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第92話 対魔物戦闘試験9

長くなったから区切ったはずなのですが……

少し足していったらまた長くなってしまいました(すいません、約9000文字あります)


前回のあらすじ:

15階の魔物はゴブリンだった。

赤石PTの山吹(女)が自分たちのPTにあった体を使った挑発方法を思いついたが、海藤以外には伝わらなかった。

そのため試験監督官が止めるために飛び出し、サクラが結界を張ってしまった。


 思わず発動してしまった空間固定タイプの結界の拡張。

 サクラにはオークに囲まれた時の嫌な記憶があり、山吹の行動がその時の自分の気持ちと被って見えてしまったのだ。

 とはいえ冷静に考えればここにはゴブリンを倒せる人が大勢いるため、当時のサクラのように『他に手が無いから仕方なく』という行動ではないことは分かるはずなのだが。現に試験監督官も飛び出しており、本当に危ないのであれば止める人はいるのである。



「あれ?」



 意味が分からないのは山吹だ。


 ローブをやめて普通に服を装備したとしても脱がされてしまう可能性が高いと感じた山吹は、とっさに脱げ難い物としてペイントスーツを思いついたのである。

 何故ボディペイントをする予定が無いのにこのような物を持ち歩いているのかは……破るのが好きな人がいるという事であろう。PTメンバーの中に。



「あーはいはい。みんな一度落ち着いてー」



 色々と状況が見えている海藤が場を纏める。弾き飛ばされたゴブリンは山吹へと近づこうとして結界に阻まれ、今は結界を攻撃している。



「先ずは石崎さん」



 海藤が赤石PTの試験監督官へと向かって呼びかける。



「山吹さんは大丈夫だから戻ってきて。

 彼女は裸じゃなくて、ペイントスーツを着ているわよ。見慣れていないと分からないけど、首に独特の線が見えるのよ」


「え?」



 そう言って山吹の首に視線を向けるが、石崎には今ひとつよく分からない。



『2人ともわかる?』



 遠見の術を発動したユウキがタマキとサクラに話しかける。遠見の術とはその名の通り、遠くを見るために視力を強化する忍術である。

 ユウキの収納の知覚では確かに何か薄い膜のような何かが山吹の体の周りにあるような気がするものの、体も装備もどちらも収納できる物ではないために詳細までは判断が付かない。



『分からないわ』


『よく見たら確かに独特の線がありますね。私は使ったことがあるのに……気が付きませんでした』



 同じように遠見の術を使用して確認するタマキとサクラ。タマキにはやはり分からないものの、使用経験のあるサクラはペイントスーツの着用を確認した。



『踊る時の衣装?』


『そうです。

 あれを使ってペイントをすると、見え方をいろいろと加工できるんですよね。見えそうで見えなかったり、見えているはずなのに一部見えなかったりという状況を作るときに便利なんです』


『なるほど。俺たち男はそれに騙されると……』


『まぁそれはそれでいいじゃない。ついでに結界使っちゃったんだし、ちょっと予定とは変わるけどこれもアピール作戦にうまく利用しましょ。

 向こうの試験監督官がゴブリンを攻撃する前に弾き飛ばせたのは山吹さんにとっても都合が良かっただろうし』



「そしてこの結界は誰かしら?」



 そんな事を話している間に、海藤から結界の話が出てしまう。



「あ、すいません。私です」



 そう言って右手にはまった指輪を見せるようにしながら手を上げる。



 今装備している指輪は、これまで使っていたノーマル級の対魔物結界の指輪ではない。

 ユウキの神器で魔鉄から指輪を彫金してハイレア級の指輪を作製。更にはスミレたちが持っていた結界の指輪から魔法陣を解析し、対魔物だけでも対人だけでもなく指定可能な結界の指輪へと魔道具作製スキルを使用して魔装具化。

