~前代未聞の弟子と家族~
博一は、正義の頭を撫でながら立ち上がる。
そして、正義に背を向けながら話す。
「まぁ、今日のことは忘れな......つっても忘れられるわけないよな」
博一は、不安を感じさせないように、笑顔を取り繕って振り返り、語りかける。
「これからお兄ちゃんの仲間がここに来る。後のことは、その人に任せな?」
正義のことを、被害者を人に任せるというのは普段の博一であれば、しない選択である。
しかし、この惨状を作り出した原因であることが、その決断を選んだ。
すると、博一の後方から、聞きなれた声が聞こえてきた。
「お兄様!!」
逸花は、あまりに慌てたため、いつもの名前呼びを忘れてしまっていた。
その声を聞き、振り返った博一は思わず目を見開く。
そこには、普段なら本拠から出てこない両親の姿もあった。
「また無茶をして......博かっ」
心配そうに近づく母を押しのけるように、父が博一の前に歩み寄る。
「父上......!?」
急に近寄ってくる父に驚く博一を他所に、無言で博一を抱き寄せた。
「心配したんだ......」
低く、落ち着く声で安堵の声を宏昌は漏らした。
そんな宏昌を見て、悠翠は小馬鹿にするように話す。
「あら、妖使いと話していいんですか?いつもあんなに掟やら、伝統やらを大事にするのに......」
それを聞いた宏昌は、咳ばらいをしながら着物の袖に手を通しながら答える。
「話してない。一方的にしゃべってるだけだ......」
それを聞き、先ほどよりも、ニヤニヤしながら悠翠言った。
「あら?私も妖使いですけど?」
それを聞き、宏昌は思わず振り返り大声になる。
「誰も見てないんだ!いいだろう!?」
普段からは......いや、これまでを踏まえても見たことのない父の姿を見た博一は、開いた口が塞がらなかった。
そして、それは逸花も同様だった。
そんな子供二人を見た悠翠は、笑いながら説明をする。
「この人、素だとこんな感じよ?昔、いろいろあって伝統だったり掟だったりに敏感になっちゃってねぇ......」
そんなことを話していると、悠翠は博一の後ろにいる子供に気が付く。
「あら?その子は?」
博一は事情を説明し、正義を悠翠と宏昌に引き渡そうとする。
しかし、正義はそれを受け入れようとはしなかった。
「僕、お兄ちゃんみたいになりたい!」
この場にいる誰もが驚いていたが、博一が最も驚いていた。
そんな博一を無視するかのように、自分の考えを正義は話し出す。
「僕のお父さんは、事件巻き込まれて死んじゃって......お母さんも鬼に食べられちゃって......でも!お兄ちゃんみたいに強くなれたら、僕みたいな人を減らせるんじゃないかって......だから!」
最後まで言い切る前に、悠翠は正義の口に人差し指を当て、ウインクをした。
「分かりました。では、貴方を博一の弟子として認めましょう!」
堂々と言う悠翠に対して、博一は慌てて撤回させようとする。
「ちょっと待ってください!私は今回の任務で暴走をしたんですよ!?しかも、倒せたのは私の力じゃない!逸花の式神だって巻き込んだ!そんな私に......」
どんどんと、自分を悪く言う博一に対し、悠翠はあきれた様子で話す。
「ですってよ?逸花?」
悠翠の目線の先で、逸花は笑顔であった。
逸花は、自身の右目を指差しながら話す。
「この右目は博一さんから頂いた目です。それを博一さんの為に使っただけなので気にしないでください!それに……」
逸花は俯いて、人差し指を胸元でくるくると回しながら言う。
「博一さんと左右反対ですけど、お揃いになりましたし!」
我が子の会話を見た悠翠は、額に手を置いて呟いた。
「今更『博一さん』って言っても、遅いと思うけどなぁ……」
それを聞いてもなお、博一は悩んでいた。
そしてやはり断ろうと意を決して話す。
「やはり、弟子として迎え入れるというのは無理があります!それに、表向きは妖使いと陰陽師に格差はないとなっていますが、やはり根強い差別はあります......それに、師匠が餓鬼道の使い手だということも......」
そんな博一に悠翠は今までの話を理解できなかった顔をして話す。
「私がいつ『妖使い』として弟子になると言いましたか?」
それを聞き博一は、目を見開いて驚いた。
悠翠は構わず続ける。
「あなたには、この子を陰陽師として育てなさい!」
そういう悠翠に博一は思わず反論する。
「いやっ、私は妖使いなのに陰陽師を育てるのは無理なのでは......」
当然である。妖使いの弟子が陰陽師であるなんて前代未聞。本来倒すべき妖を使う者の教え子がその妖を倒すのだ。しかも問題はそれだけではない。
「そもそも弟子が何かをやらかした際、それを止めるのが師匠の務め。それなのに、弟子を止められぬ師匠になれというのですか!?」
博一がそう言うのには理由がある。
妖は式神に”絶対に”勝つことが出来ないのである。妖の攻撃は、神の一種である式神に通じない。妖の中でも”九尾の狐”を始めとした、神に近い妖でないと攻撃は全く通じない。
つまり妖使いの弟子が陰陽師の場合、それを咎める方法がないという状況になる。
しかし、悠翠は続ける。
「そんな時は、貴方自身で止めなさい。まぁ、こんないい子が粗相するところなんて想像つきませんけどね?」
人間の攻撃は式神には通る。つまり理論上は、妖使いは陰陽師に勝つことが出来るのだ。
そう言いながら、悠翠は正義をちらりと見た。
「まぁ、優秀な陰陽師が増えるのはこちらとしても、願ってもないことだ。やってみなさい。基礎的な知識はお前にも身についているはずだ。なんてったって私たちの子供だからな......」
宏昌がそう言ったことで、自身を支持するものは居ないということを悟り、とうとう博一も諦めた。
博一はしゃがみ、正義と目線を合わせ語り掛ける。
「言っとくが、俺の修行は厳しいぞ?それでもいいのか?」
そんな博一の眼を真っすぐ見つめ答える。
「はい!お兄ちゃん!」
そんな真っすぐな目をする正義の頭をくしゃくしゃと撫でながら立ち上がる。
「これからはお兄ちゃんじゃなく、師匠と呼べ!こうなったら教えられること、全部教えてやるからな!?」
そんな博一の言葉を聞き嬉しそうに、正義は言った。
「はい!師匠!」




