第98話 アレンジスキルの取得時期
前回のあらすじ:
ダンジョン研究所の主任研究員は、ユウキの詳細素質判定結果から素質とスキル、そしてアレンジスキルの関係について考えた。
ユウキたちは身体強化の影響は大人の魔道具で無効化できることを知った。
「……というような事があったんです」
ダンジョン研究所を出てクラン黄昏の拠点へと戻ったサクラは、スミレに対してダンジョン研究所であったことを説明した。
クラン黄昏の拠点とは言うものの、今はユウキたちの他はスミレしかおらず、拠点と呼ぶのはある意味正確ではないのかもしれないが。他のメンバーは黄昏用のダンジョンで色々と行動中なのである。
そしてサクラがスミレに説明しているのは、ユウキとタマキがどこかいつもより硬い表情をしているからだ。スミレとしては当初何かあったのかと思ったものの、3人の詳細素質測定結果を見た今となってはユウキの結果に関する事なのだろうと当たりをつけていた。
実は2人が気にしているのは大人の魔道具の事なのだが、スミレとしては素質の結果の方が気になってしまい珍しく読み違えたのである。
<ユウキの測定結果>
++++++++++
・詳細素質8種判定
物理攻撃力:0
物理防御力:0
魔法攻撃力:0
魔法回復力:0
魔法防御力:0
力:0
体力:0
敏捷:0
総合判定:最弱
++++++++++
<タマキの測定結果>
++++++++++
・詳細素質8種判定
物理攻撃力:93
物理防御力:85
魔法攻撃力:49
魔法回復力:41
魔法防御力:53
力:87
体力:54
敏捷:98
総合判定:遊撃物理型
++++++++++
<サクラの測定結果>
++++++++++
・詳細素質8種判定
物理攻撃力:27
物理防御力:35
魔法攻撃力:43
魔法回復力:100
魔法防御力:81
力:43
体力:35
敏捷:48
総合判定:聖女
++++++++++
「素質とスキルの成長バランスねぇ。
予想が正しいのだとしたら、合計値かしら。8種迄あるんだから最大800?
あ、でも全部100なんていう状況があり得ないのかもしれないわね。これまでのデータの最大合計値っていくつなのかしら」
スミレは渡された素質判定結果を見比べながら考え事を口にする。
「主任研究員さんもその辺を調べるみたいですよ」
そこにサクラが口をはさむ。
「ああ、やっぱり調べるわよね。でもスキルの成長具合を調べるのって難しいわねぇ。
力なら握力とかで調べられそうだけど、スキルは使用するだけでも成長してしまうのよね。ユウキ君のアレンジスキルの成長速度がおかしい説明にはなるけど、これ普通の人だと気が付かない気がするわ」
「これまでそういう例ってないんですか?」
「そもそも素質基本3種判定が低い時点で、多くの人は魔物と戦う道をやめてしまっているのよ。現状の制度だと仕方がないんだけど。
それでも高校でダンジョン科を目指す人はいるわよ。ユウキ君のような例は珍しいけど、やる気とお金があって協力者さえいればPTを組んで魔物を倒せばいいんだからね。
でもそう言う人って常に同じメンバーでPTを組んでいる仲間がいるわけではないから、スキルの成長の差は分かりにくいのよ」
「私達の場合はユウキさんとタマキさんが殆ど一緒だから分かりやすいんですね」
「そうね。それにスキルレベルが2になるという部分で差が付いた理由がこれで説明ができるというのも分かりやすいわ。
<解析>は神器の影響かもしれないし、<解体>も使用頻度の問題かもしれないと思っていたけど。その場合はタマキちゃんの<錬金術>やサクラちゃんの<忍術>のスキルが上がっていないのは不思議だったのよね。
ユウキ君の<身体強化>が上がってないのはそもそも上がらないのか、もしくは素質合計が0という時点で身体強化に魔力因子とやらが流れ込んでいないのか。
……分からないことだらけね」
「もう1つのアレンジスキルの制限の予想はどうなんでしょう?
素質が低い人のアレンジスキルでユウキさんみたいに凄い人はいないんですか?」
スミレは「ん~」と少し考えを頭でまとめてから口に出す。
「居るのかもしれないけど、多分目立っていないのね。
ユウキ君のは魔物を無力化できる応用が利く上に、タマキちゃんが一緒だったから異常成長もした。もしこれが戦闘には使えないアレンジスキルで、魔物を倒す協力者が居なかったらちょっと便利かも位にしか思われなかった可能性があるわ。
……ってそうね、そうよね!」
ここまで口にしてからスミレは気がついた。
「アレンジ内容を決める段階で戦闘への意欲を放棄しちゃっているんだわ。ユウキ君だって別に戦闘目的でアレンジしたわけではなかったわよね」
「え?
