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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第一章 アルミ村編

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第十七話 南のダンジョン 後編

 通路の先が、少しずつ広くなっていく。


 そして、ふっと視界が開けると、今までの通路とは全く違う空間だった。


 村の広場を丸ごと地下に移したみたいな広さだった。


 天井は高く、丸くカーブして、壁は積み上げられた石ブロックでできていた。


 床も、通路のような自然の岩ではなく、敷かれた石の板。


「ここだけ人工物で、遺跡の名残って感じがしますね」


 ノエルさんが、周囲を見回す。


 その時、足元で小さく石が転がる音がした。


「……嫌な音がするな」


 グラムさんが、大盾を構え直す。


 床の石が、一枚浮き上がった。


 その隙間から、小さな石がひとつ、飛び出す。


 と思った次の瞬間。


 壁の隅からも、床の角からも、あちこちで石が動き始めた。


 石の板が、ブロックが、床の小石が。


 全部が、何かに引き寄せられるように集まり始める。


「フライ、何か感じるか?」


 グラムさんが小さく言う。


「……はい」


 魔力の流れが、この広間の中心に向かってぐるぐると渦を巻いている。


 石たちは、その渦の中心に向かって積み上がっていた。


 床の中央に、小さな山のような石の塊ができる。


 それが、むくりと動いた。


 腕の形、足の形、胴体、頭、石でできた人型。


 背丈は、グラムさんの三倍くらいはありそうだった。


 目の部分だけが、青白く光っている。


「ゴレム……石造りのモンスターで、ダンジョンだと、最深部に出てきます」


 ノエルさんが少し震える声で説明する。


(かたい つよい)


 パディットの気配が、はっきりと警戒を告げた。


 ストンゴレムが、ギギ、と首を傾ける。


 石同士が擦れる音が、広間に響くと、目の光がゆっくりとこちらを捉えた。


「……テイム、どうする?」


 グラムさんの声が、少しだけ低くなる。


 ストンゴレムが、じっとこちらを見ている。


「やってみます」


 一歩前に出て、ストンゴレムの方へと、意識の手を伸ばした。


 しかし、冷たい石の壁に、掌を叩きつけたみたいな感覚だった。


 膨大な魔力が、ストンゴレムの中をぐるぐると回っている。


(ココ マモル タタカウ)


 その気配が、ただ繰り返し回っているだけだった。


 そこにあるのは、命令と機能だけだった。


「ダメです」


 思わず、後ろに一歩下がっていた。


「フライさん?」


 ノエルさんの声が飛ぶ。


「何もありませんでした……」


 ストンゴレムを見上げる。


 青白い目は、ただこちらを見下ろしていた。


「あるのは、命令みたいなものだけです」


「それと、この先に何か感じます」


 ダンジョンの気配の流れに、もう一度意識を沈める。


 広間の先に、辿ってきた気配の太い流れが集まっている。


「このゴレムの後ろが、呼んでいる気配の正体です」


「避けて通る道はないってことね」


 シアンさんが、ため息をつく。


「つまり、ここを通るなら戦えっていうことね」


(たたかう)


