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~身勝手な自分に仕掛けた罠~

 瞬鬼を包み込むように博一の体が徐々に小さくなっていく。それに比例するかのように咀嚼(そしゃく)音は大きくなっていく。咀嚼音が止まる頃には博一の大きさは元に戻っていた。


 瞬鬼を喰い尽くした博一は、上から紐で持ち上げられるように立ち上がる。その眼は未だに飢えた獣のような眼をしており、元の博一と親しい間柄であっても”それ”が博一であるとは分からないだろう。


 上半身を脱力した状態で腰を回すことで(あた)りを見回す博一は、次の獲物を探していた。満たされぬ(うえ)えを満たそうと、あるいは(しょく)した瞬間の幸福感を味わうためか......


 博一の眼に、1つの肉が目に(とま)まった。


 それは博一が自らの命と引き換えに助けようとし、今の惨状(さんじょう)を引き起こすきっかけとなったあの少年であった。


 

********************************************

 博一は気づくと真っ暗な四角い部屋の真ん中で椅子につながれていた。


「ここは......?俺、何をしてたんだっけ?」


 博一の前には、壁に直接プロジェクターを投影(とうえい)したように薄く映像が映し出されていた。その映像は主観視点で瞬鬼と戦っている誰かの目線であった。

 それに気づいた瞬間、一瞬映像が濃くなったが後ろからの声に意識を持っていかれた。


「おい、何起きてんだ。お前が望んだことなんだから口を出すなよ」


 肩に腕を置き、やけに親しげに接してくるが、その口調には親しさのかけらもなかった。その声は博一自身の声に似ていたが、もやがかかったようにくぐもっていた。

 なぜか、博一はその声を聴くとぼんやりとしてきていた。それを振り払うように博一は質問を投げかける。


「あれは、誰が戦っているんだ......?」

 

 博一の質問に対し、くぐもった声の主はあきれたように答えた。


「あれは俺だ。お前が頼んだんだから俺が戦ってんだろ?お前が傷ついて、自分の力で解決することを諦めたからだろ?俺はお前の尻拭いをしてんだよ。だから俺が何をしようがお前に言われることは何もない」

 

 自分勝手な理論にも聞こえるものであったが、博一は言い返せずにいた。

 

 壁に映し出されている映像が希薄になっていく......

 

 それと連動するかの如く、博一の意識が遠のいていた。


(もう訳が分からない......ぼんやりとしてきた......)

(そうだよ......戦っているのは俺じゃないんだ......もう寝てもいいよな......)


 意識が薄れていく博一には、すでに考えるだけの気力は残っていない。


 このままであれば博一は眠りに()ち、二度と目覚めることはないはずだった。


 

 次の瞬間、博一の全身の筋肉が縮むような痛みが走る。

 

 その痛みによって堕ちつつあった博一の意識は引っ張り上げられた。

 

 痛みによってはっきりした博一の意識に対応するように、壁に映し出されている映像の彩度が上がっていき、部屋全体が眩い光に包まれていく。

 

 その光景に、くぐもった声の主は苛立(いらだ)つように声を上げる。


「あ゛ぁ!?こいつ、自分に罠仕掛けてやがった!はぁ、まぁどうせ俺をまた呼ぶだろうよ......あの時みたいになぁ......」

 

 博一の意識が徐々に戻っていく。

********************************************

 博一は自らの飢えを満たすために、自身を捨ててまで守った少年をその手で殺めようと近づく。


 目の前まで来た博一に対し、おびえた様子で震える少年。

 その手を振り上げ、食事を始めようと顔をほころばせたその時......

 

 博一の全身に電流が流れた。


 それは博一が外道を使用する際、かすかに残った理性によって仕掛けられた時限爆弾であった。

 

 筋肉が収縮し、体をうまく動かせなくなった博一に後ろから無数の黒い手が伸びる。


 その手は博一の後方三十メートルにある門から現れていた。


 その門は博一が「外道」を使用した際の門と同じであった。

 

 必死に振り払おうとする博一だったが電流によって筋肉が収縮している状態であるため、筋肉を千切りながら暴れていた。


 しかし、徐々に黒い手に包まれていく。そして黒い手に包まれた博一は引きずられるように門の奥へ消えていった。

 

 門が消えて、そこに残されたのは胸を押さえながら膝をつく博一だけであった。

 

 少年は、自らを助けてくれた博一に駆け寄る。


 「お兄ちゃん!大丈夫!?」


 博一は少年の顔を見て微笑みながら答える。


「あぁ......何とか間に合ったみたいだな」


 少年の顔を見て、安堵した博一は自らの感情が(あふ)れ出てきた。


「良かった......!本当に......!」


 博一には、頭の中で会話していた時の記憶は無かった。


 だが、自身がどうなっていたか、何をしようとしていたかは記憶がなくとも察することが出来た。


 それが理由か、それとも記憶をなくしてまで「外道」を使った自身への不甲斐(ふがい)なさからか......

 

 博一は髪を乱すほど強く頭を掴み、(うつむ)きながら静かに涙を流した。

 その様子を見た少年は、静かに抱き着いた。

 

 その抱擁は、あまりに頼りなかったが博一にとっては、何よりも心強いものであった。

 

 一通り泣いた博一は、涙をぬぐって少年に問いかけた。


 「少年、名前は?」


 それに対して、少年は少し申し訳なさそうに答える。


 「朝倉(あさくら) 正義(まさよし)。正義って書いて”まさよし”って読むんだ」


 それを聴いた博一は続けて聞く。

 

 「由来は?」


 現在幼稚園年長である正義に対して、少々難しい質問であることは博一も分かっていたが、聞くべきである気がした。

 

 由来を聞かれた正義は、少々悩みながら答える。


 「真っすぐで、”義”?に厚い人になるようにっていうのと、正義を貫ける人になるようにって。お父さんが警察官だったからそういう風につけられたってお母さんが......」


 それを聞いた博一は、静かに頭に手を乗せて呟いた。

 

「そっか......いい父ちゃんだな......」

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