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ドラゴンテイム 〜モンスターと心を結ぶテイマーの物語〜  作者: エフピー
第一章 アルミ村編

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第十六話 南のダンジョン 前編

 魔力の沼。


 目の前に広がるのは、その入口だった。


 崩れかけた石のアーチ、黒くぽっかり開いた階段。


 そこから吹き上がってくる空気は、魔力がまとわりついてくる感じがした。


 地面の下から、ゆっくりと上がってきて、また沈んでいく。


 そんな生き物みたいな感覚が、かすかに伝わってくる。


 階段の一段目に足を置いたとき、靴底越しに、魔力が伝わってきた。


⸻


 中は、石造りの狭い通路。


 壁には、どこからともなく光る苔みたいなものが貼りついていて、ぼんやりとした薄緑の光を放っている。


「……暗いな」


 グラムさんが、大盾の位置を直しながら言う。


「シアン、頼む」


「オッケー」


 シアンさんが杖を軽く振る。


「〈〈ライト〉〉」


 杖の先に、小さな火の球が生まれ、ふわりと宙に浮かんだ。


「陣形、確認しとくぞ」


 グラムさんが指揮をとる。


「前は俺、盾役だ」


「その斜め後ろ、パディット」


「あんまり先に行きすぎるんじゃねぇぞ」


「フライは、パディットのすぐ後ろで、テイムの距離を保ちやすい位置に」


「ノエルはその後ろ、やや真ん中だ」


「シアンは最後尾で、後ろから全体を見る役目だ」


 みんながそれぞれ頷く。


 グラムさんは、ちらりと僕の方を見る。


「この中じゃ、フライの感覚も武器のひとつだ」


 グラムさんは、通路の奥を見た。


「この先、魔力がどう流れてるか、モンスター気配がどっちから来るか」


「分かる範囲でいいから、感じたことは全部口に出せ」


「分かりました」


 さっきからずっと、魔力の渦みたいなものを感じる。


 それを意識しながら、僕たちはゆっくりと通路の奥へと進んでいった。


⸻


 ダンジョンの空気は、少しずつ変わっていく。


「グラムさん」


「ああ、分かってる」


 耳を澄ますと、靴音以外の何かが混ざって聞こえる。


 小さな爪が石を叩く音。


 左右に走る、低い風切り音。


「何か来る」


 シアンさんが、杖を構えた。


 薄暗い通路の先で、影が床を走るように動いた。


 次の瞬間。


「なんだ……?」


 グラムさんの前を、何か小さなものが、風みたいな速さで横切った。


 緑がかった鱗、細長い尻尾。


 小さい何かが壁を蹴り、また地面に戻る。


「……ヴィットリザードか」


 グラムさんが、大盾を構え直す。


「昔戦ったが、小さいし、やたらと足が速ぇんだよ」


 その言葉の通り、影がもうひとつ、またひとつと増えていく。


 通路の左右を、細長い影が駆け回る。


 目で追おうとしても追いつかない。


「速すぎます!」


 ノエルさんの声に、少し焦りが混ざった。


「テイム、試してみます!」


 器から、目の前のヴィットリザードたちに意識を向けた。


(……)


 手を伸ばすが、触れる感覚がない。


 こちらと会話しようという気配が、どこにもない。


「……ダメだ、ただ走って攻撃するだけみたいです」


「そうか、ならやることは変わんねぇな」


「前方二、後方一! 散るな、固まれ!」


 グラムさんが、手短に指示を飛ばした。


 一匹のヴィットリザードが、低い姿勢のまま、グラムさんの足元めがけて突っ込んできた。


 大盾にぶつかる。


 大盾を少し傾けた瞬間、別の一匹が横から飛びかかってくる。


(おそい)


 その瞬間、パディットの体が、黒い影になって消えた。


 床を蹴る音が一回、通路に響く。


 次の瞬間には、さっきまでグラムさんの死角で動いていたヴィットリザードの首が、パディットの爪の間に挟まれていた。


 ヴィットリザードの体が、ぐにゃりと力を失う。


 そのままパディットは、振り向きざまに尻尾で別の一匹を叩き飛ばし、残りの一匹を前脚で地面に押さえ込んだ。


 たった数秒の出来事だった。


「……はっや」


 最初に声を出したのは、シアンさんだった。


「ほとんど見えなかったな」


 グラムさんが、押さえ込まれたヴィットリザードの亡骸を見下ろす。


「足速ぇのは知ってたが、ここまで速いのか」


(おそい よわい)