あ、はい。そうですね」
ユウキも話は聞いていたものの、違う事に気を取られていたため思わず返事に詰まってしまう。
「そうなると、中学校入試時点での素質判定をしない方向にするか、それとも素質が低くても魔物と戦う道を選べるようにした方が良いのよね。
うーん……ユウキ君心ここにあらずみたいだけど、大丈夫?
別に素質が無くたって貴方には凄いアレンジスキルがあるのよ。誰にもマネ出来ないことができるんだから、落ち込む必要はないわよ」
「あ、あ、はい。大丈夫です」
「ホントに?
何か思いがあるなら吐き出しておいた方が楽よ」
素質に関しては抱え込んだところで改善策はない為、スミレはユウキの悩みを吐き出させて折り合いをつける道を探したほうが良いと思っていたのだが……。
「えっとですね。
大人の魔道具ってどうやって手に入れるんでしょう?」
「え?」
この質問は予想外であった。
「そうなのね~。
そっちだったのね~」
楽しそうなスミレの声を聴きながらユウキとタマキは顔を赤くしている。
「なんだかお母さんになった気分だわ~。子供産んだことないんだけど」
「スミレさん無理でしょ」
などと突っ込む元気があるのもサクラだけである。
「あらあら、いけないこと言うのは誰かしらね~」
「誰ですかね~」
2人とも楽しそうである。
「まぁいいわ。
あれって今どうなっているのかしら。元々普通に出回っているわけではないのよね」
「そうなんですか?」
「需要が偏っているのよ。普通の人が使う避妊具なら高価な魔道具なんて買う必要はないわ。
そもそも浄化の魔法があればそれだけでも問題ないもの。だから必要なのは、身体能力に差がありすぎる組み合わせの時くらいなのよね、大人の魔道具が必要なのは。
つまり魔物と戦うシーカーか、もしくはシーカー相手に商売をする娼館位なのよ。そしてそうそう壊れる物でもないから、買い替えの需要もないの」
スミレが普通に出回っていない理由を説明する。
「それでですか。だから売っているのを見かけなかったんですね」
ユウキは少し残念に思い落胆するも、無いならば作れば良いのではないかと考える。
「自分で作る事は出来ないんですか?」
「あら、普通に作れるわよ。
むしろ今まではダンジョン科であれば高校3年生で作っていたはずよ。あれは刻印魔法陣型の魔道具だから、魔道具作製の実習で作ったのよね、私も。
貴方たちも中学校で刻印魔法陣型の魔道具は何か作ったんじゃない?
技術工作の時間で」
刻印魔法陣型の魔道具とは素材に魔法陣を刻み、そこに溶かした魔法液系の素材を流し込んで作るタイプの魔道具である。とはいえ実際には<魔道具作製>スキルを持つ者が仕上げないと魔道具にはならないのだが、途中まではスキルが無くても作成できるのである。
いつか自身が魔道具作製士を目指すかどうかの学習を含めての授業は各学校で行われているのである。
「俺の学校は光を出す魔道具でしたけど、作って動いたと思ったらすぐに壊れました」
「私の学校は水を出す魔道具だったけど、成功しなかったわね」
「私も同じく水でしたが、やっぱり誰も成功しませんでした」
「まぁ、光より水の方が魔法陣は複雑なのよね。
やることはそれと一緒で魔法陣が違うだけなんだけど、流石に大人の魔道具はしっかりと時間をかけて作るものよ。中学校の技術工作の時のようにお試しというレベルでは無くね。
でも今のユウキ君なら大元を解析すればもっと良い物を作れるんじゃないかしら。
この間の上位海竜のコートにしても、ダンジョン産の魔物のコートを<解析>して【神器】で作れたんだし。解析済みの物を元にすれば別素材で作れてしまうのは凄いと思うわよ。
形とかを選べないのは仕方がないとしても、装備者に自動調整されるダンジョン産アイテムと同じ仕様になるんだし。しかもスーパーレア級。
私が同じ素材で同じ形の物を作っても、形を別に作ってもレア級にしかならないんだから。だから大人の魔道具も、私達の作り方ではなくユウキ君が解析して神器で作れば良い物ができると思うのよね」
「やっぱりミッションクリア報酬の専用生産道具が無いからですかね?」
「その可能性はあると思うのよね。単純に神器との差が分からないからどこまでどうかは分からないけど。
そっちは高校に入って落ち着いてからでいいから、適当にクリアして実験をしたら教えてもらえれば助かるわ。
先ずは大人の魔道具だけど……直ぐに作っちゃっていいの?」
「え?
