【10章-11話】双子
――どういうこと。
エイラは心の中で呟いた。
意味が分からない、そう思ったからだ。
(幸せの楽園?…何を言ってるのか分からないわ…)
混乱していたのか、エイラは勢いで今思い浮かんだ疑問を訊ねた。
「ど、どういうこと…なのかしら」
「え?お前が1番分かってることじゃん」
エイラの幼少期の姿をしたものは、首を傾けて言う。
(…?)
エイラが更に混乱すると、エイラの幼少期の姿をしたものはポカンとして続けて言った。
「だって、ここは、ずぅっっ…っと昔に、お前が作り出した理想を形にした世界だもの」
その瞬間、ひとつの記憶が思い出される。
――「ねぇ、こんな世界があったら素敵と思わない?」
父に話した言葉だった。
あれはいつだったかしら。
もう覚えていない程昔の記憶。
エイラは懐かしい気持ちを胸に収め、思わず目を瞑る。
(…そう…。だったわね)
そう思いながら、エイラは急な眠気に倒れた。
最後に見えたのは、自分の腰にも満たない身長の子供が大人の女性の姿へと変わる様子だった。
――「お師匠様…?!お師匠様…っ!」
ラウィーヌはエイラが奥へと行くと、またティレに向かって声を荒らげ、一心不乱に叫んでいた。
それでも尚、こちらに向ける様子はなくティレは生気のない目で月を見つめる。
(…何、で)
ラウィーヌはティレの身体に顔を埋める。
しかし、答えどころか声の一言すら聞こえない。
その様子を見ると、ラウィーヌは最後にティレの手を優しく握り、踏みしめて立ち上がる。
当たり前に返事が返ってくることはなかったが、ラウィーヌは決心して1歩を踏み出した。
(…よし)
ラウィーヌは普段無表情な顔を、今は人間らしく整えて、既にいないエイラの後を追った。
――「――靉光」
その一言が聞こえると、辺りには更に強い光線が乱発され、メリアはしゃがみこむ。
もうメリア達を囲っていた結界は無いので、この威力には、もうこの校舎は耐えられない。
メリアが詠唱をしようと口を開けた時だった。
「…っ。メリアはいいからっ、僕がやっておくよっ…!」
レジリアの声だった。
きっと、結界を作るのをレジリアがしてくれる、ということだろう。
けれど、問題があった。
いくらレジリアやメリアと言っても、所詮は高等部魔術師見習い。
圧倒的経験の少なさ、そして知識不足のメリア達ではどうにもならない。
しかも、この光線も誰が放ったのかも分からない。
そうすれば完璧な対応がメリア達に出来る、とまでは言い難い。
(…待って――)
そう言おうとした時には、レジリアは詠唱を始めていた。
「―けっ…」
「待って」
静かな声がした。
先程の冷たい声の主と同じだろう。
メリアはそう確信した。
メリアがレジリアの方を見ると、案の定レジリアの隣にその声の主がいた。
メリアはその人物に会ったことがあった。
ラリー・ムルトスタ。
属星魔術使いの1人である。
ラリーは、レジリアの手を掴んでいたようだったが直ぐに手を離し、もう片方の手で展開していた魔法陣を広げ、攻撃を防いだ。
やがて、物音がしなくなり静かになると、ラリーは辺りをあちこち見に行って、精霊の確認をした。
「消滅確認。取り憑かれ主も安否確認よし」
そう言ってアリアの身体を壁に寄りかからせると、再びメリアとレジリアの元に戻る。
そして頭を下げた。
「ごめんなさい。ここまで酷くするつもりはなかったの。貴方達がいるとは思わなくて…。一応薄く結界は張ったつもりなのだけど…」
(結界…?)
「い、いや…。大丈夫です…」
レジリアが答える。
その後、メリアが勢いで言った。
「あの…っ、貴方って――」
「――フルディート様ー?!」
メリアの声を何者かの声が遮った。
結界内は戦闘後で煙が立ち込めており、遠くからだと向こうの姿もこちらの姿もあまり見えない。
フルディート、という名も誰のものなのか分からずメリアは辺りを見回す。
この3人の中でフルディート、という名を持つ者はいない筈。
――いない筈だった。
「あっ、フルディート様?!」
「あら、ごめんなさいね。この結界に換気機能つけるの忘れてまして」
ラリーが答えた。
「…え」
その瞬間に、驚きでメリアは声を漏らす。
そんなメリアに気付いたのか、ラリーならざる者は訊ねる。
「…?どうしたの?」
一瞬緊張でワタワタしたが、メリアはすぐさま息を整えて訊ねる。
『…あ、貴方様はラリー様ではないのですか…?』
「?……あぁ」
ラリーは少し戸惑いを見せたが、直ぐに隣の従者らしき人物が説明を付け足す。
「よく間違えますよね。…この方は、ラリー・ムルトスタの“姉様”のフルディート・ムルトスタです」
『…姉様?』
「双子なので判別がしづらいですよね。時々入れ替わってる時があって、その時なんか特にもう…」
確かに、よくよく見ると目の色や髪、身長も若干違うような気がする。
メリアは説明されると、直ぐに頭を何回か下げて謝った。
『す、すみませんっ』
「ふふっ、いいのよ。…じゃあ私達はそろそろおいとましようかしら」
言うと、フルディートは詠唱をして仕掛けたらしい結界を解除すると、手を振って歩いて去っていった。
(あっ…)
聞きたいことがあったメリアは、質問をも声に出せぬまま、見送るしか無かった。
気絶していたアリアを医務室に送ったメリアは、魔力不足を感じながらも、時間が遅かったので今日は寮へと戻った。
次の日、メリアが学園に来ると、いつものように教室はざわめいていた。
思ってはいたが、アリアの姿はなかった。
それはそうだ。
昨日は精霊に魔力をこき使われたのだから休むに決まってる。
メリアは静かに椅子に座る。
(…やっぱり皆知らないみたい)
何の緊張感も無い教室を見渡すと、メリアは溜息をつく。
メリアの制服にはあまり目立った戦闘跡は無いので、誰も心配はしない。
息抜きに、メリアは机に突っ伏し少しの睡眠を試みた。
しかし、時はメリアを休ませてくれない。
直後に担任が教室に入ってくると、皆に1番に告げた。
「今日で1週間あった取り憑き精霊警戒期は終わる。けど、今後2週間は気を引き締めていくように」
聞いていない間に、〈取り憑き精霊警戒期〉というものが始まっていたのか、とメリアは頬杖をつく。
そして担任の話が終わると、メリアは立ち上がろうとした。
しかし、それを担任の声で止めた。
担任はメリアにこう言った。
――「ファスリードさん、放課後ここに残って下さい。話があります」




