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第68話 初めての魔法スクロール作製

前回のあらすじ:

初級ダンジョンコアに直接エネルギーを与えることが出来る事を知った。

初期段階の最大エネルギー貯蓄値である100億ポイントのEPを貯めるために、海底ダンジョンで新規ゲートや施設を探索することに決めた。

「最小のムーブコアってこんな感じなんですね」



 海底ダンジョンの探索を決めた一行が先ず行ったことは、移動拠点となるムーブコアの確保であった。魔物を倒して初級ダンジョンコアにエネルギーが溜まるのを待つ場合、ムーブコアを1個手に入れるのでさえ多数の魔物を狩る必要がある。


 しかし直接魔道具の様にエネルギーを供給できることを知った今となっては、ムーブコアを手に入れるのは容易なことだ。計画ではムーブコアを3個用意し、ユウキ、タマキ、サクラはわかれて移動経路を探索することになっている。

 これは3人が持つ地図機能を活用しないかぎり、海底ダンジョン内のゲートや施設を発見することが非常に困難だからである。


 とはいえ既に夜は遅い。

 今日はとりあえず一つだけ用意したムーブコアを海上まで移動し、そこで宿泊することにしたのだ。



「この大きさなら、エネルギーの使用よりも回復の方が大きいらしいのよね。だから今の初級ダンジョンコアの開放段階でも、ずっと飛んで移動し続けられるのよ」



 ムーブコアを大きくすると、回復よりも移動時の消費エネルギーの方が大きくなり、簡単に移動し続けるなどという事はできなくなる。小山ダンジョンで都市が移動し続けられているのは、そこまで初級ダンジョンコアの開放段階を上げることができたからである。

 この開放段階ではほかにもダンジョン内へのシステムメッセージ送信機能や追加施設など色々なことが開放されている。少なくともムーブコアへの常時結界は維持できるので、防衛軍に守ってもらう必要は無くなるのである。



 既に海上に出ているムーブコアは、上面の壁の内側からも、内部のムーブコア制御空間からも水が引いている。これは空調機関のようなものがあり、内側と外側の空間を制御できるためだ。

 さらにエネルギーを消費すれば、海底に居ようと空気のある地上空間と同様の内部空間にすることもできる。当然逆に海上に居ようとも、海底と同じ住環境を用意することも。

 今回はどうせ海上に出るという事で自然と水が無くなる様子を体験した次第である。





「さて、ユウキ君にとってはやっとと言う所よね」



 ムーブコア施設内で温泉旅館の宝玉を使用し、既に食事も終えた一行は長らく我慢していたユウキの魔道具作製チャレンジを見守るために集まっている。

 クラスを取得したユウキは魔道具作製のスキルが+1されているのでやっと【神器】を使って魔法のスクロールを作製出来るのだ。



「ですね。必要な材料はタマキの錬金術で前から用意してもらっていたんですけど」



 <解析>により、魔法のスクロールを作製する際に必要な材料はわかっている。魔紙に魔水、魔法金属にEP供給用のエネルギーキューブ、そして本人の魔力と<魔道具作製>のスキルである。


 とはいえこれはあくまで既存の魔法スクロールを<解析>した結果であり、これからユウキが作りたい魔法スクロールは魔物が使っていた魔法を覚えるための物である。何かが違う可能性は否定できない。

 また、既存の魔法スクロールでも、解析した際に必要となるEPの量は違っていた。つまり魔法によって必要となるエネルギーが異なるという事だ。これが実際どれくらい必要になるのかはやってみないと分からないのである。



「先ずは雷を纏う方からかな」



 ユウキは【神器】を操作し、魔法陣の内容を組み替える。習得したい魔法の外側に、魔法のスクロール特有の内側の魔法を習得する魔法陣を組み合わせる。内容を解析しても、魔物独自の要素は無く、特に素質による制限も見つからない。

 この時点で作成に必要なEPは約20万。簡単な魔法を解析した結果よりは多いが、転移魔法を解析した結果よりははるかに少ない。

 試しに1回限りの使用という制限部分を除いてみると、必要なEPが一気に100倍に膨れ上がった。これで100回使える分のチャージがされているというのであれば意味はあるが、1回使用ごとにこれだけチャージしなければならないのであれば材料費よりも遥かに高くついてしまう。


 とにかく今は自分達だけがつかえればいいので、先ずは1回使用制限付の魔法スクロールとして6個作製する。

 タマキの【神器】と同じく、複数同時生産は可能なようだ。ユウキの魔法力でも実行可能らしく、出来上がり予定時間が30分後と表示された。



「30分で出来上がるようです」



 魔法スクロール作製をセットし終えたユウキは、周りで見守っていた皆に結果を報告する。



「ユウキの【神器】もやはりタマキと同様か。クラスミッション報酬の生産道具でどこまでできるようになるのかが期待だな」



 見守っていたアヤは、下級錬金術士の錬金釜の性能が気になるのだ。

 とはいえそれはすぐにわかる事ではないのだけれど。



「アヤ、そこはゆっくり待ちましょ。

 いくらそれが分かったって、私達が訓練施設『初級コース』をクリアしないと意味が無いのよ。ユウキ君の環境変更案も面白そうだけど、他にできることが無いか考えて見ることも重要よ」