 さらにはサクラのアレンジスキルである彫金で、上位海竜(グレーターシードラゴン)の鱗を使用して追加効果を付けた上でダンジョンボスである上位空竜(グレータースカイドラゴン)の魔石を使用して効果上昇を付与。

 鱗はたくさんあったのでいろいろと追加効果の内容を上書きした上で今回は防御力アップにしており、使用した材料を考えればとんでもない価値のある結界の指輪となっている。

 とはいえベースが魔鉄の指輪なのでレアリティーはハイレア級のままであるが。



「私も前に魔物に囲まれてしまった事があって……その時結界で助けてもらったんです。

 びっくりして思わず自分達用の結界を広げてしまいました」



 サクラが実体験を元にした誘導話を展開しようとしているが、海藤は別の事を考えていた。



(まぁ、消去法で考えてもこの子達よね。

 16階の課題へと意識を向けさせるのにちょうどいいかしら。

 石崎さんが既に勘違いして動いていたし、落としどころはそこかしらね)



「とりあえず結界を狭めて自分たちだけを守るように変更する準備をしておいて。

 既に石崎さんがゴブリンを攻撃しに動いていたから、今回は試験監督官のサポートとして安全確認をしたと言う扱いでいいんじゃないかと思うけど。石崎さんどうですか?」


「え?

 ああ。山吹さん、本当にこのまま続けても大丈夫なんだね?」



 急に話を振られた石崎は、自分がやろうとしていたことを思い出す。



「はい」


「わかった。

 但しペイントスーツが破かれるようなことがあって危険だと思ったら止めに入るからそのつもりで」


「分かりました」


「ついでにもうひとつ。

 石崎さんが攻撃していた場合、ダメージの都合上この戦闘自体の結果に問題が発生するところでしたけど、結界で弾かれただけならゴブリンにダメージは入ってないと思いますので私はこのまま戦闘継続でいいと思いますけど、どうですか?」



 さらに海藤が切り込む。

 このまま有耶無耶にした場合、後で何かしらの問題が出てくる可能性があるからだ。今回は石崎が気付けなかったことが原因で、何も問題なく続行という形で進めてしまうのが無難な解決なのである。



「そうだな」



 そんな試験監督官同士のやり取りが終わり、サクラが結界を自分たちの周りだけに縮小した事でゴブリンが再び山吹を押し倒す。

 赤石たちも山吹に問題がないという共通認識を得たことで落ちついたため、山吹が落ち倒されるところまでは戦闘再開を留まり、押し倒されたところで再びゴブリンへの攻撃を再開する。



 赤石たち自身、今回の件は危なかったと理解している。少なくとも自分たちと試験監督官は、試験が終了になるという考えを元に行動していた。


 偶然に助けられた。サクラの結界で余裕ができ、さらに海藤が全体を理解していたという事で試験監督官が中止を決定しなかったというだけである。



(なんでまた並野(あいつ)の傍にだけ……)



 赤石としてはユウキに腹が立つものの、昨日の経験によりただ単に見下していればいいという認識は消えている。タマキの『伝手』という言葉で思い出したのだ。自分たちが元々何のために上の学校へ行くのかを。


 余裕のある家に生まれた自分たちは、元々危険なダンジョンシーカーを目指していたわけではない。エリート同士の『伝手』を作るために上級の学校へ行こうとしていたのである。

 今はちょっとしたことでダンジョンシーカーを目指すことになっているが、伝手はあればあるほどいい。


 赤石にとっての今のユウキは、偶然得た伝手によって上手くいっているだけであり、素質が無いのだから高校に入った後は落ちていくのだと思っている。その時にタマキを手に入れれば自分たちがその伝手をも手に入れるなどという考えに至ったのだ。

