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第76話 (第4章プロローグ)素質至上主義

前回のあらすじ:

難易度【易しい】の訓練用のダンジョンを作り、そこに学校を作ることになった。

その情報は、ぎりぎりまで秘匿することにした。

第3章終わり

 ――11月20日。


 ユウキたちが戦闘試験に向けて修行をしている頃、交易都市ウエノ内に有る高級料亭では2人の男が向かい合っていた。



「まずは一献」



 そう言って片方の男がもう片方の男へと酒を注ぐ。

 酒を注がれている男は山下信夫。国立東京第2大学付属高校総合入試担当官の一人である。



「この時期という事は、当然入試がらみなのであろう?」


「ええ、まぁ。とはいえ私からの直接のお願いという訳でもないのですが」



 そういう男の名は川上幸一郎。交易都市ウエノに住む資産家の一人である。



「仲介か」


「今回の件はそこまでの事とも言えませぬが、大きな意味ではあっております」



 そうして軽く食事を混ぜながらの会談は続く。



「小山ダンジョンからのダンジョン科の学生たちは、来季からは第2大学と第2大学付属高校に統合されるという話を聞いております」


「そうだな。

 今のところは移住の時期から考えて独立した経過措置をとっているが、来期からはうちの系統に統合される」



 国立東京第2大学とは交易都市ウエノにある総合大学だ。

 小山ダンジョンの中央都市にあった大学と高校は、今は臨時で独立しているものの来期からは第2大学系統へと完全吸収される。小山ダンジョンの他の都市にあった高校や高専も、そのまま継続する学校と吸収される学校に分かれている。

 中央都市にあった大学と高校は、学問だけではなくダンジョン科という特殊戦闘事情があるために完全吸収されるという事だ。


 とはいえ既に付属高校は10校あり、それを11校にするのか既存の学校に入れ込むのかについてはまだ正式な決定には至っていない。

 建物は建築スキルで何とでもなるものの、学生同士の交流としてどうするかが決まっていないのである。



「小山ダンジョンから来た中学生たちの、ダンジョン科への受験はやはり第2大学付属の系統ですよね?」


「そうだな。

 最終的にどう振り分けることになるかは高校の統合状況によって変わってくるかもしれないが、受験担当はうちで持つことになる」



 ダンジョン科の入試では戦闘試験があるため、私立系統と別々にやると事故の危険が増えてしまう。試験自体は共通試験として国立側で実施し、その結果を元にして受験生が国立以外へ行くときも結果を示せるという共通試験となっているのである。



「小山ダンジョンでは私立のダンジョン科はなかったそうですので、多少の戸惑いもあるでしょう。それに移住によるストレスや環境の違いによる不利も考えられます。小山ダンジョン出身の受験生へは多少考慮をしていただければと思いまして。

 折角の素質をここで逃してしまうのはいかがなものかと考えます」


「試験は試験だ。

 だが結果を判断する際に、今年に限っては様々な要因を考慮する必要があるのは確かだろう。関係者が受験をするのか?」


「直接の関係者ではないのですがね。

 小山ダンジョンの取引相手のお子さんが受験するのですよ。これもどうぞ」



 そうして川上は保存の魔道具を収納から取り出す。

 保存の魔道具から取り出したのは、冷凍されたダンジョンイチゴだ。



「これはまた、ずいぶんと大きなダンジョンイチゴだな。妻や娘が喜ぶ」


「ええ。東京ダンジョンでは大規模なイチゴの魔物平原は見つかっておりませんから定期入手がなかなか大変ですが、小山ダンジョンには都市を置いて収穫するほどの大平原がありますので」



 その場にあればなんてことのないダンジョンイチゴでも、都市の近くにイチゴの魔物が居ない場合はわざわざ倒しに向かわねばならない。通常のイチゴであれば栽培すればいいだけであるが、イチゴの魔物に関しては環境依存である。