 ユウキたちにとっては、クラスミッションの突破は時間の問題だけである。壁があるわけではなく、時間さえかければ問題なく突破できる内容だと思えるのだ。

 しかしアヤの側は違う。訓練施設『初級コース』をユウキ抜きで突破することは、人類にとっての課題レベルなのだ。いつかおもちゃが手に入る可能性を先に知ったところで、手に入らなければ意味が無いのである。





 そして30分後、出来上がった魔法のスクロールには雷衣ライイという魔法の名前が付いていた。



「雷衣という名前の魔法です」



 出来上がったスクロールをそれぞれに手渡すユウキ。早速使ってみると、すぐに魔法を習得することができた。

 しかし実際に使用してみると……。



「雷は纏えるんですが、動くとすぐに消えてしまいますね」



 これはユウキだけの現象ではなく、タマキもサクラも同じように消えてしまう。


 魔法自体が問題なわけではない。実際に魔法は発動しているし、スミレとアヤはユウキたちよりは長く動けている。どちらにしても消えてしまうのだが。


 しかし問題はキョウイチロウだ。まるでサンダーベアのように雷を纏いながら縦横無尽に動き回っている。

 つまり魔法自体は正しいのだ。何故かうまく扱えないだけで。



「キョウイチロウさん、どうやっているんです?」



 ユウキは上手くいっているキョウイチロウにアドバイスを求めてみるも……。



「気合いだ!」



 肉体言語派の格闘家、キョウイチロウにとって自分が行っていることを説明するのは難しかった。



「あんた、気合って……」



 スミレもあきれ顔である。とはいえそれでもユウキたちよりは維持できているのである。何か違いはあるはずなのだ。



「ムン! とやって、ハッ! とやって、ガッ! だ」



 やはり意味が分からないキョウイチロウの言葉である。



「ムン! とやってって言ったってねぇ……あら?」



 スミレがキョウイチロウの言うようにムン! とやると、雷の量が膨れ上がる。



「何か効果はあるようね」



 ユウキたちも同じように気合を入れる。あちらこちらでムン! とかハッ! とかガッ! とか聞こえているが、その瞬間は確かに雷が増えているもののそれを維持できているわけではない。



「オーラだ」


「また違う何かが出て来たし」



 キョウイチロウの言葉に反応するスミレ。もちろん意味は分からない。



「体の中から噴き出す力を操作するのだ」



 しかし自分の言葉が微妙に通じていると感じたキョウイチロウは、何となくの感覚で再び発言する。



「それって格闘家がよく言う気のようなものよね。結局は魔力なんじゃないかっていう」



 スミレは過去に、本物の魔法使いという研究論文を見たことがある。地球にダンジョンができる前から居たとされる魔法使い。魔法のスクロールが無い時代から魔法を使い、地球で魔力が濃くなった際には、地球が魔力領域に突入したと警告したという。

 そしてこのような分かりやすい魔法使い以外にも、おかしな肉体強度もつ者達。格闘家の一部は、実は本物の魔法使いだったのではないかというのが論文の結論となっていたのだ。



「あ……確かに魔力との適合性は高いみたいですね」



 ユウキは試しに<魔化>の完全エネルギー状態で雷衣を使ってみたところ、消える気配が無かった。そして標準状態に移行しても、普通に動く事が出来ている。

 完全な魔力エネルギー状態ではなくても十分に維持が可能な状況となっていたので、適合性は高そうだという説明をしたのだ。



「確かにそのようね。<魔化>の標準状態でも移動が速いわ」


「ですね。つまりこれって、肉体状態で魔力操作が必要って事ですかね」



 タマキやサクラもユウキ同様に試すと、あっさりと維持が可能となった。とはいえこれを完全肉体状態のままで維持することはできていない。

 元々<魔化>の標準状態は、肉体と魔力が混じり合った液体状態のようなものなのだ。今でこそ慣れた3人はそれなりに操作できているのだが、当初はうまく体を操作しつづけること自体が難しかった。

 この魔力操作の維持という状況自体が雷衣攻略のカギなのではないかとサクラは考えたのである。



「あなたたちズルいわよ、それ……。

 こっちは意地でも頑張るんだから」



 一足飛びでよく分からない使い方をしてしまったユウキたち。

 そんな3人に対してちょっと拗ねてしまったスミレなのであった……。

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