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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第二章 ガルディア救出編

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第三十七話 平野の噂

 翌朝。


 ガルディアの宿の小さな窓から差し込む光で目を覚ました。


 顔を洗い、運ばれた朝食を食べ、身支度を済ませる。


(ムー、行こうか)


(何か気がついたことがったら教えてね)


 するとムーが器から返事をする。


(行くのん)


(フライに周りのこと伝えるのん)


 ムーはスルスルとローブの中に入った。


 僕はただの、新人ハンターとしてギルドに様子を見に行く。


 できればファラさんから、今のギルドのことを聞く。


 やることを確認すると、僕は宿の外に出た。


⸻


 宿を出て、大通りへと出る。


 朝のガルディアは、すでに忙しい。


 城へ向かう兵士の列。


 荷物を抱えた商人。


 治療所の方へ急ぐ人。


 その流れを横目に見ながら、僕は東側の区画へと足を向けた。


 ハンターギルドは、東の交易区の外れにあると、門兵が教えてくれていた。


(あれかな?)


 少し歩いた先に、ひときわ目立つ建物が見えた。


 三階建ての大きな石造りの建物。


 入口の上には、交差した剣と盾の紋章。


 その横に、ガルディア・ハンターギルド本部と刻まれている。


 周囲には、武具を身に着けた人たちが何人か出入りしていた。


(村の詰所とは、全然違う)


 村のハンター詰所は、半分は雑談の場みたいな、ゆるい空間だった。


 ここは、入口付近の空気からして違う。


 大型モンスターが出るからだろうか、薄い緊張みたいなものが常にある。


(……行こう)


 僕は、小さく息を吐いて、扉を押した。


⸻


 中は、かなり広かった。


 受付カウンター。


 依頼掲示板。


 奥には簡易な食事も出す、酒場スペース。


 人数だけ見れば賑わっているのに、どこか戦場の控え室みたいな雰囲気があった。


 まず受付へと向かう。


「いらっしゃいませ」


 カウンターの向こうにいた女性が、手元の帳簿から顔を上げる。


「他所からいらした、ハンターさんですか?」


「あ、はい」


「通行証はお持ちですか?」


 女性が、穏やかな口調で続ける。


「そちらにハンターの印を打ちますので、通行書をお持ちならお出しください」


「あ、持ってます」


 僕は、ホルスさんから預かった通行証をそっと差し出した。


 受付の女性は、それを確認すると、カウンター下からひとつのスタンプを取り出した。


「では、こちらに判を押させてもらいますね」


 ドン、と少し重みのある音がして、通行証の隅に新しい紋章が刻まれた。


 剣と盾の印、その下に小さく、ガルディア・ハンターギルドと文字がある。


「これで、ガルディアのハンターギルドが発行する依頼と賞金を受け取ることができます」


 受付の女性が、通行証を返しながら言う。


「依頼の一覧は、そちらの掲示板に張り出してありますので、ご確認ください」


 指さした先には、広い板にびっしりと紙が張られていた。


「危険度の目安も記載してあります」


「基本的には、どんな依頼でも受けていただけますが──」


 そこで、女性は少しだけ真剣な表情になる。


「今は、平野の危険度が上がっています」


「ご自身の実力に見合った依頼を、お受けください」


「分かりました」


 僕は、素直に頭を下げた。


「ありがとうございます」


「では以上になります」


 受付の女性は、短く会釈する。


「ご武運をお祈りします」


⸻


(一旦、依頼を見てみるか)


 掲示板へと向かった。


 紙には、それぞれ「依頼内容」「討伐対象」「危険度」「報酬」などが書かれている。


(危険度S……A……)


 上から順番に見ていく。


 目立つのは、「大型討伐」「群れの殲滅」「平野の掃討」など、物騒な文字ばかり。


 小さな雑用や荷物運びの依頼もあることはあるが、その多くにはすでに受付終了の印が押されていた。


(トックの兵士が言っていた通り、大型依頼が多い)


(絶対勝てる依頼は減って、危険だけど儲かる依頼ばかりが残ってる)


(ほう)


 器の中でネールが興味を示す。


(これが討伐依頼か)


(モンスターが、ぞろぞろと並んでいるな)


(腕が鳴るな)