 パディットの目が、真っ直ぐストンゴレムを見据える。


 グラムさんが、一歩前に出る。


「前衛はオレとパディットだ」


 大盾を構え直し、足を広げて腰を落とす。


「フライはパディットのすぐ後ろだ」


「こいつの動きと魔力を、見えるだけ全部言葉にしろ」


「はい!」


「ノエルは、全体を見ろ」


「分かりました」


「シアンは、効きそうな部位を見極めろ」


「魔力の通り道を潰す」


「まかせて!」


 ストンゴレムが、ギギギ、と首をさらに傾ける。


 その巨体が、一歩前に出た。


 その一歩だけで、床が低く震えて、石でできた腕がゆっくりと持ち上がる。


「来るぞ!」


 グラムさんが、大盾を前に突き出す。


 その叫びと同時に、ストンゴレムの拳が振り下ろされた。


 空気ごと、押し潰されるみたいな圧。


 グラムさんの大盾に、石の拳が叩きつけられる。


「ぐっ……!」


 盾ごと、体が後ろへ弾き飛ばされ、石の床を靴底がずずっと後ろへ滑る。


 それでもグラムさんは踏ん張って、なんとか倒れず耐えた。


「なんともねぇ……と言いたいところだが……」


 グラムさんが、左脇腹を押さえる。


 じわりと赤い色が滲んでいくのが見えた。


「今、回復魔法を!」


 ノエルさんが素早く駆け寄ろうとした、その瞬間、ストンゴレムの目の光が強くなった。


 首が傾くと、ストンゴレムの腕が、横から薙ぎ払うように振り払われる。


 まっすぐ、グラムさんの脇腹めがけて。


「グラムさん、下がって!」


「っ、わかって……ても、足が……!」


 さっきの衝撃と、傷の痛みで、足が一瞬遅れた。


 避けきれない、そう思った瞬間だった。


(まもる とめる)


 パディットが魔法を放つ。


(〈〈エレク〉〉)


 パディットから、雷魔法が発せられ、ストンゴレムの足元へと走る。


 石と石の境目、関節に当たった雷が、そこだけを一瞬白く光らせる。


 ストンゴレムの動きが、ぴたりと止まった。


「っ、今だ!」


 グラムさんが、歯を食いしばる。


 大盾を前に押し出すみたいに、一歩踏み込んだ。


 ストンゴレムの脚の継ぎ目に、渾身の力で大盾を叩き込んだ。


「うるああああああっ!」


 石を割る鈍い音。


 ひびが、脚から腰へと一気に走る。


 ストンゴレムの巨体が、ぐらりと揺れた。


「〈〈アースバインド〉〉」


 すかさずシアンさんの魔法。


 床の石が盛り上がり、ストンゴレムのもう片方の足を絡め取る。


「関節! 今ならまだ動きが鈍い!」


「……っつう……!」


 グラムさんが、地面に着地した瞬間、膝をついた。


 脇腹の布が、さらに赤くなっていく。


「グラムさん!」


 ノエルさんが駆け寄る。


「〈〈リール〉〉」


 柔らかい光が、グラムさんの傷口に集まる。


 それでも、さっきまで無理をして動いていたぶん、回復は追いつかない。


 ストンゴレムの上半身が、軋みながらこちらを向く。


 しがみついている関節が割れかけていても、まだ攻撃することをやめない。


 また、腕を振り上げる。


(やらせない)


 パディットの体から雷が、全身を駆け巡る。


 さっきの雷よりも、さらに濃い魔力。


「パディット、無茶は――」


 と言いかけた口が、止まった。


 パディットの覚悟を示す気配が強くなった。


(まもる ぜったい)


 金色の目が、ぎらりと光る。


「パディット、やって!」


 パディットの体から、雷が噴き出した。


(〈〈ハイエレク〉〉)


