第97話 素質への疑問
素質について説明不足だったのでここで少しだけ。
ユウキ自身の素の力+身体強化スキルによる上昇値(ここの素質が0なのでいくら魔物を倒しても上がらない)+装備+支援バフや強化魔法等々=実際の力
というようなイメージです。
前回のあらすじ:
対魔物戦闘試験が終わり、詳細素質判定を先行して実施してもらうために国立ダンジョン研究所へ移動。
ユウキの詳細素質が、総合判定:最弱という事が判明した。
(まさか人類の希望ともいうべき並野君がねぇ……天は二物を与えずか……え?)
「もしかしてそういう事?」
ビクッ!
主任研究員があげた突然の声に、ユウキたちの体は揃って反応する。
しかしそんなユウキたちの反応には目もくれず、資料を探して動き出す主任研究員。
「これでもない、うーん、どこだったかな」
ぶつぶつと言いながら書庫の資料を探し出す。
「あった……ダメだ、この頃はまだ基本3種判定か。
……素質判定が詳しくなってからは出てきていない?」
そして資料を見つけたものの、情報が不足している事を確認しただけとなった。
「ダンジョンは古代エルフが設定した物。ダンジョンシステムもそう。
地球人に偶然才能があったわけではない……全てシステムを作った者が考え出した事……」
主任研究員は、これまでガイドから聞かされたダンジョンについての情報をまとめた紙を見ながら考察を続ける。
「魔物を倒すと魔力因子を取り込み、ダンジョンシステムを通じて強くなる。
それがダンジョンシステムに組み込まれている魔力流用システム。
最終的にはダンジョンシステムを使わずに魔法を使う事を学ぶため……なぜ人によって素質に差をつけた?
素質は魔物を倒すために神が人間に与えた力なんかじゃない……魔物を倒したことによって得られる魔力因子によってダンジョンシステムから与えられている……ならばなぜ……」
ユウキたちはなにやら考えている主任研究員を見ながら、とりあえず邪魔をしないようにしようと息をひそめて見守っている。
「多様性?
どういう状況で魔法のきっかけをつかむか分からないならそうするかな。だけど、圧倒的な強者と弱者を作る?
……それなら吸収する魔力因子で差を付ければいい……でもわざわざPT等で分配してまで吸収させていることを考えれば……魔力因子の使い方調整かな、やっぱり。
そうなると吸収された魔力因子の分配が素質?
……でもそれだけなら、素質の絶対量を弄る意味はない……絶対量が少ない分他が成長する?
……ダメだ、それだけならスキルが早く成長する程度しか納得がいかない。
他に何がある?
うーん……」
そして主任研究員は悩みこみ、歩き回るのをやめてしまう。
『これってユウキの状況から何か閃いたっぽいわよね』
『ですね。でも推論に納得がいかないようですけど』
『やっぱり俺の状況は珍しいのか……。
よりによって0とは』
『ほら、素質が無くたって魔衣で身体能力は上げられるわよ』
『そうですよ。普通に運動もありますし、回復魔法は任せてください。
魔物を倒す以外の道もありますって』
「そうか!
装備制限だ。魔法もか。これがバランス調整になっているのか!
そうかそうか、それなら確かに納得できる」
『なんか結論が出たっぽいわね』
『何だか聞きたいような聞きたくないような』
『でも知識は知識よ』
『大丈夫ですよ、ユウキさん。
何があっても私達が付いていますから』
そんなユウキたちがそんな言葉を交わしている間に、主任研究員がユウキたちが見ている状況に気が付いた。
「やぁ、ごめんごめん。
つい気になったら考え出してしまってね。
ちょっとあの空間を出してくれないかな?」
その言葉にピンと来たユウキは温泉旅館の宝玉を使用し、全員に使用許可を設定した。
「いやー、すまないね。
単なる僕の思い付きだけど、どこから情報がもれるかは分からないし。この結界の中なら安心して話せるよ」
温泉旅館の中まで移動し、4人とも座ってのんびりしたところで主任研究員が切り出す。
「先ずはどこから話せばいいのかな。
うーん……今まで考えられてきた素質の認識から行こうか」
こうして主任研究員は人類とダンジョンの関りについて話しだす。
「人類から見たダンジョンや魔物というのは、突然地球にやってきた存在だね。そして人類は、魔物を倒すことによって隠された力に目覚めたのだと考えた。この辺はダンジョンシーカーの始まりの形だから習っているかもしれないけど。
魔物を倒した時の力の成長は人によって違いがあり、成長の早い人、つまり今で言うと素質の高い人が優れた人類だと思うようになった。
この力の元は神が人間に与えたものだと、そして素質が高い人間は神に選ばれた人間だと思われるようになった。
実際に魔物の脅威を排除する先駆者となったのが、素質が高くて戦闘力の上がりやすい人達だったというのがその発想を後押ししたんだろうけど」
そこまで一気に語った主任研究員はここで一呼吸入れ、紅茶で口の中を潤す。