 そのため東京ダンジョンではダンジョンイチゴは高級品となり、特に大粒の物は贈答品として好まれる物なのだ。とはいえダンジョン間の流通には制限があり、どちらにしても高級となるのであるが。



「ですがまぁ、あくまでその程度の取引相手ですので、無理にという訳でもありません」


「小山ダンジョンからの移住者に対する配慮をするべきでは、という事は会議の議題に出しておこう」


「ありがとうございます。それともう一つあるのですが……。

 とはいえこれ自体も子供の喧嘩に親が出てくるような状況はどうなのかというレベルなのですがね」


「あまりにも無茶な事は出来んぞ」


「ええ、もちろん承知しております。

 私も最初は忘れたことにしようと思ったのですが、結果的にはお耳に入れた方が良いかと考えました。まぁ、少女を手に入れ損ねた少年の逆恨みなのですがね。

 PT受験を断られた少年が、その少女が組むPTを何とかしてくれと」


「無理だな。戦闘試験において誰とPT受験を選ぶのかは個人の自由だ。

 あきらめられないなら自力で手に入れろと言ってやれ」


「まさにその通りの話です。

 ただ、どうやら少女の方は素晴らしい素質を持っているそうなのですが、その少女とPTを組む少年の方は中学で足切りをされたレベルで素質がないという状況のようです」


「ほう」


「あくまで願い事をしてきた少年が言うには、の話ですがね。

 受験用に提出された資料を確認すれば真実はわかる話かと。素晴らしい素質が失われてしまう可能性を考慮すると、何かできることがあるやもしれぬと思いまして一応お耳に入れさせていただきました」


「気を付けておこう。その者たちの名は?」


「素晴らしい素質を持つ少女が小野寺タマキ、そして素質のない少年が並野ユウキだそうです」





 *****



 素質至上主義。



 ダンジョンが現れ、魔物を倒すことにより得られる恩恵でまず考えられたことは何か。

 最初に問題となったのは、やはり強化された身体能力による犯罪行為であった。


 <ステータス>は本人しか見ることができない上に何か特殊なことが記載されているわけでもない。<収納>はそもそもが地球上の資源で作られたものには効果が無い。

 それに比べて<身体強化>は様々な面で効果を発揮する。

 もちろん犯罪者にも、それを取り締まる側にも。人々の意識にのぼりやすいのは、ある意味わかりやすかったからともいえるだろう。


 その後戦争やスタンピードがあり、地球上を放棄してダンジョンの中で暮らし始めると、身体能力の高い者が優遇され始めた。

 これは魔物との戦いという弱肉強食の世界では、強さこそが正義となるのはある意味当然のことと言えるのかもしれない。

 そして素質判定の魔道具が発見されたことによって、事態はさらに一歩進むことになる。


 魔物との戦いには危険がつきものだ。

 そしてどんな強者でも、年齢には勝てない。当然若者を鍛えて新たなる強者を育成することは重要な事であり、同じ労力をかけるのであればより育つ者を育成しようとなるのも自然の流れといえる。

 これが素質による選別の始まりであった。


 選別は優れたものと劣るものとに分けられ、優れた者達には自分たちがエリートなのだという意識が現れ始める。社会も身体能力の高い者を優れた者だと認識していたため、素質の高い者が優れた者という意識の変化に対して抵抗が少なかった。


 そして安全な場所を手に入れ、魔物は素材などを得るために倒すようになった今の時代でも、素質至上主義の考え方は浸透し続けているのである。



 *****



 トントントン。



「入りたまえ」


「失礼します」



 入室の許可を得た山下は、一言断りを入れて中へと入る。

 ここは東京第2大学のダンジョン学部長室であり、入室許可を与えたのは学部長である。ダンジョン学部の学部長は、大学だけではなく高校の入試責任者でもある。

 これはダンジョン科という戦闘訓練を含む特殊な環境において、国立においても私立においても基本はエスカレーター方式を採用している影響といえる。大学でのダンジョン系の受験者というのはほとんど居ないのだ。



