに、水場ってありますか?」


「水場?」


 ファラさんが周りを見回してから、指を西の方角へ向ける。


「西に行くとあると思いますよ」


「来る時に、休憩した川辺の上流になるかな」


「そこまで、偵察に行きます」


 僕ははっきりと言った。


「大丈夫ですか」


「今さら、大丈夫も何もないですよ」


 ファラさんが、肩を落としながら笑う。


「いいですよ、分かりましたよ」


「行きましょう」


 そう言ってファラさんは、パディットとムー、そして僕の隣に並んだ。


⸻


 平野の草が、揺れる。


 パディットは、僕の少し前を歩きながら、時々匂いを嗅いでいた。


 ムーは僕の頭の上で、左右に小さく揺れながら周囲を見回している。


 ファラさんは、その二匹をちらちら眺めながら、時々自分の頬をつねっていた。


「……痛い」


 ファラさんが、半分諦めたようにため息をつく。


「フライさん」


「はい?」


「落ち着いたら」


「どういう経緯で、こうなったのか教えてくださいね」


「わかりました」


 僕は小さく笑って頷いた。


 西に少し傾き始めた太陽が、影を長く伸ばしていく。


 僕の胸の中には、ひとつだけはっきりしていることがあった。


(信じてくれた人には、ちゃんと向き合わないと)


 そう思い川辺へと歩いていく。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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