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日本から

休日の水族館から少しして、僕達は数日の休みを取り、部屋に集合していた。


「今まで全くそういう話してこなかったけどよ、あっちに戻れんのかよ?」


「言われてみれば、初耳。」


「こちらに来てから、どう生きていくかばかりで向こうに戻るなんて話を全然しなかったですからね」


ブゥン、と四角い空間の裂け目が現れると、向こうに見えるのは確かに僕らが住んでいた世界だ。

生まれたばかりだろうか、魔物がよたよたお歩いている姿が見える。

あれでも大抵の動物には勝てるだろうというのが面白い。


「用意はできましたか?」


「ちょっと待って、数日の依頼停止ツイート…」


「あっ、私もなんか言わなきゃ。」


SNSにこちらでの人生を置いた2人の書き込みが終わり、準備が終了して裂け目を渡る。

裂け目を渡ると生ぬるい風が肌を撫で、こちらを警戒する視線を複数感じる。

いかにも、『戻ってきた』という感じだ。


「魔物も森も見覚えがあるなぁ!さっさと街まで行っちまおうぜ!」


「ついでに多少の魔物を狩って金にする。街に着いたら宴会。」


「ストレスの吐け口に丁度良いや…」


武器も持たずに魔物の群れへと突撃していく2人。

ラヴィンもゆったりとした足取りであるものの、明確に魔物を蹂躙せんと堂々と進んでいく。

ここ一帯の魔物は今日でほとんど居なくなるだろう。


「僕らはゆっくり歩いて行くだけで良さそうだね」


「ええ、後で労う用意をしておきましょうか」


1年の時間が経った今でも、幼少から培った戦闘技術に衰えは無いようだ。

むしろ武器が無いからか、活き活きとアグレッシブに動いているようにすら見える。

そんな暴走状態の3人を観光気分にも眺めながら、かつて生活していた街へと歩いて向かった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「お、お前らか!通っていいぞぉ」


1年経って街の門へと到着したのだが、門番さんは何も変わりないようだ。

こちらの時間はあまり進んでいなかったりするのだろうか。

以前と同じように少しの会釈をして街に入ろうとすると、門番さんがハッとしてこちらに呼びかけてきた。


「ちょっと待て!お前ヘルマか!?カリヤにチョコも居るな!?1年間もどこ行ってたんだよ!」


どうやらそうでもないらしい。


「いやぁちょっと遠出に…」


「おぉいお前ら!4兄弟が帰ってきたぞ!変な服着て!」


門番さんがどこまでも響く大声を上げると、『何ィーッ!」と至る所から驚きの声が上がり、こちらへと向かってくる音が聞こえる。

遠方に見えるギルドの扉は吹き飛び、住宅街では爆発が起きている。

ただの帰宅がちょっとした災害になってしまったようだ。


一斉に向かってくる街の仲間達は皆一様に「どこ行ってたんだ」や「帰ってくるのおせぇよ」といった言葉をかけてくる。

「落ち着いてくれ」と宥めようとしている間に自然と体を持ち上げられ、大規模な胴上げが始まる。

「宴じゃぁー!」と冒険者のリーダーが声を上げると、そのまま酒場まで胴上げしたまま移動し始める。


「ちょっと、ちょっと待ってくれ!分かったから!ちゃんと話すから!」


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


そのまま酒場まで運ばれ、僕達を中心とした宴会が始まってしまっている。

ドラセナの事も多くの人が覚えてくれていたようで、「あの時の嬢ちゃんじゃねぇか!」と肩を叩いて大笑いする人が定期的に生まれていた。

胴上げしていた人達はどうやらよくわからず胴上げしていたようだが。


「んでまァ、やっぱ愛の力っすよ!ん〜〜〜愛!!」


すっかり酒で脳をやられた様子のカリヤは、僕達を代表してこれまでの流れを語ってくれている。

今はラヴィンがこちらへと着いてこれた理由のところらしい。

しかし、ラヴィンはそうだったのか。

気付かない内にそんな事になっていたのか。


「…何よ」


「いや、いつか話をしよう」


「うん…」


酔いもあるのだろう、赤く染まった顔を下に向けながらも返事はしてくれている。

悪い感情は無いとはいえ、ドラセナとの関係もある。

むしろそのためにこちらへ戻ってきたという手前、少しタイミングが悪い。


「私の事は気にしなくて良いのですけど?」


「そういう訳にはいかないだろ、筋は通して、それからだ」


ドラセナはそう言ってくれても、僕自身がそう思えないし、何よりラヴィンに対しても軽薄になってしまう気がする。

この一時的な帰省の後のことを考えながら、少しずつ酒を飲んでいく。

カリヤは長い語りを一時的に休憩しているようだ。

おや、冒険者の1人が何やら話しかけているが…?