 そしてサクラも手に入れれば6人になって丁度いいなどという事を考えているのである。





「さて、公式的には問題なしという形で進めたけど、他PTの戦闘中に危険があったら助けるのは試験監督官の仕事よ。勘違いとはいえ、今回も動いていたしね。

 他PTの戦闘に割り込むのは減点行為と取られるから注意が必要よ。割り込まれる側にとっても正当な戦闘と見て貰えなくなるの」



 赤石PTが戦闘を続ける中、ユウキたちは海藤から注意を受けていた。



「今回は不問にするけど、貴方たちには16階で特別課題が用意されているからそっちで頑張ってね」



 海藤はそういうと増田や瀬川の元へと戻っていくのであった。



『また気が付いて貰えなかったね』


『まだあるわ、まだ……』


『すいません、予定外に使ってしまって』


『元々使える場面を探すのも難しかったんだし、次を頑張ろう。次を』



 もはや試験として魔物を倒す事など二の次である。





 そんな15階を抜けて16階へと辿りつく。

 これまで同様、赤石PTに1回戦闘をさせて以降は全てタマキが魔物の処理を行ってきたのだから、辿りつけるのは当然の事だと言える。



(帰ってくれなかったわね……)



 海藤はそんな事を内心思いながらも、この階でのユウキたちへの課題を説明する。


 16階も15階同様地上タイプの地形で出現する魔物はゴブリンだ。しかし15階と違って16階には彷徨っているゴブリンはいない。小さな集落が3個と大きな集落が1個の4か所にまとまって発生している珍しい環境となっている。

 そして集落毎にひとつの集団となっており、1体を攻撃するとその集落のゴブリン全てが狙ってくるのである。


 そんなゴブリンの集落を順番に全滅させていくというのが課題である。

 小さな集落にはゴブリンが60体、大きな集団にはゴブリンが200体存在している。15階のゴブリンがPT編成だとすれば、小さな集落はクラン編成、大きな集落はレイド編成という人数である。

 しかも4つの集落全て合わせて2時間以内でというスピード戦闘で。



「え……」



 思わず声を漏らしたのは一緒に聞いていた山吹だ。

 それもそのはずである。合計380体のゴブリンを2時間以内という事は、1体倒すのに平均20秒もかけられないという事である。移動時間を考えると更に短い。



「海藤さん。

 その課題だとこっちのPTの戦闘が出来なくなってしまうのですが」



 そこに割り込んだのは、赤石PTの試験監督官である石崎だ。



「そうなのよね。

 元々他のPTが一緒にいる前提の課題じゃなかったのよ。普通ここまで来れるPTは珍しい上に15階の魔物を倒せるのであれば十分だから」



 暗に15階の魔物を倒したのだから十分じゃないのかと伝えているが、判断するのは赤石たちである。



「お前たちはどうしたい?

 確かに15階の魔物を倒している。これ以上倒したところで試験として意味があるのかは何とも言えないが」


「どうする?」


「15階の魔物を6体同時に相手をしたんだから、4体以上同時に戦わないと点数としては意味が無いな」


「15階の強さだとしても60体を相手にするのはまず無理だ。

 そうなると小野寺さんのPTに戦闘中に獲物を残してくれと頼む事になる」


「高校では15階までしか戦わないみたいだし、ここで無理に戦わないでもいいんじゃない?」


「いや、1体だけ戦わせてもらおう。

 16階の魔物の強さを経験しておくというのはいつか役に立つはずだ」



 完全にタマキに戦う相手を残してとお願いする形なのだが、既にここまでの階でも似たような状況である。


 そして赤石PTの希望は通り、最初に向かう集落でユウキたちは1体だけ残して赤石PTに戦闘をさせるという形となった。

 但し戦闘をするのであれば課題として最後に大集落で必要になるため、合流して最後まで付き合うという条件付きで。


 海藤たち3人からすれば面倒なのであるが、1体でも魔物を倒されてしまうと一緒に居なければレイドボスを出現させる条件を満たせないのだから仕方がない事と言える。





「はい、1体残しておいたから後はよろしくね」



 最初の集落に案内されたユウキたちは、タマキだけが集落へと突入してあっさりと59体のゴブリンを倒して出てくる。そしてユウキの光の剣を用いた魔物の回収もどきによって倒した59体のゴブリンを目の前に引き寄せる。