(ネールさん)


 僕は、心の中で苦笑した。


(あまり目立てないから、今のところ出番はなし、です)


(……承知)


 ネールが、少し残念そうな気配を出す。


(それよりアルミ村のこと頼みましたよ、あと、あんまり遠くまで行かないでください)


(……承知)


 そうやって掲示板の前で考え込んでいた時だった。


「平野のモンスター、強すぎるよな」


 耳に飛び込んできたのは、少し疲れたようなハンターの声。


 隣の方で、二人のハンターが紙コップを片手に話していた。


「無理だろ、あんなの」


「普通に自殺行為だ」


「しかも」


 最初に話していた方が、声を落とした。


「また、出たらしいぞ」


「……また?」


「赤目だってよ」


 僕は、心臓がドクンと跳ねた。


「強個体か……」


 もう一人が、苦い顔をする。


「こりゃいよいよ、ガルディアも厳しいな」


「いっそ移動して、他所で討伐した方がよくないか」


「賛成だな」


(今、赤目って……)


 思わず足を止める。


(やはりこっちの方に出ているのか、赤目……)


 器の中で、パディットがたまらず声をかけてきた。


(もう少し情報が欲しい、あのハンター達に話を聞けないか?)


 僕は二人の方へと歩み寄った。


「あの、すみません」


「お?」


 ハンターの一人が、僕の方を見る。


「どうしたんだ?」


「さっきの、その……」


 言葉を選びながら、続けた。


「赤目って」


「ああ」


 ハンターは、ため息をつきながら説明をはじめた。


「ここ一ヶ月くらい前の話だ」


「あるベテランハンターが、大型討伐に出かけたんだとよ」


「大型のキマイラ……のはずだったんだが」


 そこで、少し顔をしかめる。


「見た目は似てるのに、狂ったみたいに凶暴な個体がいたらしい」


「戦闘を試みたが、叶わず、命からがらトックに逃げ込んだそうだ」


「それで、噂によると、目が真っ赤だったってよ」


「噂には聞いていたけど、実在するとはな」


 最初のハンターが、吐き捨てるように言った。


「そんなのが何体も平野を彷徨いてたら、この辺も終わりだよ」


「平野に討伐に行くなら、お前も気をつけて行けよ」


 もう一人が、僕の肩をぽんと叩いた。


「この辺りは、そうじゃなくても強いモンスターが多いからな」


「……はい」


 深く頭を下げた。


「教えてくださって、ありがとうございます」


 ハンターたちは、「おう」とだけ言って、また依頼板の方へ戻っていった。


(赤目……)


 胸の奥がざわざわとした。


(ガルディアで赤目が出てる)


(ハンターギルドの資金が減って、大型討伐が増えてる)


(王都は通行証制になって、他所から来る人を警戒してる)


(そこに赤目)


(全部、どこかで繋がってる気がする)


 そのときだった。


「あっ!」


 聞き覚えのある、少しおっとりした声。


「フライさん!」


 振り返ると、緑髪を揺らしたファラさんが、受付の方から歩いてきていた。


「やあ、ファラさん」


 僕は、自然と笑顔になる。


「依頼ですか?」


 ファラさんが、興味津々といった顔で依頼板を見上げる。


「ガルディアまで来たってことは、フライさんも討伐しに来たってことですよね?」


 僕は言葉を選ぶ。


「平野に、少し気になることがあって」


「軽い偵察に、行こうと思ってます」


「……一人で、ですか?」


 ファラさんの笑顔が、すっと消えた。


「ダメですよ」


 きっぱりと言う。


「そんな、弱そうな──」


 言いかけて、慌てて口を押さえた。


「おほん……間違えました」


「今の平野に一人で行くなんてダメです」


「ちょっと見にいくだけですし、大丈夫ですよ」


 なんとか笑ってみせる。


 そして、器に声を送る。


(大型とか赤目の気配が近くなったら、すぐ教えて)


(わかったのん)


 ムーが、小さく頷いた。


 ファラさんは、一歩詰め寄る。


「とにかく、ダ・メ・で・す!」


「行くなら、パーティーを組むこと」


「絶対条件です!」


(パーティー組んで牧場の仲間を出すのはまずい)


 ちらりと周囲を見る。


(テイムを使うのは、さすがにまずいのん)


 ムーも、そっと言った。


(パディット)


 器の中で呼びかける。


(どう思う?)


