第91話 対魔物戦闘試験8
前回のあらすじ:
14階のボス部屋の奥の部屋で宿泊。
山下からユウキたちへ出される課題はレイドボスとの戦闘だが、どう対応しようかと海藤たちが検討した。
試験2日目。
前日は早朝からの試験開始だったこともあり、この日は朝9時に15階へと出発するという比較的ゆっくりとした朝を迎えていた。温泉でゆっくりと身体を癒し、ふかふかの布団で安全に眠る。
都市の外での宿泊とは思えない環境である。
そんな中、15階へと続く階層変更ゲートを抜けたユウキたちと赤石たちのPTに追加の説明が実施される。
「この15階層で魔物を倒せる場合は推薦されるというのには理由がある」
説明をしているのは赤石PTの試験監督官だ。
15階は地上タイプの階層であり、基本的には森である。しかしそこまで深い森という訳でもなく、空からの光は地面まで届いている。森の中には道が通っており、移動するのが難しいという訳でもない。
「15階層というのは、ダンジョン科の高校3年生が最終的に実習で戦う事になる場所だ。つまりここの魔物を倒せるという事は、既に高校3年生の実習と同じ事が出来るという事を意味する」
ユウキたちもそうなんだと聞いてはいるものの、それはあくまで安全マージンを十分に取った上での実習の話だと分かっている。まだ発表されてはいないものの、ユウキたちは新しい学校へ行くつもりであり、そこでは安全と言うものを無視した戦闘が可能となる。その為、実際はもっと上まで行くのではないかなどと漠然としたイメージを頭に浮かべていた。
「それとここまではボス部屋の奥の部屋には十分なスペースがあったが、15階以降のボス部屋の奥の部屋は狭い。宿泊設備を展開するとなると、普通に考えて2PT、設備を共同で使っても4PT程度がせいぜいという広さだ。
今日泊まったような設備があれば別だがな。
そのため、基本はボス部屋の奥ではなく通常の場所で野営をすることになっている」
狂乱の塔でサクラ達が大広場で宿泊しようとしていた理由はそのためである。
「もちろん魔物が発生する場所には規則性があるので、移動しては来るものの発生自体はしない場所が調べられているのだけどな。15階以降で宿泊地候補と書かれているのはそういう場所となる。
それでも高校生の実習時に宿泊するなら14階のボス部屋の奥の広さがある方が安全だから、高校生では15階までが実習の範囲となっている」
今理由を説明しているのは赤石PTの為だ。ここの魔物を倒せれば十分なのだから無理はするなと遠回しに伝えているのであるが、あまり効果があるようには見えない。
試験監督官もあきらめ、先に進むように指示をした。
「ゴブリンの反応が6。固まって動いているうえに装備が違う」
16階へと向かう道を進みながら、ユウキは森の中に居る魔物の反応を告げる。あえて普通に声を出したのは、赤石PTへも注意を促すためだ。
まだ先の階まで進むのであれば、情報を伝えておかないとまた遅れが生じる可能性がある。
「斧1、棍棒1、槍2、弓1、杖1かな?」
等と言いつつ単純に別方向の1団を回収しており、その時に装備の違いに気が付いたのだ。分かってしまえば知覚で形から推測できる。
「他の道を進んでる?」
「いや、森の中かな。でもこの道を進めば横から襲い掛かってくる気がする」
「なら倒してくるわ」
タマキの反応を聞いたユウキは光の剣を作り出し、魔物の位置へと向かわせる。そしてタマキはその光を追いかけて走り出し、更に試験監督官の増田と瀬川がついていく。森の中であるため、タマキも全速力という訳ではない。
「便利ねぇ」
海藤も方向を指定して気配を探っていけば、何となく魔物が居るのは分かる。実際にはまだ300m近く距離があり、森の中に居る300m先の魔物に気が付くのは並大抵のことではない。
『問題なく倒したわ』
『了解。次は先にある開けたところに、やっぱり6体で同じ編成かな。あっちのPTに譲ろうか』
『そうね。ここは6体編成ばかりなのかしら』
『なんかそうっぽいんだよね』
『ゴブリンは集団戦が得意だったはずなので、向こうもPTなのかもしれません』
『そういえばそんな話もあったわね』
そんなPT会話をしながら進むユウキたちに、途中でタマキが合流する。
(まるで相思相愛。以心伝心って感じね)
目線で会話をしているように見えるユウキたちの事を、海藤は更に勘違いしていくのであった。
「こっちへ来い!」
広場についてゴブリン6体を視認した丸山が威嚇の魔法を発動する。とはいえ今回は全方位ではなく対象を指定しての魔法であり、周囲から集まってくるような状況でもない。
「やっぱり6体セットだな」
「そうか」
丸山もわざと、前衛役と見える斧タイプだけを狙って挑発したのだ。それでも6体全員が丸山に反応したのを見て、相手も一つの集団として機能しているのだと判断した。
今回の戦闘役は盾の丸山、斧の赤石、槍の早川の3人である。
山吹は修復が必要な盾は既に宿泊中にすべて直し終えており、今は後衛として離れた位置から魔法を使用予定である。必要な状況になればという事であるが。
しかしイチゴの町の近くにある塔にはゴブリンが居なかったため、どのように集団で戦ってくるのかという事に関しては知らなかった。
カーン。
まだゴブリンが接近中にもかかわらず、丸山宛に矢が飛んでくる。
ボワッ。
更には魔法も追加で。これまで戦ったことのある魔物は基本的に接近戦を仕掛けてくる魔物ばかりであり、待ち構えて耐えている間に赤石と早川が倒せばいいだけであった。あまり近寄って来ないで遠くから攻撃されるというケースは初めてである。