 残りの1体もタマキを追って入り口まで戻ってきたところで赤石PTが戦闘を開始した。


 とはいえ女であるタマキを狙っている状況からなかなか攻撃対象が移らない。そのため再びサクラが張った結界に攻撃されていたのだが、結局15階と同じ方法で山吹がゴブリンのターゲットを取ることに成功する。

 押し倒されている間に赤石たちが無事にゴブリンを倒せることを確認した。


 ユウキたちはその間に倒したゴブリンを収納して死んでいるという事を海藤たちに示していたのだが、これでは確認に時間がかかりすぎた。



「この課題では最後に全魔物が居なくなっているか確認できる方法があるから、いちいち死体の回収確認はしなくて大丈夫よ。その分確実にゴブリンを倒すようにね。

 まぁこの倒し方なら、そもそも見ただけで死んでいると分かるけど」



 タマキはゴブリンの首を狩りまくっているのである。見ただけで死んでいるのは分かるというものだ。それでも海藤たちは、念のため狩り残しが無いか気配は確認しているのだけれど。



 そんな小集落掃討を3か所終え、最後の大集落に到着する。

 山下からの課題には集落を倒す順番も指定されており、海藤たちはその順番に従って案内している状況だ。そして最後の大集落では自分たちをひとつの集団にまとめる必要がある。



 この階層でのレイドボス発生条件として分かっていることは、特定の順番で集落を全滅させたうえで最後に大集落を全滅させる。そして大集落を全滅させた段階で最初に倒した集落のゴブリンが復活していない必要があり、更にそれらの魔物を倒した人をひとつの集団に集める必要がある。


 普通はあらかじめレイドを組んでおき、順番に小集落を全滅させたうえで大集落を全滅させる形がとられている。そして時間も実際は3時間であり、課題よりも1時間余裕がある。

 これは倒しきれなかったら最後は海藤たちも併せて倒せば時間的に間に合うという配慮がされている計算であるが、本来はたった3人で実施するにはかなりハードな内容となっている。



「さて、最後の大集落での戦闘課題はちょっと特別よ。

 あの集落の外にある祭壇の上まで駆け上がって、そこで防衛戦をするの。あそこにはちょっと特殊な仕掛けがあって、誰かがたどり着くと小集落でゴブリンと戦った者に対してこの大集落のゴブリンからの敵意が反映されてしまうのよね。

 だから一緒に来てもらわないとゴブリンがバラバラになってしまうの」



 海藤は説明を続けながら、ゴブリンの数が数だから今回は念のために全員でPTを組んでおくという事を説明する。いざとなった時に範囲回復魔法や支援魔法を全体にかけるための安全措置という名目で。

 実際は1PTでは無理な状況となってしまったので、試験監督官4人でPTを組み、赤石PT4人とユウキたちのPT3人をクランとして取り込んでいる形となっている。





 そして一本道の祭壇の頂上へ到達して大集落を見下ろすと、ゴブリンが次々と押し寄せてくる状況が見て取れる。



『そこそこ数がいるわね。

 ちょうどいいからこの辺であれやっとく?

 これ以上の数の魔物とこれから同時に出会えるとは思えないわ』



 タマキがPT会話でユウキとサクラだけに話しかける。クラン会話とPT会話は別に選択できるため、ユウキたちにとっては海藤たちがPT内に入ってこなかったのは運が良かったと言える状況だ。



『水竜海竜ですか?』


『そうそう。あれなら派手じゃない?