「おうカリヤ!これ食ってみろよ!」


「んぉ?なんだそりゃあ、見ない内に変な料理が増えたんかあ?」


「まあま、食ってみろって」と促され、カリヤが料理を口に運ぶ。

なんだか見覚えがある肉なような気がするが、なんだったか。


「以前ドラセナ嬢に魔物飯を教えて貰ってよぉ!ここ1年ずっと作ってたんだぜ!」


(それだったか!)


その言葉を聞く前に喉を通してしまったのだろう、咀嚼して吐き出すほどの理性も残っていなかったのだろう。

カリヤは本日の食事や酒を全て嘔吐しながらその場に倒れる。

チョコはピクピクと痙攣しているカリヤを前に爆笑し、元凶となったドラセナは笑いを堪えるのに必死なようだ。

ラヴィンと僕はアレがこちらへ回ってこないか不安で仕方がない。


だが、先ほどまでの主役が倒れてしまったことで宴会はお開きとなり、皆それぞれに今日の予定へと帰っていった。

僕達はカリヤをギルドの休憩所へと運び、少し落ち着く事にした。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


ギルドの休憩所へとカリヤを運んで行ったところ、ドタドタとどこからか複数人が近付いて来た。

バン!とドアが開け放たれると、鍛冶屋の2人…と見覚えのないエルフが入ってきた。


「おめぇら帰ってきたんだってな!どこ行ってたんだ!なあ!」


「ちょっとガーナさん!落ち着いてくださいよ!」


ドスドスとこちらまで歩いて来ようとするドワーフのガーナさんを、見知らぬエルフが頑張って抑えている。

普段はこちらに全く興味が無さそうな彼女だったが、意外と気にしてくれていたのだろうか。


「ここ!休憩室ですから!さっき聞きましたよね!?倒れたからここにきたんだって!」


「いいだろ1人倒れたぐらいで!他の奴らは元気だろうが!」


力はエルフの方が強いらしく、段々とドアの方へ引き摺り込まれていく。

モグラのマスクを着けている店長はワタワタと慌てているが、何をできるでもなく一定の距離を保っている。


「あの、ちゃんとお話ししますから、一度落ち着いて貰ってもいいですか?」


「分かってるっての!」


ダメそうだ。



それから一応は落ち着き、話を聞いていくとどうやらドラセナに作った武器が問題だったらしい。

彼女たちの視点では非常に確保しておきたい一品なのだが、ドラセナがこちらに戻ってきた以上、返却する必要が出て来る。

それで相談しにきたとのこと。


「私達は一時的にこちらへと戻ってきただけですし、構いませんよ。そちらの所有にしていただいても」


「おっ」


「えぇっ!?良いんですか?こんな我儘みたいなお願いに…」


「最悪の場合は実家に元々愛用していた剣がありますから、気にされる必要はありません」


「そ、そうですか…」


お貴族様の家なら、さぞ素晴らしい剣があるのだろう。

これから先戦闘が発生する事もあまり無いだろうし、まあ渡してしまうのがいい、というのは理解できる。

向こうに持っていったところで、せいぜいがコスプレに使おうとして銃刀法違反だろうしな…



「いやぁ〜助かるぜ!じゃあな!お前らも元気でよ!」


そのままドタバタと休憩所を出ていく3人組。

こちらのことを気遣ってくれていることはなく、想像通り僕達の事は半分忘れていたそうだ。

僕達がすぐにまた出ていくと伝えても、「おぉ〜ん」とギリギリ相槌のような返答で終了していた。

悲しいような気もするが、かなり長く冒険者達の姿を見てきた人達だ。そういうものなんだろう。


(結局あのエルフっ子はなんだったんだろう…)


パミラですと自己紹介はして貰ったが、鍛冶屋でしばらく働いているという事以外はわからないままだった。

まあいいか。


「相変わらず面白い人たちですね。この街の人たちは」


「毎日騒がしいったらありゃしないもんだね」


「でも、帰ってきたって感じ。」


4人でしばらく雑談しているとカリヤが起き、少し様子を見た後、出発することとなった。


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「では、行きましょうか」


僕の部屋に5人でで集まり、ドラセナに家へと向かうために空間の裂け目を開けて貰うと、向こうには綺麗な一室が見える。

いかにも、といった感じのその一室を目にした僕達に、なんとも言えない緊張が走る。


「どうすっかな…俺、貴族の家とか行った事ねぇぞ…」


「いきなり不敬とかにならないか、不安。」


「ふふ、大丈夫ですよ。何があっても、私が居ますから」


「た、頼もしいよね…」


ラヴィンは言葉ではそう言いつつも、かなり不安そうだ。

尻尾が足に巻き付いているし、若干腰が引けている。


「説明もしないまま消えたままってのも向こうに失礼だからね…緊張はあるけど、行かないといけない」


「ありがたい言葉です。それでは、参りましょうか?」


足は震え、心臓は落ち着かないが、それでも裂け目を越えて。


僕達はドラセナの実家へと足を踏み入れた。


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