「でも実際はガイドの言う事が正しいのであれば、あくまで地球が魔力領域に移動しただけ。人類に隠された力だと思っていた内容は、古代エルフ族がダンジョンシステムとして設定した魔力領域内の魔力流用システムを使えるようになっただけという事。神に選ばれたわけでも何でもなく、ただ設定上そうなっているというだけ。
それでも何故そのような差が出るのかという事だけど……」
さらに推論の説明は続く。
結果的にダンジョンシステムを使用しない魔法の使い方を学ぶ際に、どういう方法が良いかは分からなかったのではないかと。色々試してお互いが補えるように多様性を確保したのではないかと。
PT等で魔力因子を分配して吸収させる補助を用意していることから、個人の絶対的な差をつけるようには設定していないのではないのかと。
「とまぁ魔物を倒すことが目的ではなく、魔物はあくまで運動不足解消のエサで倒せて当たり前。ただの娯楽。
本物の魔法を使えるようになることが目的というなら、素質なんて高くても低くても意味はない。それこそ魔力因子を与えるだけでいいのなら、古代エルフ族には他にも方法はあっただろうし。
それなら重要なのは魔力因子の量ではなく過程で、人によって違う状況を経験していく事によって魔法が使えるようになる可能性を広げたんじゃないかな。
そう考えると、素質が低い人は身体強化ではない部分に魔力因子を使っていると考えるべきだ。素質は一定量の魔力因子を与えた時に強くなる効率ではなく、魔力因子配分のバランス。こう考えれば同じ行動をした者の魔力因子無駄にはならないからね」
そして主任研究員はユウキを見る。
「あー、僕は別に君たちの事を探るつもりはないんだけど、ミッション発見の事も君たちだよね。訓練施設『初級コース』突破の為の研究依頼は研究所にも来てるから。霞PTが関係しているという話は聞こえてくるし。
とはいえ霞PTが君たちだという話は極少数しか知らないけど」
「分かる人には分かりますよね」
「まぁね。その上で君たちに聞きたいんだけど、先ずは並野君。何かのスキルが2に上がってたりしないかい?」
『話しちゃっていいと思う?』
『どうせ私達だけじゃ意味は分からないんだし、私達の事を知っている専門家に考えてもらった方が良いんじゃない?』
『スミレさんには既に話していますし、情報を纏めたら順次公開することになるのではないでしょうか』
『それもそうか』
「えっと、俺がクラスによる追加スキル分を除いて持っているスキルは<身体強化>以外は2になってますね。<解体>と<解析>だけですが」
「アレンジスキルは2という表示はないかい?」
「今のところないですね」
「ふむ、小野寺さんと神山さんは2になっているのはあるかい?」
「いえ、無いです」
「私も無いです」
「やっぱりそういう事なのかな……。
僕の推論結果は2つ。まず1つが今のスキルの成長の話。
素質というのは結局<身体強化>スキル内に使われる魔力因子の量を表していて、素質の総合値が低い人は他のスキルの成長に使われているのではないかなと。
でもそれだけだと並野君のアレンジスキルは偶然とも考えられる。身体強化の代わりに他のスキルの成長が早いならまだわかるけど、強力なスキルを得られるというのは引っかかってね。
そこで2つ目の推論が、装備や魔法に制限がかかる代わりにアレンジスキルの制限がゆるくなるのではないかなという事」
「えっと、俺のアレンジスキルの事も知っているんですか?」
「あれ?
聞いてないのか。僕と所長は知ってるよ。
君たちは<魔化>もあるから流石に誰も知らないというのは不味いけど、所長と僕が研究しているという事にしておけば他の人は気にしないからね」
「そう言うものなんですね」
「一手目で既に誰かが対応していると分かるだけで、意識なんていうのはそんなものだよ。只でさえアレンジスキルはあまり広めない方が良いというのは共通認識だしね。知ったところで再現できないんだから活用しようがない。
だから小野寺さんや神山さんのも僕達が担当として知ってるよ。
神山さんのは、生産系のアレンジとして似たような例はそこそこ資料にもある。並野君と組めたことは素晴らしい天運だね。素材さえあれば神山さんのアレンジスキルは輝くから。
小野寺さんのは、今の人類から見れば一見『ものすごくとんでもないアレンジスキル』に見えるけど、誰でもミッションでランドマーク転移が手に入る前提を考えると『かなりいいアレンジスキル』というレベルまで落ちる。ダンジョンシステムとしての転移魔法もあるんだから、恐らく本物の魔法とやらならもっと使いやすい転移魔法を組めるんじゃないかな。
その前に、転移魔法で行ける先の転移魔法陣がもっといろいろな場所に設置できるようになるかもしれない。今の人類はダンジョンシステムをまだまだだ使いこなせていない位置に居る、というのは分かってしまったことだから」
主任研究員はタマキとサクラを見ながら解説する。
「それに2人のアレンジスキルには制限が付いている。
例えば神山さんのアレンジスキルは、未だに追加付与やら効果上昇やらの個数が増えることは無く、上書きのみだよね。つまり1個だけしか保持できないという制限が外れる様子はない。