 アイテム効果だから、何か言われても渡せば同じ事が出来るだろうし』


『残った分は俺が回収するよ。確かに派手だし、結構驚いてくれるんじゃないかな』



 数が多いとはいえ、特に脅威と言う訳でも何でもない。普通にタマキが倒し続けても倒せるし、ユウキが光の剣でザクっとやってしまえばそれだけでも簡単に終わる内容だ。

 しかしユウキたちはまだ海藤たちへのアピールが足りないと思っているので、これを丁度良い見せ場にする事にした。





 3人はそれぞれ、上位海竜(グレーターシードラゴン)の杖を右手に持つ。とはいえ装備しているのはタマキだけであり、ユウキとサクラは手に持っているだけだ。

 上位海竜(グレーターシードラゴン)の杖は、上位海竜(グレーターシードラゴン)の牙を素材にして作られた杖であり、スーパーレア級の武器である。ユウキとサクラは装備すると動けなくなってしまうので、手に持っているだけなのだ。見せかけの為だけに。



 先ずはサクラが円を描くように舞い始める。途中で1人が2人、2人が4人、4人が8人へと分身の術で分身体を増やしながら。



「水竜の陣!」



 8人のサクラ達がひとつの円を描くように舞う中央から、水で出来た竜が現れて上空へと昇っていく。蛇のように細長い水竜は、一定の高度へ到達すると上空で8の字を横にしたような恰好で浮かんでいる。


 とはいえこれは攻撃用の忍術ではなく、水属性の魔法や忍術等の効果を強化する支援用の術である。上空にのぼった竜は雨雲を呼び寄せる以外には特にすることは無く、ただそこに佇んでいるだけなのだ。サクラが舞っているのはこの忍術の為ではなく、あくまでタマキへの支援の為である。

 そこへタマキが後に続く。装備した上位海竜(グレーターシードラゴン)の杖をしっかりと見せつけて。



「大津波!」



 するとどこからか大きな波が押し寄せ、辺り一面のゴブリンを波にのみこんで消えていく。これは上位海竜(グレーターシードラゴン)の杖を装備すると使う事が出来るアイテム効果だ。どうやら魔法力は消費するようで、魔法の一種なのではないかとユウキたちもスミレたちも考えている。


 とはいえ全く問題が無いわけでもない。死んだ魔物がその場に残るわけでもなく、素材も魔石も手に入らないのだ。もしかしたら戦闘経験も入っていないかもしれない。ある意味ユウキの魔石回収をさらにひどくしたような状況だ。


 そして水属性魔法かも本当のところは良く分からない。確かに魔物は消えるのだが、周囲の環境は全く壊れることが無いのだ。木が倒れることもなければ家が流されることもない。人間にも全く影響がない。幻術の類なのかもしれないとさえ考えている。


 こんな不思議なアイテムであるが、ガイドからダンジョンが娯楽のために使用されるという話を聞いていたユウキたちやスミレたちから見ればあり得ると思ってしまったのだ。ただ単に演出を派手にしているだけなのではないかと。


 更には強い魔物には効果が無いという事もあり、弱い魔物を間引いて強い魔物とだけ戦う時に使うと便利なアイテムなのではないかと考えている。



 今回は何故かすごいアイテム所持作戦継続の為に実行しただけであり、少しでも成功確率を上げるためにサクラの支援を付けたのである。

 踊り以外に忍術まで使用して。意味があるのかはともかく、演出の上乗せとしてはより派手である。



『半分くらい残ったかな。魔石と魔物は自動回収を発動するよ』



 ユウキは残る魔物が居た場合は魔石を回収した上で魔物自体も回収してしまおうと魔石の反応を確認していたのだ。演出の流れは分かっており、この時点で残っている魔物はそのまま残ってしまうことも分かっている。

 そのためユウキはいつもの魔石自動回収モードへと移行する。今回は光の併用無しに、魔石を回収した後に同じ位置に居た魔物の体も回収するタイプである。

 これで波で消えたのかユウキが回収したのかは見ている限りは分からない結果となる。


 ユウキが上位海竜(グレーターシードラゴン)の杖を持っているのは、この先何かあればユウキも何かしそうだという雰囲気を出すためだけであり、実際は何の意味もない。そもそも装備せずに持っているだけなのだから。