 雷が何本も、何本も、パディットから発せられる。


 ストンゴレムの周囲の石が、全部導線になる。


 ストンゴレムの体を、内側から雷が駆け巡ると、石の腕がぴくりと痙攣する。


 命令だけで動いていた魔力の線が、全部一斉に焼き切られる。


「〈〈リール〉〉」


 ノエルさんの回復の光が、グラムさんの足に力を戻すと、グラムさんがふらつきながらも立ち上がった。


 残っている力を、全部大盾に乗せるみたいに構える。


 雷に撃たれて動きの止まったストンゴレムの胸の継ぎ目へ――


「……っらああああっ!!」


 渾身の一撃。


 鈍い破砕音が、広間に響いた。


 胸部の石のラインに沿って、大きな亀裂が走る。


 次の瞬間。


 ストンゴレムの体が、崩れ始めた。


 積み上げられた石が、命令を失ってただの石塊に戻っていく。


 石の山が、ゆっくりと床に広がった。



 静寂。


 さっきまで広間を満たしていた重圧が、ふっと弱くなる。


「……ふぅ」


 シアンさんが、杖を支えにして息を吐いた。


 パディットの体から、まだ細い火花がぱちぱちと立っている。


「あー……いてぇ……でも、なんとかなったな」


 グラムさんが、その場にどさっと座り込む。


 ノエルさんが手を当てて、回復魔法を重ねている。


「今のでだいぶ傷口が開きましたよ!」


 ノエルさんが少し怒った声を出す。


「悪ぃ悪ぃ……」


 グラムさんが苦笑する。


 シアンさんが、石の山を見下ろしながら言う。


「少なくとも、今のはみんなでじゃなきゃ倒せなかったね」


「特にパディット無しだったら、確実に全滅だった」


(ありがとう、パディット)


 尻尾が、かすかに一度だけ床を叩いた。



「倒したはいいが、アレも忘れんなよ」


 グラムさんが、息を整えながら言う。


 視線の先に、崩れたストンゴレムの胸あたりの隙間から、光るものが見えた。


「ルミナストーンですね」


 崩れた石をどかしていくと、拳大の透明な石が現れた。


「大きい……」


 シアンさんが、興味深そうに見つめる。


「持っていきましょう」


 僕がルミナストーンを見つめて言う。


「当たり前だ、その為に来たんだろ」


 グラムさんが笑う。


「それと――」


 気配の流れに、もう一度意識を向ける。


 この広間の奥から、さらに強い気配の流れが感じられる。


「奥に……行ってみましょう」


 広間の一番奥。


 薄暗い壁の中央に、見覚えのあるものがあった。



「あれ?」


 思わず、声が漏れる。


 石造りの壁に、見覚えがある紋章が描かれた扉がある。


 リュミエールの祠の扉に刻まれていたものと、同じ模様が浮き彫りになっている。


 丸の中に、絡み合う二本の線。


 ノエルさんが、不思議そうに僕を見る。


「どうかしました?」


「……あの扉の紋章」


 声が、少し震える。


「祠で見たのと、同じです」


「北の祠?」


「はい、全く同じです」


 ダンジョンの空気の中に、一箇所だけあきらかに別の気配が混ざっている。


 リュミエールの祠で感じた気配に似た何か。


 シアンさんが、目を細める。


「さっきのストンゴレムは、これを守ってたのかな」


「……行きます」


 呼んでいるような気配は、ここに通じていた。


 扉の前に立つと、紋章の部分が、ほんの少しだけ光っている気がした。


 リュミエールの祠の時と同じように手を伸ばす。


 紋章に触れた瞬間、左手の指輪と甲の紋章が光り出した。


 リュミエールの祠で感じた、あの気配のかけら。


 それが、ここにも残っているみたいな。


 すると、扉が重い音を立てて開いていく。


 シアンさんの火の玉でその中を照らすと、石碑みたいなものが見えた。


「何、これ……石碑?」


 シアンさんが中を見回して言う。


「呼ばれてる……この石碑に」


 ダンジョンの迷路から続く気配の流れは、この石碑に続いていた。


 僕はその石碑に左手を伸ばす。


 すると、指輪と紋章の光をさらに増した。


(ここに 力を 残す)


(正しき 心と 力を 持つ者が)


(いつか たどりつくと 信じて)


「石碑の文字が読める……」


 すると、石碑から一筋の光が溢れる。


 その光が、左手の紋章に直接飛び込んできた。


「……っ!」


 体の奥に何かが染み込んでくる。


 指輪が熱を持ち、パンとパディットの気配が器の中で、大きく揺れた気がした。


「フライさん! 大丈夫ですか!」


 ノエルさんの声が、遠くから聞こえる。


 でも、意識はまだ石碑の方に向いていた。


 石板に刻まれた最後の一行に、目が止まった。


『この紋章を見て、心を震わせる子孫がいるなら』


『テイムの道が続いていることを願う』


 そこまで読み上げた瞬間、紋章の光がすっと収まった。


 胸の奥のざわつきも、少しずつ落ち着いていく。


 ノエルさんがそっと肩に手を置く。


「……大丈夫です」


 息をゆっくり整えながら答える。


「今、何が起きたの?」


 シアンさんが、真剣な目でこちらを見る。


「フライさんに、光が流れていく感じでした」


 振り返って、石板を見る。


 そこに刻まれている文字はもう、読める文字ではなくなっていた。


 器で、パディットの気配がする。


(フライどうした、大丈夫か?)