なんでですか?」
(自覚無いのね……)
スミレはそう思いながらも、ユウキとタマキを見てから切りだす。
「今の貴方たち、大分ぎこちないわよ」
「「……」」
ユウキとタマキはお互いに目を合わせると、少し頬を赤らめながら下を向く。
「サクラちゃんは割と平気ね」
「やっぱりそういう事は、最初はユウキさんとタマキさんの2人での方が良いかなと思いまして」
サクラは2人と一緒に過ごしたいという思いはあるものの、2人の間に入って邪魔したいというような思いはない。なので今は一歩引いてみているだけの事なのだ。
「なるほどね~。可愛いわねぇ。でもそういうのもいいと思うわよ。
ならやっぱりユウキ君とタマキちゃんにはきっかけがあった方が楽しめると思うのよね。今はいきなりそういう事を意識しすぎているのよ」
「「……」」
スミレはそう言うものの、2人は顔を赤くするだけである。
「きっかけって言うと……」
「もうすぐクリスマスじゃない。折角なんだから3人でデートすればいいのよ。そうすればまだ時間があるから落ちつけるし、自然と気持ちも盛り上がるわよ。
だからそれまで落ち着くために、大人の魔道具を作るのはクリスマスの少し前位が良いと思うの」
(まぁもし調べて直ぐに作れなくても私が持っているのを渡せばいいだけだし、今は一度落ち着いた方が良いと思うのよね)
「デートは私も一緒なんですか?」
そんなスミレの助言にサクラの方が驚く。
「普段3人でいるんだから、そういうイベントは一緒の方が良いと思うわよ。
その後の順番はともかくね。思い出の話題で1人だけ寂しい思いをすることになし、そうなると話題自体を避けるようになる場合もあるわよ」
「なるほど、そうですね」
ぎこちないユウキとタマキを置いて予定が次々と決まっていく。
とはいえユウキとタマキにも不満があるわけではない。
温泉で最初の一歩を踏み出したタマキであったが、そこで先に進めない状況に慣れた上でイチャイチャしていた。進展したいものの出来ない状況に甘えていたのである。
また、ユウキも同じくそう簡単に進展する状況ではないという認識があったために甘い一時を楽しんでいたのだ。いざ進展できるとなったために急に意識してしまっているだけである。
「まだ多少時間があるからしばらくは今まで通りのんびりと気持ちを作れば良いのよ。
それにその前に訓練用ダンジョン計画が動くと思うわよ」
恥ずかしがっていたユウキとタマキであるが、その一言で真面目な顔に戻る。
「いつ頃になりそうなんですか?」
「多分10日後ってところね。いくつか日程調整をしていたパターンのひとつなんだけど、今日の事で貴方たちの日程に余裕ができたから最終調整に入るところなの。
貴方たちは10日後、12月18日って予定は大丈夫?」
「受験関係以外は特に日程の決まった予定ってないよね?」
「そうね。
普段から修行か勉強かのんびりするか位だし、特に予定ってないわよね」
「ですね」
「はぁ。受験生としてはあってると思うけど、もう少し気を抜いてもいいのよ。
貴方たちは既に推薦試験を通っているんだし」
「そうなんですけどね。
でもダンジョン科の学校がどういう所かわからないと、授業について行けるか不安になる部分もあるんですよ」
「真面目ねぇ。まぁ、無理しない程度にね」
(とはいっても訓練用ダンジョンの最初の一歩をお願いしてしまうのよね。
うーん、どうせなら素質の低い中学生も、希望者がいれば受け入れられないかしら。アレンジスキルの取得時期にシーカーへの道をあきらめていなければ、戦闘を考えたアレンジを思い浮かべる確率は増えると思うのよね。それに戦闘系以外でも、魔物を倒してスキルが急成長すれば色々と出来る事は増えるはず。
将来的なユウキ君の精神的負担を軽減させられる可能性が出てくるわよね……)
ユウキの詳細素質判定結果から新たな推測を得たスミレは、進行中の訓練用ダンジョン計画に追加項目を盛り込むことができないかと考え始めるのであった。