 グラムさんが、パディットを見た。


「つえーな、お前」


 短い言葉だけれど、そこには素直な感情が混ざっている。


「ヴィットリザードはかなり面倒なのよねぇ」


 シアンさんが、倒れたヴィットリザードたちを見回す。


「速いし魔法が当たらないし、ほんっと助かったわ」


 ヴィットリザードたちも、ただ衝動で動いていた。


 ただ走る、ただ噛む、ただ襲う。


「ダンジョンでテイムは通じないかもしれませんね」


 シアンさんも、光の玉を少しだけ明るくしながら言う。


「それがわかっただけでもよしでしょ」


「そうですね」


 少しだけ、胸の重さが軽くなった。


「とりあえず、肉は食べられなくはないけど……」


 シアンさんが、ヴィットリザードの亡骸を見て首をかしげる。


 ノエルさんが真面目に言う。


「食材として少し、確保しておきましょうか」


 そうして、僕たちはまた通路の奥へと歩き出した。


⸻


 通路はほぼ一本道で、だんだんと広く高くなっていった。


 天井は人の背丈の三倍くらい。


 光はあるのに、なぜか空気はどんどん冷えていく。


「……寒いですね」


 ノエルさんが、両腕をさする。


 そのときだった。


 ぴしっ、と小さな音がした。


 足元を見ると、通路の石の隙間に、うっすらと霜が走っている。


 次の瞬間、その霜がふっと持ち上がった。


 空気中の水分が集まり、細い氷の矢に変わる。


 矢の先端には、青白い魔力の光が宿っていた。


「っ、下がれ!」


 グラムさんの声と同時に、氷の矢が一斉に飛んできた。


「〈〈ファイアウォール〉〉」


 シアンさんの杖の先に、淡い炎の壁が展開される。


 氷の矢が炎の壁に当たり、砕け散る。


 砕けた欠片が床に落ちるたび、白い霜が広がっていく。


「上だ!」


 グラムさんが叫んだ。


 天井の暗がりから、複数の影がぶら下がっている。


 大きなコウモリ。


 翼の膜には薄い紋様が浮かんでいて、その間を魔力の光が走っている。


「マジークバット……!」


 シアンさんが、目を細める。


「氷魔法系のモンスター、空気中の水分を操ってくるわよ」


 次の瞬間、また空気中に白い霧が生まれ、それが一瞬で氷の矢に変わる。


 グラムさんが大盾を前に出す。


「〈〈ファイアシールド〉〉」


 グラムさんの大盾の前に炎が重なるように展開された。


 今度は、音がさっきよりも重い。


 氷の矢の密度も、威力も増している。


「シアンさん……!」


「大丈夫!」


 シアンさんの額に汗が滲む。


「反撃するわよ」


 シアンさんが、杖を前に掲げた。


「〈〈ファインフレア〉〉」


 杖の先から、熱の波がぶわっと天井に向かって広がる。


 冷たい空気と熱がぶつかり合い、白い霧が生まれる。


 その中で、マジークバットたちの悲鳴が響いた。


 一部は焼かれ、翼を焦がして落ちてくる。


 だけど、全部ではない。


 炎の波をかいくぐるように、一部のマジークバットは、逆に降下してきた。


 氷の矢ではなく、今度は翼そのものに魔力をまとい、刃のようにして突っ込んでくる。


「グラムさん!」


「分かってる!」


 盾が、その突撃を受け止める。


 金属が軋むような音。


 その一瞬。


(おとす)


 パディットが、吠える。


「ワオーーーーーン!」


 その体から、金色の光が走った。


「えっ」


 僕の器に、パディットの魔力がビリッと広がる。


 毛並みの隙間を、細い雷が走る。


 それが一気に天井へと駆け上がった。


(〈〈エレク〉〉)


 激しい光と音。


 狭い通路に、雷鳴が響く。


 天井近くにいたマジークバットたちが、一斉に痙攣しながら落ちてきた。


 通路に、静寂が戻った。


「雷、ですよね……?」


 ノエルさんが驚いて小声で言う。


「いや、高火力ね……」


 シアンさんも目を丸くして言う。


「今の一撃で助かったな」


 グラムさんが、足元のマジークバットを見下ろす。


「空からの魔法弾幕、守るだけじゃジリ貧だった」


「上からまとめて叩き落とせるのは、でかい」


(すごいよ、パディット)


