【10章-9話】結界の効果付与
――「レジリアっ…!」
自分の名前を叫ぶ声で、レジリアは目を覚ました。
(呼ばれてる?)
身体を起こそうと力を入れると、見覚えのない激痛が身体中に走る。
「…っ!?」
痛みで目を完全に覚ました。
その流れで、レジリアは直ぐに自分の身体を見る。
「な、なんだよ、これっ?!」
服は戦闘後かのように裾部分が焼ききれていたり、擦り切れていたりしていた。
そこで、レジリアは判断した。
見覚えのない服の状態と、身体の痛み。
それを指すのは、思い当たることはひとつしかない。
「チッ、操られてたか」
すると、レジリアは直後には痛みに耐えながら起き上がり、身体の煤を払った。
「…というか、誰が僕のことを呼んだんだよっ…て。うるさいなぁ。さっきから」
レジリアがゆっくり後ろを振り返ると、そこには学園の廊下を埋め尽くす巨大な結界と、その中で戦闘をしている者がいた。
あの結界は、恐らく…いやほぼ確実に防音効果が成されていない。
通りで起きてからずっとうるさいわけだ。
レジリアはその騒音に耳を塞ぎながら、中の人物を観察する。
(…2人?かな。……うげぇ、めっちゃ相手速っ)
そのまま、レジリアはじっと戦闘の様子を見ていた。
しばらくして、突如として片方の人物の動きが鈍くなった。
その時、片方の人物の顔がはっきりと見えた。
「――メリア?」
間違いない。
その人物はメリア本人だった。
「てか、どうしてメリアが?」
レジリアには、ここまでの数時間の記憶がない。
メリアが何故戦闘をしてるのか、はたまた何故ここにいるのかが一切分からない。
(…こんなとこに巻き込まれたくない、っていうのが本音だけど…)
レジリアは頭を悩ます。
(メリアを助けるとなるとなぁ…。――っていうか、その相手は誰だ?)
ふと思いついた疑問を解決する為に、レジリアは更に結界の中を覗く。
次は1度ではっきりとお相手の姿を捉えることができた。
しかし、レジリアはその姿を見て驚愕した。
そして呟いた。
「アリア、なのか?あれ…」
レジリアの目に映ったのは、普段本人が出さないような狂気的な笑みを浮かべた、アリアだった。
その瞳も、片方はオレンジ色へと変わっていた。
「…ってことは」
レジリアは昔の話を思い出す。
――「この子は、人より精霊に取り憑かれやすい体質のようだ。レジリア、これが意味していることは分かるか?」
「護れ、ということでしょうか」
「…そこまでは行かないが、はっきりというなら、見守り程度に様子を見てて欲しい、という返答になる」
「何故、僕に?」
「あの子には、お前が1番だと思ってな」
「…。では、もうひとつ宜しいですか?」
「何だ?」
「何故本人には伝えないのです?」――
――「「あの子の夢を潰してしまうからだ」…」
レジリアがぽつりと呟く。
(…そうだな。僕、アリアの見守りだったんだ)
しかし、これは10年近く前のだいぶ昔の話であり、今はもうその役目は終えている。
アリアとは家族でもないし、助ける対象でも、大切な友達でもない。
今はもう、助ける意味がない。
――だが、戦いに加わるか、辞めるか、判断をする自由がある。
(…こういうのも、久しぶりにならいいか)
レジリアは笑みを浮かべると、いつかの衝撃で空いた結界の穴を目指して床を踏みしめ、飛んだ。
「からかう材料作りにうってつけだな。この状態」
そんな言葉を残して。
「ね、ねぇ…、ラウィーヌ?説明してくれないかしらっ…?!」
息切れした声を出しながら、エイラはラウィーヌに訊ねる。
しかし、前を走るラウィーヌから返事が来ることはない。
(…これ、何回目かしら)
かれこれ2、30回は叫んでいる。
もういっそ諦めてしまいましょうか、とエイラは思う。
けれども、エイラはそれだけは出来なかった。
理由は、この前の出来事にあった。
――「ねぇ、エイラ。至近距離でも絶対に音も姿も気配も何もバレない方法、言ってみて」
ラウィーヌがエイラに訊ねる。
エイラは迷うことなく、直ぐにその問いの解を答える。
「錯覚効果を付与した結界を張る、でしょう?」
あまりにも単純で簡単すぎる問いに、エイラは続けて言う。
「どうしたの?突然」
「…気になっただけよ。……あともうひとつ問題だしてもいい?」
「えぇ、いいけど?」
ラウィーヌの意図が全く読めず困惑しながら、エイラは答える。
すると、ラウィーヌは事前に準備していたかのように直ぐに、先程とはジャンルが違う質問を繰り出す。
「じゃあ、これから数十分、私を助けてくれる?」
「えぇ、勿論」
即答すると、ラウィーヌは安心したように和やかな表情を浮かべ、深く息を吸って小さくエイラに言ったのだった。
「――私に、ついてきて」
(それでずっと声を掛けてるけど、返事を返す素振りすらしないのよね…)
エイラはハァハァと息を立てながら、足を動かす。
やがて、ラウィーヌの足が止まると、エイラはその場所を見渡した。
(…ここって)
校舎の裏だった。
今は校舎裏での授業はないので、当然誰もいない。
ラウィーヌはまた1歩また1歩と足を動かし、花壇の方へ歩く。
もう声を掛ける気力も失ったエイラは、ラウィーヌの直ぐ後ろを歩く。
そうすると、ラウィーヌはようやくその閉ざした口を開き、声を出す。
「エイラ、結界の再構築術、準備しておいてくれない?」
(結界の再構築術…)
結界の再構築術とは、その名の通り壊れたり、効果を失った結界を再構築する術である。
高等部2年生で習うとされる魔術であり、エイラは習ったばかりの魔術。
(…何処かに結界でもあるのかしら?)
そう思いつつ、エイラはラウィーヌに返答する。
「分かったわ」
「ありがとう」
ラウィーヌは、言うと魔術の詠唱を始める。
「―地魔術、第267章、岩鋭の砕き。―」
魔術によって現れた岩の刃が空気を砕く。
あるはずのないものを砕いた、そういう風にエイラには見えていた。
しかし、その直後には空気から割れ目が出現し、大きな穴が空いた。
「え…っ?」
エイラが呟くと、ラウィーヌは決心した表情でいそいそと結界へと入っていった。
――「お師匠様、今行きますっ…!」