「こちらのPT受験者について話があるのですが……」



 話をきりだした山下が見せたのは、ユウキ、タマキ、サクラのPT受験書類であった。



「彼らかね。どうかしたかな?」


「こちらの少年は、素質が非常に低いようです」



 ユウキの受験申請書類には、中学受験時の素質基本3種判定結果である『物理攻撃力:極小』『魔法攻撃力:極小』『魔法回復力:極小』『総合判定:戦闘力皆無』の記載がある。

 素質判定の結果はユウキだけでなく他の受験者の書類にも当然ある事なので、ユウキだけの特別記載ではない。



「それは知っている。だが君も知っての通り、高校受験では中学受験と違って素質での足切りはない。

 素質は合格後の上級クラス、下級クラスで分ける際に使うだけのルールだ」



 山下とてそれは知っている。

 川上から聞いた話でさえ、念のため確認はするものの合格したとしてもどうせクラスが分かれるからどうでもいいと思っていたくらいだ。素質の低い者が上級クラスに入る事は出来ないのだから。逆に不合格になった時に素質の高い少女をどのようにして引き上げるかを検討した位である。

 だが、確認した際に添えられていたダンジョン探索協会の推薦状を見て興味を持った。



 非常に優秀な戦闘力を持ち、ダンジョンに関しての興味もある素晴らしい若者たち。

 ダンジョンについての教育を受ける機会が得られることを願い、ダンジョン探索協会としてここに推薦する。



 しかも推薦者が会長である。何があったのかを調べてみると、普通にダンジョン探索協会に既に登録されていた。ただの中学生の3人組が。しかもシルバーシーカーとして。



 ……あり得ない。



 山下の感想はこの一言に尽きる。通常のダンジョンシーカーの国家ライセンスでさえ、ダンジョン学部卒業の大学生でも1回で取れるのは一部の学生なのだ。それなのにシルバーシーカー。

 しかもシルバーカード発行理由が『レイドボスSSS討伐者の称号獲得及びこの称号取得時において特殊スキル<魔化>を獲得するという新発見の功績によるもの』である。


 確かにこれは素晴らしい事だろう。

 しかしこの3人以外に同時発行された者はいない。また、この日付近で上位カードが発行されているという事もない。

 可能性としては、3人だけで成し遂げた成果のように見えるのだ。


 ダンジョン探索協会が推薦するのも当然のことと言える。

 事実であれば。



「このような素質の低い少年が、ダンジョン探索協会の推薦を受けられるのでしょうか?」


「彼らに対する推薦は、添付されている物はダンジョン探索協会からのみだが、私の元へはダンジョン研究所や防衛軍からも直接届いている。

 推薦が間違いという事はないだろう。

 ここまで来ると、よっぽどのことが無い限り不合格にできるような者達ではない」


「そこまでの者達ですか……。

 学部長は、彼らがダンジョン探索協会に既に登録されているという状況はご存知ですか?」


「確認している。

 素晴らしい功績を持つ若者たちではないか」


「ですが情報は鵜呑みにせず、試験時に確認したほうが良いのではないでしょうか」


「……何をする気だ?」


「これだけの者であれば、対魔物戦闘試験で実際に塔を攻略させてみればわかるのではないでしょうか。

 情報が真実であれば簡単な事でしょう」


「安全確保はどうする?」


「彼らは3人PTなので、戦闘試験監督官としてライセンス持ちを3人PTメンバーとして同行させれば問題ないでしょう。

 いざとなった時に脱出できるところを利用して、石を監督官に持たせておけば安全管理も十分かと」


「……そうだな。

 推薦される者が推薦されるにふさわしい人物であるかは、こちらでも確認しておいた方が良いか。

 但し突破できなかったとしても、通常の受験者相当に換算した結果での判定は続けること。その場合は推薦があることは関係なく、普通の受験者として扱う事にする」


「手配しておきます」



 こうして山下は席を後にした。

 多少の思惑を胸に秘めて……。

第4章の始まりです。

主人公たちは次話から出てきます。

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