小野寺さんも、あくまで目印を付けた場所から10mという制限が外れる様子もないし、転移先は目印があるところだけという制限も外れることは無さそうだよね」
次に主任研究員はユウキを見ながら話しを進める。
「それに対し並野君は、対応距離がどんどん伸びているというだけでなく制限がない。
目に見えないはずの位置だろうが、触れない位置の物だろうが関係ない。領域として指定の方向に伸ばすこともできれば全方位関係なく距離内の物であれば収納できる。
くっついていても切断してしまえば一部だけ収納することもできる。唯一の例外と言えば、元となっている収納スキルの仕組みで収納出来ない物には効果が無い位の事。
アレンジスキルが収納スキルになった事やアレンジの方向性は並野君が起こした偶然にしても、この制限の無さが素質による制限とバランスをとっているのではないかと思ったわけだ」
「でも主任さん、俺のような例って他に居ないんですか?」
「僕の知る限りでは居ない。
根本的に詳細素質判定機で素質を測定しているのは、今のところダンジョン科に入る高校生だけだからね。ここは研究所として特別にあるけど、他の測定器は受験生を測定するとき以外は有料で測定を受け付けている位だよ。
それだって過去にまだ詳細素質判定機が無かった頃のダンジョン科卒業生が測定するくらいだし。元々素質に自信がある人以外にとって、自分の細かい素質の数値なんてあえて知ったところで意味が無いからね。
もちろん低いけどダンジョン科に来るという人は他にもいるから、素質が低い結果の人が居ない訳ではないよ。でも全部0なんて言う人は初めて見たよ」
「そうなんですね」
「ただ過去にアレンジスキルで有名になった何人かは、ものすごく素質が低かった可能性はあるね。その頃は詳細素質判定機なんてなかったから実際はわからないけど」
「主任さん、素質が身体強化に作用する数値だというのは確認できているんですか?」
サクラがそもそも素質とはどういうものなのかという話を訊ねる。そんな数値があったところで何故それが身体強化のスキルの話につながったのか。
「素質測定器の鑑定にそう書いてあるからね。あとは実際に身体強化のスキルを無効化すると、分かる範囲で体は魔物を倒さずに運動をしている人と大差ない状態に戻るから。
肉体が勝手に強化されているのではなく、あくまで身体強化というスキルが強化されていて、どういう風に強化されるのかが分かるのが素質なんだと考えているよ」
「無効化できるんですか?」
「え?
そりゃできるよ。出来なかったら困っちゃう……あれ?
君たち年いくつだっけ?」
「3人とも15歳です」
「うーん……成人年齢変わったし良いのかな?
というか性教育って受けてないの?」
「学校で教わる程度なら……」
「大人の魔道具については?」
「存在自体は知ってます」
「……ああ、そうか。まだ使う前か。ごめんごめん、普段シーカー相手だともっと大人相手だからね。
君たちの年頃だと娼館に行く事も未だ無いだろうし、知らなくても不思議じゃないか」
そして主任研究員は大人の魔道具を取り出すとスイッチを入れる。
「「え?」」
「結界?」
びっくりするタマキとサクラとは別に冷静に起こった出来事を見つめる。
「やっぱり並野君は体に違和感はないのかい?
試しに少し動き回ってみて」
ユウキは言われて歩いたりジャンプしたりしてみるが、普段と全く違いはない。
「特に変わらないですね」
「まぁ素質0という事はそういう事なんだよね、やっぱり。
身体強化を取得しただけでは強化値は0ということか。
小野寺さんと神山さんは普段と感覚が違うだろうから動くとき注意してね」
「「はい」」
そう返事をしながらゆっくりと動いて感覚を取り戻すタマキとサクラ。普段と力のはいり方が違えば身体の動き方も違う。手加減した動きではなく通常の動き。感覚が慣れるまでに少し時間がかかったものの、慣れてしまえばどうという事はない。
5分もかからずに違和感なく動くことができるようになった。
「ね?
身体強化が無くなっただけで、体自体は強くなっていないのが分かるでしょ」
「こんな道具あったんですね」
「大人の魔道具なんて言われているけど、元々は牢屋で監禁する時に使用される系統の魔道具の1種だよ。これは<身体強化>だけを制限するフィールドを張るタイプ。そこに浄化の魔法が定期的に使用されるスイッチが別についている。
元々は体の汚れ等をきれいに維持するために付いているんじゃないかと言われているけど、体液もきれいにしてくれるからそういう使い方を今はされているというだけだね」
「力の差はこうやって回避できたのね」
ユウキを見ながらしみじみとつぶやくタマキにピンときた主任研究員。
(あー、多分早く強くなりすぎたんだね。もっと大きくなってからであれば先に知っていたのかもしれないけど……あれ?
僕が教えちゃってよかったのかな……まぁ成人しているしいいか……)
いつの間にか笑顔が戻ったユウキたちを、生暖かい目で見守る主任研究員であった。