 パディットの尻尾が、ほんの少しだけ、ぱた、と床を叩いた。


⸻


「この辺で、一度休憩を挟みたいわね」


 シアンさんが、周囲を見回しながら言う。


「怪我してる人もいるしね」


「……まぁ、否定はしねぇ」


 グラムさんが、肩を回す。


「フライ、この先はどうだ?」


 グラムさんが通路の奥を指す。


 目を閉じて、ダンジョンの気配を探る。


(ながれ)


 さっきまで歩いてきた道は、魔力の渦が流れていた。


 ところどころモンスターの気配が濃くなっていた。


(今は、少し薄いかな)


「この辺りは、魔力の渦から外れた窪み、みたいな感じかも」


 壁に手を触れる。


「モンスターの気配も、今はすごく遠いですし、ここなら少しの間、何も寄ってこないです」


 グラムさんが、ため息混じりに笑った。


「安心して休めるってのは、ヒーラーがもう一人いるくらいでかいことだ」


「よし、一度休む」


 その決断で、みんな緊張が少し解けたようだった。


⸻


 通路の脇に、少し広くなったスペースがあった。


 天井はさっきより低い。


 壁際には、ほとんど苔が生えておらず、壁がむき出しになっている。


 シアンさんが、杖を軽く振った。


「〈〈ヒート〉〉」


 地面の一角が、ほんのりと温かくなる。


 小さな焚き火みたいな感じだ。


「火の粉が飛び散らない程度の熱だけ出しておくわね」


「ありがとうございます」


 荷物を下ろしながら、僕は自分の袋を探る。


 さっきのリザード肉がある。


 それに乾燥させた野菜。


「おっ」


 グラムさんが、興味ありげに顔を寄せてきた。


「休憩する時は、どこだろうとご飯を食べるのは、いい心がけだと思いますよ」


 ノエルさんが、隣でにこりと笑う。


 ヒートの熱でお湯を沸騰させ、香辛料、塩を入れ、スープを作る。


 食材を小さく切って、スープに入れ、ゆっくりかき混ぜる。


 やがて、ふわっと香りが立ち上がってきた。


 リザード肉の香ばしさ、乾燥野菜の甘み、香辛料のスパイシーな匂い。


 グラムさんの腹の音が、分かりやすく鳴った。


「こいつは、うまそうだ」


 ふーっと息を吹きかけてから、ごくっと飲み込んだ。


「どうですか」


「うまいぞ、体もあったまる」


 グラムさんは、もう一口飲んでから、にっと笑った。


 シアンさんも、スプーンを受け取ってスープを飲んだ。


「食べるって、ほんと大事だね」


「……ですね」


 今度は、パディットの気配が広がる。


「パディットも、スープ飲む?」


(はらへった)


 小さな器に薄めたスープを入れて、パディットの前に置く。


 パディットは鼻先を近づけ、ぺろりと舌ですくった。


 みんな美味しそうに食べていて、少しだけほっとした。


⸻


 リザード肉のスープを飲み終え、それぞれが簡易寝具を広げ始めた。


 少し寝転がって目を閉じると、魔力のうねりが見える。


 ダンジョン全体を流れる魔力の渦。


 その中で、僕たちがいる窪みは、たしかに流れから外れている。


 でも、魔力以外の何かも感じていた。


 もっと深いところに続いている気配。


 生き物とは違う、魔力の渦とも違う、このダンジョン自体の気配みたいな。


 考えていると、僕は自然に目を閉じていた。


⸻


 どれくらい眠ったのかは分からない。


 目を開けた時には、自分の胸の奥のざわつきが変わっていた。


(……流れてる)