 しかしここで予想外の展開が発生する。

 どこからともなく荘厳な音楽が鳴り響いてきたのである。





(まずいな)



 この状況は増田にとっても想定外だった。

 増田たちは元々ここでレイドボス戦に移行することを知っているのだから、音楽の意味は分かっている。しかし本来はゴブリンの残りが少なくなったところでレイドボスの話を切りだし、事前に脱出用の石を手元に出させておくつもりだったのだ。



(あっちの試験監督官はレイドボスと戦ったことが無さそうだな)



 レイドボス戦とは、ダンジョンシーカーのライセンスを取った者の中でも更に強くなってから挑むレベルの集団戦闘だ。高校生や大学生が挑むものではないため、学校自体でもここまでは教えていない。赤石PTについている試験監督官はあくまで普通の受験生の対応をするだけの試験監督官であり、レイドボス戦の事を知っているわけではない。


 ユウキたちはこれが自分たちの発生させた大津波や水竜の陣の影響ではないことを知っている。

 しかし赤石PT及びその試験監督官はサクラとタマキの攻撃に驚いているだけで、この音楽自体もその一部だと思い勘違いしていた。大津波の演出はまだ終わっていないのだから、これはこれで仕方がない状況と言えるかもしれない。



 そんなちょっとした思考をしている間にも音楽が響き渡り、レイドボスとの戦闘空間へと向かう転移魔法が発動しはじめる。

 気が付いたところで音楽が鳴りだしてからでは、準備が間に合わない状況なのだ。





 しかし一番の想定外の出来事は、ユウキたちのPTの方で起こっていた。





 <レイドミッションが発生しました>



 ユウキたちはこの音楽を経験したことがあるので、レイドボスとの戦闘になるという事自体は予想できた。オーク城の時とは違い、そういう意味では何もわからないという状態ではない。

 しかしミッションが発生することは流石に知らなかった。当時はまだミッションが開放される前であり、その後は落ちついてからスミレたちとランクSSSの条件を調べようと計画をしていたから試していなかったのだ。



 直ぐにステータス内のミッションを確認すると、内容は次のように表示されている。



 ・レイドミッション≪オーバーチャレンジ≫

 指定位置へと向かい、強化されたレイドボスを討伐する

 報酬:レイドボスのドロップ品、蘇生薬

 備考:本ミッションは、ランクSSS討伐を達成済みの<魔化>を持つ者へと向けた強化レイドミッションとなる。

 <魔化>を所有しない者が向かう通常のレイドボス空間とは異なる専用空間へと転移する。

 強化レイドボスが出る専用空間では、全員が<魔化>を使用した状態になった場合には、敗北扱いとなる。





 そして指定位置としてマップ上に表示されている位置は、現在の祭壇の場所であった。

 この場に居た者がそれぞれレイドボスとの戦闘空間へと転移させられていく中、ユウキたち3人はクラングループから切り離されて別の戦闘空間へと転移させられてしまうのであった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] やらかしたのはダンジョンだったか。 いや、仕様通りと言えば仕様通りなんだろうし、ダンジョンシステムの先駆者として色々な事が初づくしなんだろうが、これ下手するとあらゆるサブイベントがS…
[良い点] 投稿が早くてうれしいです。 [一言] システムメッセージで、<魔化>についてばれたってことかな? ほかの面子は一緒にいるのに、3人だけいないわけなので、魔化というスキルを持っているというこ…
[一言] 赤石PTはレイド戦でもしもが起こったとしても、ある意味では自業自得になるのかな? 15階での戦闘では攻撃面ではギリギリっぽかったけど防御は出来てたからその防御能力を過信してるっぽいし、試験監…
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