【10章-6話】再会と再開
暗闇に包まれた生徒会室から、聞き馴染みのある青年の声がした。
メリアが驚きながら声のする方を振り向くと、同時に部屋は次に明るみに包まれた。
(…眩しいっ)
急に明るくなった所為で目を閉じ、自然に光を慣れさせた後、もう一度メリアは目を開ける。
そして、青年が話し始めるより先にメリアは一言放った。
『な、何でここにいるんですか…?ナウアール様?』
声の主は、学園に来ていない筈のレイランド学園生徒会長、ナウアール・スウェディだった。
彼は生徒会室の奥端にある、立派な本棚を指でなぞっていた。
ナウアールはメリアの顔を見ると、まるで安心したかのように続ける。
「ん?…何でって言ったって学校に行くのは当然のことでしょ」
当たり前のように言うと、ナウアールはいつも通りの微笑みを浮かべる。
(ロヴィリア様は、ナウアール様はずっと休んでるって言っていたのに…?)
疑問を感じていると、ナウアールは静かに続ける。
「それよりさ、メリア」
ナウアールはそう言って間を開ける。
言った言葉にメリアが反応すると、ナウアールは1歩1歩メリアの方へ向かって歩き始める。
そして、ナウアールは歩きながら話を始めた。
「この前はすまなかった。完全に僕が悪かったよ」
(この前って…)
この前、ということはこの間の学園祭のことだろうか。
メリアは学園祭のことを頭に浮かべ、制服をギュッと握り締める。
「でもこの通り、僕は元気。だから、今はメリアのことが心配なんだけど…。どうかな?」
ナウアールが問う。
しかし、メリアは口を開くどころか、開こうとする素振りさえ見せない。
「…大丈夫?」
もう一度、ナウアールが問う。
だが、メリアはその答えを口に出すことはなかった。
なぜなら――。
――「貴方は、ナウアール様ではありません」
メリアはナウアールの顔を睨む。
しかし、心の中ではこう思っていた。
(…と言っても、私は解術方法知らないんだけど…)
心の中の気持ちは抑え、メリアは目の前にいる者と目を合わせたまま、一言も発さない目の前の者に問う。
『…目的は?』
「うん?」
『精霊でも、理由くらいありますよね。一応人間と信頼関係結んでるんですし』
「…」
『教えて下さい』
メリアが更に訊ねると、その者は小さくメリアだけに聞こえる声で言葉を発した。
「…むり」
『?』
「……あぁっ、もーやだってぇ。“ご主人様”ぁ〜」
取り憑いた身体から精霊の白い影が出てきたかと思うと、白い影は小さい子供程度の人型の形を作り、その場に泣き崩れた。
その子供型をした精霊は、メリアが見てもとても美形だった。
金髪の少しウェーブがかった髪をしていたので、もっと美形に見えた。
(…?)
しかしながら、メリアはこの状況を全く掴めないでいた。
(“ご主人様”?…もしかして、この精霊の契約者?)
疑問を感じていると、その精霊はこちらの様子に気が付くと突然泣きやみ、メリアを見つめる。
「…何もしないの?」
その質問にメリアは直ぐに質問を返した。
『何もしないの、って?』
キョトンとメリアを見つめたまま、精霊はその場に立ったかと思うと、笑顔を作ってメリアに両手を広げて突進してきた。
(…えっ、えっえっ?)
無論、抱きつかれる準備などしてもいないメリアは、精霊の物凄い力によって、倒されるようにして失神したのだった。
次にメリアが目を覚ましたのは、その後直ぐのことだった。
メリアは床に寝かされて、2人分の陰に囲まれていた。
「――大丈夫、メリア?」
掛けられた声に聞き覚えがあった。
それは、幼い精霊の声でもナウアールの優しい声でもない。
メリアを起こしたのは、――いつかの友、マリアーンだった。
その姿は、最後にメリアに見せた時と同じ、山羊のような角を持った姿であった。
そしてもう1つ。
その姿は、もう前のように制服のローブは着ていなかった。
メリアはマリアーンの様子を伺うと、ぎこちない笑顔を作った。
『…ひ、久しぶり、です』
「うん、久しぶり」
いつか見せてくれた笑顔で返すと、マリアーンは直ぐに真剣な顔に切り替える。
「あのさ、メリア」
マリアーンが言葉を発すると、メリアがマリアーンに耳を傾けるよりも先に、自身の身体に抱きつかれる感覚がした。
(…っ?!)
マリアーンが抱きついていたのだ。
メリアは驚いて身体を起こすが、揺れても尚、マリアーンは微動だにしない。
メリアが動けず焦る様子を見ると、マリアーンは「…ごめん」と手を離す。
(…)
沈黙が続くと、メリアが気にかけるよりも先にマリアーンが言った。
「メリア、説明させて」
マリアーンの真剣な声に、メリアは精一杯の決心顔で返した。
『うん、分かった』
――「…っ!僕を弟子にして頂けないでしょうかっ!」
レイランド学園の廊下でそう叫んだのは、プルディスティアンだった。
あまりにも突然の叫びだったので、ソルメリドは驚いて目を見開いていた。
そこに、ナーフェルディア辛辣な言葉を並べる。
「唐突すぎるし、最高魔術師様に弟子にして貰うって…。絶対無理だし、私達の仕事もあるからね?」
「…まぁ」
ウルディアが目をすぼませて考え込む。
それを見たソルメリドは、大股でプルディスティアンの隣に近付くと、肩を掴んで隅っこの方に行って話す。
「おい、プルディスティアン。お前のその放浪癖は分かってるつもりだが、どういうことかわかってんのか?!」
「うん」
「本気で言ったのか?!」
「あぁ」
「ナーフェルディアが言ったことも承知の上で?!」
「…あぁ」
「これは後から思ったな」
ソルメリドが言うと、プルディスティアンはソルメリドの足に縋り付くようにして、顔を埋める。
(?どうかしたのか?)
ソルメリドが心配したのも束の間、プルディスティアンはソルメリドに笑顔で言った。
「国王に直談判しに行かないか?!」
その答えに、ソルメリドは硬直した。
――(ウルディア様は首を縦に振ってないが?)
それからしばらくした後、ソルメリドが諦めた時にウルディアの声でこんな言葉が聞こえた。
「…受諾致した」
その言葉に、プルディスティアンはガッツポーズをした。




