【10章-10話】幸せの楽園
ラウィーヌが結界内へ入ると、エイラも続けて中へ踏み入り結界の再構築術を使い、結界の再構築を行う。
幸い、何事も起こらずに中に入ることが出来たのだが、結界の内部はエイラが思う結界とは明らかに異なっていた。
戦闘が行われているかと思いきや、爆発音や荒れ荒れしい地はなく、静かな草原の上でティレが草原に座っているだけだった。
草原には花は咲いておらず、ひたすらに緑があるだけであり、空には星もないまっさらな空に、太陽ではなく月が昇っていた。
その下にいるティレも、何だかいつもより幼く見える。
(…?)
エイラが首を傾げてる間にも、ラウィーヌは迷うことなく足を動かし、ティレの元へ向かう。
エイラもラウィーヌの後ろを少し遅れて走る。
先にラウィーヌがティレの元に着くが、ティレはこちらに気付いていないようで、顔を一切向けようとしない。
まるで、ラウィーヌやエイラが存在していないかのようだった。
そんな様子を1番近くで見たラウィーヌは、普段あまり表に出さない表情を剥き出しにして叫んだ。
「気付いてくださいっ…!」
「ラウィーヌ…?!」
エイラが遅れてラウィーヌのところに辿り着き訪ねるが、ラウィーヌは返事を返さない。
ラウィーヌは、しばらく「お師匠様っ…!」とティレの身体を揺さぶっていたが、ティレが一向にこちらを見ないので、諦めた。
(…そういえば、ここって何なのかしら)
エイラがふと思い辺りを見渡すが、そう思っても尚、辺りの景色は変わらない。
「ラウィーヌ。私、向こうを見てくるわ」
「…」
エイラがそう言っても、直ぐには返事はなかった。
しかし待ってる暇もないので、仕方なくエイラは結界の奥へと歩き出した。
(…一体、結界にどういう効果を付与したらこうなるのかしら)
そう思いながら、エイラは何も無い草原の上を歩いていく。
一旦、何処まで進んだか確かめようかしら、とエイラが後ろを向く。
そこにあったのは、遠くなったラウィーヌとティレの姿ではなく、自分の幼い頃の姿だった。
「…これは、私?」
エイラは思わず呟く。
そして次に、こう呟いた。
「どうやってここに…?」
「簡単だよ。“これ”は、お前の昔の本当の姿じゃないからね」
エイラの幼い頃の姿が、自身の身体を触りながら言う。
(…っ?!)
驚いて後ろに1歩下がるが、幼い頃の姿のエイラは間を開かせまいと同時に1歩エイラに向かって歩み寄る。
「…」
「…」
お互いが沈黙した後、エイラの幼い頃の姿は笑顔を浮かべ、口を開いた。
「――ここは、幸せの楽園。お前を葬る場所だよ」
「…くっ」
メリアは光線を次々と避けながら、声を漏らす。
(レジリアに向けて叫んだけど、やっぱり起きないかな…)
半分諦め状態で、また次々とこちらに向かってくる攻撃を避ける。
その時、爆発音しか聞こえなかった結界内に、声が響いた。
「…ねぇ、この子のお友達」
アリアに取り憑いた精霊が自身の胸元を指さして、メリアに訊ねる声だった。
メリアは、少し間を置いたあと魔法陣を展開しながら答える。
「…何」
「貴方、マリエットゥの言葉を聞いたのよね」
――マリエットゥ、それはマリアーンの本名だ。
「…そうだ」
メリアが答えると、精霊は続けて言う。
「それなら、何故私と戦っているの?」
「アリアを返してもらう為」
「…なら考えてみて」
精霊は続ける。
「私がマリエットゥの刺客の精霊だとしたらどうするの?」
「…関係ない」
メリアが答えると、更に精霊は重い言葉を畳み掛ける。
「…益々分からないわね。貴方が同類を傷付ける意味が」
「…?」
「この子の身体に傷が付いたり死んだりしてもいいの?」
「そういうわけじゃあ…っ」
メリアが言うと、次は呆れたように精霊は言った。
「……これが精霊を糧にして作った多重人格か」
その声は、メリアには聞こえなかった。
なぜなら――
「――そこまででいい?」
結界の穴から、レジリアは飛ぶように降りてきたからだった。
『レジリア…?!』
「ちゃんと聞こえてたよ。遅くなったな。…てか中からだと丸見えに見えるんだな」
ボロボロな姿で答えるレジリアに笑ってしまいそうだったが、調子を整えメリアはレジリアに言う。
『…とりあえず私達で引き止めよう』
「分かった」
レジリアはそう言うと、魔術の詠唱をした。
「―蔓魔術、第83章、巻き細蔓。―」
それと同時だった。
大きな揺れと共に、結界の上部が音を立ててバリバリとヒビが入る。
(…?)
メリアが上を見上げると、その瞬間に結界は粉々に崩れる。
その代わりに、冷めるような少女の声が聞こえた。
「――光芒」
その声が聞こえると、辺りは光に包まれ、メリアとレジリアは目を閉ざした。
しかし、アリアに取り憑いた精霊は光の中で目を見開いていた。
そんな精霊の耳に、また冷めるような声がした。
「――靉光」