 パディットは、しばし黙ってから答えた。


(もし、誰かが意図的にやってるなら、それを突き止めたい)


「……調査だけ、です」


 僕は、ファラさんの目を見る。


「確かめに行くだけ」


 言葉を継ぐ。


「でも、パーティーは組めません」


 ごくりと唾を飲み込む。


「もし、よかったら」


「ファラさんが、一緒に来てくれませんか?」


「……え?」


 ファラさんが、目を丸くした。


「雇用費は、ちゃんと払います」


 そう言って、僕は腰の小袋に手を当てる。


(危ない目には絶対に合わせない、いざとなったら……)


 ファラさんは、しばらく僕をじっと見つめていた。


「どうしても、行くんですか?」


「どうしても、です」


 はっきりと言った。


「止められても、きっと一人で行きます」


「……はぁ」


 ファラさんが、大きくため息をついた。


「分かりました」


 ゆっくりと、頷く。


「私も、行きます」


「ただし」


 指を一本立てた。


「絶対無茶しない」


「これが誓えるなら一緒に行きましょう」


「はい!」


 僕は、強く頷いた。


「よろしくお願いします」


(いいの?)


 器の中でパンが聞いてくる。


(テイム、使えないよ)


 僕は器の中で答えた。


(大丈夫、調べに行くだけだから)


(それに、ホルスさんからファラさんに色々聞いてきてくれって頼まれてる)


(ギルドのこと、赤目のこと、オーガスさんのこと)


(何か繋がるかもしれない)


⸻


 短い打ち合わせのあと、二人はギルドを出た。


 ガルディアの東門へ向かって歩く。


「さっきの赤目の話」


 道すがら、ファラさんがぽつりと言う。


「ここ一ヶ月だけで、帰ってきてないパーティーが三組います」


「……三組」


 思わず息を飲んだ。


「全部、大型討伐か、平野の掃討依頼」


 ファラさんが続ける。


「怪我して帰ってきた人の治療してると、たまに聞くんですよ」


「目が赤かったとか」


「気配が違ったとか」


「治療所もハンターギルドも、ここ最近ずっとピリピリしてます」


「だからこそ」


 ファラさんは、僕の方を見た。


「単独で平野に近づくのは、絶対ダメです」


「……はい」


 僕は、真面目に頷いた。


⸻


 やがて、城壁の東門が見えてきた。


 昨日入ってきた門とは別の、平野に直接出る門だ。


「お」


 門の上から、見覚えのある兵士が顔を出した。


「ハンターさん、ガルディアでの初仕事かい?」


「はい」


 僕は、通行証を見せながら答える。


「近場まで、偵察に」


「気をつけなよ」


 兵士が、少し真剣な顔になる。


「この辺り、強い個体が出たって噂がまた広まってる」


「……」


 ファラさんが、引きつった笑顔を作る。


「フライさんは、そんなの調べに行くわけじゃないから、ね?」


 じろっと横目で睨んでくる。


「大丈夫ですよ、ね?」


「は、はい」


 目をそらしながら答えた。


(図星なのん)


 ムーが、小さく呟く。


「なら、ファラも一緒だし」


 兵士が、ふっと笑う。


「ちょっとは安心だな」


「通ってよし!」


 槍の石突きが、コンと鳴る。


「気をつけてな!」


「ありがとう、兵士さん」


 ファラさんが手を振り、僕も頭を下げた。


⸻


 門を抜けると、ガルディアの外の風が一気に吹き込んできた。


 城壁を背にして、広い平野が広がっている。


 遠くまで続く草むら、ところどころに、小さな丘と、ぽつんと立つ木。


「じゃあ、行きましょうか」


 ファラさんが、腰のポーチを軽く叩く。


「何があっても、無茶しないことが最優先ですからね」


「はい」


 僕は、草むらの向こうを見つめた。


(クロープ、今日も頼むよ)


(んー……)


 眠たそうな声が返ってくる。


(強いのがいたら、ちゃんと教えるー……ZZZ)


 ガルディア城塞都市の外。


 平野の捜索がはじまった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。

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