とはいえそこは丸山のアレンジスキルである盾術が効いているのだから、赤石や早川が遠距離の相手を先に潰せばいいだけである。
……などと言う単純なことを考えて追いかけるも、15階の魔物は身体能力も当然高い。ただでさえそれなりの武器防具によって水増ししている戦闘力で余裕が無い戦いをする相手なのだ。追いかけても一定の距離を保ちながら攻撃され続けてしまう。
タマキがあっさり勝てているのは、移動速度がとんでもなく速いという一面があるからとも言える。転移を使わずとも、移動術を使用した今のタマキの移動速度はとんでもない状況である。
「アイスジャベリン!」
早川が追い付くのは無理と感じとり、自分も魔法で攻撃を始める。魔法攻撃よりも物理攻撃の方が得意なために普段は槍を使用しているが、魔法を使えないという訳でもない。足を止めてしまえば追いつけるのだから、魔法で倒しきる必要はないのだ。
「「アイスジャベリン」」
気が付いた他のメンバーも同じく足止めの魔法を使用する。とはいっても丸山は挑発の為に魔法力を無駄には出来ず、使用したのは赤石と山吹である。
後衛として離れていた山吹も、魔法で足止めしようとする早川をみて攻撃に参加し始めたのだ。とはいえ攻撃魔法としての素質はあるものの、身体能力をしての強化量が絶対的に少ない山吹の攻撃はあまり効果が無いのだが。
しかし山吹のこの行動が流れを変えた。
ゴブリンはオークと同じく女は殺さずに捉える行動をとる。
そして今の山吹はこの15階のゴブリンから見るととても弱くみえ、遠距離で攻撃するのではなく近寄って捕らえようとする動きに変わったのである。偶然ながら。
しかし離れた位置ではなく戦場に近寄ってしまったのが悪かった。
同じPTという事で丸山が挑発していたゴブリンにも戦闘対象と認識されており、6体全てのゴブリンが山吹の元へと押し寄せる。
そのうちの1体があっという間に山吹の元へとたどり着いて押し倒す。
女の山吹がゴブリン相手に死ぬことは無いとはいえ、それはただ単に戦闘をして勝利すればいいという場合に限ってのことだ。今回はあくまで入学試験である。
確実な戦闘として用いられる作戦であっても、試験としては許可されていない。
そのため装備が大破した時点で試験監督官は止めに入ろうと注視していたのだが、ここで状況が停滞した。
ゴブリンの動きが止まった訳ではない。押し倒したのだから装備を破壊し、裸にして犯す。今もその行動途中のはずである。実際に行動自体はそうしようとしているように見える。
だが、ローブが全く傷つかずに破れないのだ。
「このまま私が挑発するから攻撃して!
丸山君は盾術を解除しないでね。盾の装備変更もタイミングを見てにして」
ローブが破れない意味に気が付いた山吹が声をあげる。
挑発の魔法があるから丸山が盾役として挑発していただけで、丸山のアレンジスキルがあれば誰が挑発しても結果は同じなのである。耐久が減るのは丸山の盾なのだから。
言われている意味を理解した赤石と早川も集合し、山吹を押し倒しているゴブリンへと襲い掛かる。しかもゴブリンは6体とも武器を捨てて山吹を押さえつけたりローブを破こうと夢中になっており、防御体制もとらなければ避けようとすらしていない。
攻撃する側としては攻撃し放題である。
3体ほどゴブリンを倒したところで状況に変化が訪れる。ローブを破けないと認識したゴブリンは、ローブを脱がそうと行動を変えたのだ。
ゴブリンがローブをまくり上げるが、山吹はその下に洋服を着ていた。いきなり裸という訳ではない。山吹は普通に洋服を着てからローブを羽織り、そしてローブを装備として登録しているのだ。
ビリビリビリ!
ゴブリンが新たに表れた洋服を破ろうと行動した所、今度は普通に破けたのである。洋服は装備していないのだから、耐久として山吹への攻撃とダンジョンシステムに認識されているわけではない。
そのため山吹への攻撃を庇える丸山のアレンジスキルであっても、山吹の装備では無い物の耐久までは庇えなかったのだ。
「そこをどけ!」
ローブをまくり上げられ、裸にされた山吹に対して不味いと思った丸山は、シールドバッシュでゴブリンを弾き飛ばす。赤石や早川もゴブリンを引きはがす事を優先して体当たりで山吹からゴブリンを引き離す。
そして山吹に離れるように指示を出そうとした赤石たちは、山吹を見て思考が飛んだ。
そこにはローブも外して収納し、破られた洋服や下着も外しており、全裸となった山吹が居たのである。
(ペイントスーツね……中々面白い判断をするじゃないの)
この状況を山吹以外で唯一理解したのは海藤だけだった。
ペイントスーツは装備として直接着用する前提の全身タイツのような構造となっており、破かずに普通に着たり脱いだりするのは難しい。首から上は無いものの、首から下はボタンもファスナーもない無色透明の全身一体型タイツとなっている。
本来の用途はこのペイントスーツ上にペイントをすることにより、肌に直接ペイントをしているように見せる物である。
破れないという前提があれば、脱がされることはほぼない装備となる。
しかし意思の疎通というのは重要な事である。理解していなければ、裸でいるように見えてしまうのだから。
そのためゴブリンが再び山吹を押さえつけて犯そうとしているのを見た他の者達が動き出してしまう。
赤石PTの試験監督官は、ゴブリンから山吹を守るためにゴブリンを弾き飛ばそうとした――ところが先に勝手にゴブリンが吹き飛んだ。
サクラが思わず急展開してしまった結界で……。
ちょっと長くなってしまったので分割しました。
明日続きを臨時投稿予定です。