 ひとつひとつの言葉が、はっきりしている。


 今まで気配の雰囲気で受け取っていたものが、ちゃんと言葉になっている。


(パディット?)


(どうした? フライ?)


(さっきまでより、すごく分かりやすく話してるよ?)


(何を言っているんだ?)


(!?)


 そう言われて、驚いた。


 心の言葉を、もっとはっきり拾えるようになった。


 それはつまり――


(テイムの力が、強くなったってことかな?)


「……ゼイン」


 小さく名前を口にしていた。


「ゼイン?」


 グラムさんが眉を上げる。


「昔、リュミエール、竜と契約した先祖の名前です」


 自分でも半分信じられなかった。


「祠の紋章と同じで……石板の文も、子孫に向けた言葉みたいでした」


「その子孫ってのが、お前ってわけか」


 グラムさんが真剣な顔になった。


 胸の中に、明らかに違う感覚がある。


 器の形が少し変わった気がした。


(フライ、何にしても、無事でよかった)


 パディットの声も、はっきりしている。


「それと、これ何?」


 シアンさんが言う。


 石碑の横、壁際に目をやると、小さな棚があった。


 その中に、いくつかの瓶と袋が並んでいる。


「薬草と、エーテルですね、古いけど中身は使えそう」


 ノエルさんが、目を丸くする。


「こっちは……ルミナストーンか!?」


 グラムさんが、袋を一つ持ち上げる。


 中で、いくつもの石がカラカラと鳴った。


「結構、入ってるな」


「ここまでたどり着いた人へってところかもね」


 シアンさんが、石の袋を見る。


 僕は、棚と石板と紋章を順に見る。


 リュミエールの祠。


 そして、ダンジョン。


 繋がっている気がしてならなかった。


「とりあえず、ルミナストーンは全部持ち帰りましょう」


 ノエルさんが言う。


「薬草とエーテルも」


「マスターも、きっと目を丸くするだろうな」


 グラムさんが笑う。



 ルミナストーンの袋を詰めていく。


 荷物を整え終えたところで、グラムさんが声をかけてきた。


「お前は、どんな感じだ?」


「……聞こえ方が、変わりました」


 そのまま、変化を言う。


「パディットの心の声が、前よりはっきり聞こえるようになりました」


「魔力の感じはどうなの?」


 シアンさんが、真面目な顔で聞く。


「まだ、わかりませんが、自分の中の器が広がったような気がします」


(きっと、ゼインがくれた新しい力だね)


 器の中からパンの声が聞こえる。


(そうかもね)



「よし」


 グラムさんが、最後に周囲をぐるりと見回す。


「目的のルミナストーンも手に入れた! 最深部まで踏破した!」


「ここから先は、戻るだけだな」


「そうですね」


 ノエルさんも頷く。


「行きよりも、帰りの方が危険になることもありますけど」


「フライ」


 グラムさんが迷路の方角を顎で指す。


「行きは呼ばれて来たけど、帰りはどうする?」


 するとパディットが言った。


(フライ、帰り道はわかる)


(においも残ってるから、辿れば出口へいける)


(じゃあ、パディットに任せたよ)


「パディットが、帰り道はにおいでわかるそうです」


「帰りましょう」


 ストンゴレムのいた広間を後にする。


 地上の方へと、僕たちは迷路を引き返し始めた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。


ストンゴレム(BOSS)

大きさ:6m

ゴレム型:魔力兵器

生息:ダンジョンのみ

魔力:地単体(魔法は使わない)

巨体で殴る

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