 ダンジョンの中を巡る、気配の流れ。


 さっき休む前に感じた魔力の渦とは違う、ダンジョン自体の気配のような感じ。


「起きたか、フライ」


 すぐ近くから、グラムさんの声がした。


「はい」


 体を起こすと、簡易の荷物はもうほとんど片付け終わっていた。


 ノエルさんは荷物の最終確認。


 シアンさんは杖を軽く回して、魔力の調子を確かめている。


 僕の気配に気づいて、パディットの金色の目がこちらを向く。


「体はどうだ?」


 グラムさんが、鎧の留め具を締め直しながら聞いてきた。


「大丈夫です」


「でも、さっきより何かの気配の流れが強くなった気がします」


「流れ?」


「ダンジョン自体の、気配みたいなものです」


 器に意識を沈める。


 やはり気配の流れを感じる、どこかに続いているような。


 目を閉じると、さらに分かる。


 これから向かう先には、さっきより濃くて太い流れがある。


 何かに呼ばれている、そんな風にも思える。


「……何か、呼ばれてる? みたいな感じです」


「呼ばれてる、ですか?」


 ノエルさんが首をかしげる。


「いやな言い方ね」


「でも行かないといけないのは、そっちなんだろうね」


 シアンさんの口元が、少しだけ引きつる。


 グラムさんが、肩をぐるっと回した。


「よし、じゃあ出るぞ」


⸻


 休憩していた場所から通路に戻る。


「やっぱり、何かに引っ張られてる感じが強いです」


 言いながら、自分でもぞっとする。


「向こうが、手を伸ばしてるみたいな」


 シアンさんが、杖で足元を軽く突いた。


「どっちにしろ、奥に何かあるのは間違いないわね」


「陣形はさっきと同じで行くぞ」


 グラムさんの声が、通路に響く。


 パディットが、ほとんど音も立てずに前に出る。


 石の通路を進み始めて、すぐだった。


 分かれ道、右と左に、同じような通路が伸びている。


「……妙だな、さっきまで、こんな分かれ方してなかったぞ」


 グラムさんが立ち止まる。


「ダンジョンの奥って、大体こうらしいですよ」


 シアンさんが肩をすくめる。


「似たような道を増やして迷わせる」


 ノエルさんが、右と左を交互に見る。


 僕は、流れる気配でどう進むといいのか大体分かった。


 一歩前に出て、器に意識を向けた。


(ながれの方向は……)


「左、ですね」


「そう感じるか?」


「こっちは、気配が流れて行く方向です」


 グラムさんが、少しだけ考えるように顎に手をやった。


「フライの感覚が当たってるなら、左が本筋だろう」


「行きますか」


「ああ」


 左の通路に足を踏み入れる。


 背中を、何か見えないものにじわっと押されるような感覚があった。


⸻


 そこから先は、本当に迷路だった。


 通路が曲がり、また曲がり、時には少し広くなり、また狭くなり。


 右と左に分かれる道が何度も現れる。


 モンスターもまた現れて、グラムさんの大盾とパディットとシアンさんの魔法でやり過ごした。


 ところどころ、立ち止まって気配の流れを確かめながら進む。


 気配に呼ばれているような感覚は、先の方まで続いていた。


 普通なら、何回曲がったのかも分からなくなっていただろう。


「すごいですね」


 ある分かれ道で、ノエルさんがぽつりと言った。


「こんなに同じような通路ばかり続くのに、こっちだって言えるの」


「呼ばれている方向に進んでいるだけですけど」


 自分でもぞっとすることを口にしていた。


「うわ、それはそれで嫌な例えだね」


 シアンさんが肩を抱く。


「僕も、正直これでいいのかって不安はありますけど……」


「それでも、こっちって言えるのは、大事よ」


 シアンさんが、足元の石を軽く蹴った。


「迷うのが一番危ないからね」


⸻


 しばらく進んでいくと、通路の空気が少しずつ変わってきた。


 気配の流れが、少しだけ形を変える。


 今までの気配の感じとは違う何か。


「どうした?」


 グラムさんが振り返る。


「……呼んでるものが、近いです」


「前方、注意して進むぞ」


 感じる気配の濃さに、背筋に冷たいものが走った。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

次話も読んでいただけると嬉しいです。


ヴィットリザード

大きさ:40cm

恐竜型:素早く小さい

生息:ダンジョン、平原など

魔力:風寄り、氷小(魔法は使わない)

集団で襲ってくる、爪などが武器


マジークバット

大きさ:30cm

コウモリ型:天井にぶら下がっている

生息:ダンジョン、洞窟

魔力:氷寄り、風小

大気の水を凍らせて飛ばしくる、天井からの攻撃

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