第65話 海底の訓練施設
前回のあらすじ:
海底ダンジョン内の海上の島へと到着。
施設もゲートもなかったのでスミレが拠点づくりの話を伝える。
移動が始まらない小山ダンジョン内では、予定外のデモが起きている。
『訓練用ゲートの中も、やっぱり水の中なんだね』
『ここまで来るのが水の中なんだから、当然と言えば当然よね』
『でも普通、ここまで人間が来るというのは難しいですよね』
島で拠点づくりの話を聞いたユウキたち3人は、予定通り訓練施設の訓練用ゲートの中へと進んでいる。
今回の目的は、地上の訓練施設と海底の訓練施設の差を確認することにある。
『最初の魔物がベビータートルという点は同じだね』
今は念のためにタマキが耐水ポーションと水中呼吸の魔法を使用して魔物の強さを確認している。そのため動くタマキとの会話もスムーズにできるよう、PT会話でやり取りしているのだ。
『足の部分の形が違うわ。あっちはたぶん陸の亀で、こっちは海の亀だと思うわ』
タマキの発言でユウキも手足を確認すると、確かにこのカメは歩くのに向いている手足をしていない。
『ほんとだ。つまり出てくる魔物は地上用と海用で変化があるという事かな』
『たぶんね。そもそも地上に適した魔物を海の中で活動させたら能力が低下すると思うわよ。人間だって、海の中より地上の方が動きやすいんだし。どうしたって違いは出ると思うわ』
『でもそれだと、難易度的に人間には不利ですよね』
この状況にサクラは疑問を投げかける。魔物も地上仕様であれば同じ海の中での難易度となるが、魔物だけが海の中仕様となると人間側だけにデメリットが出てしまう。
『人間用じゃないとか?』
『準備室の武器防具は相変わらず木の剣や革の装備などよ。
なんでこの木の剣が浮き上がらないのかも不思議だけど。手を放しても沈むのよね』
『海底ダンジョンを利用する海底人が居るとかですかね』
そんな事を言いながら次々と魔物を倒していくタマキ。
そもそも転移で好きに動けるタマキにとって、水の中だからと言って移動すること自体はたいした労力ではない。踏ん張りがきかない分だけ武器を操るのに苦戦するが、そこは突きを混ぜるなりして対処している状況である。
『次は……何かの魚ね』
『そうだね。俺は魚の種類なんてわからないよ』
『私も分かりません』
『そうよね。魚は魚よね』
3人にとって魚は海や川に居る美味しい食べ物だ。情報としての魚は確かに知っているが、細かい差でどんな種類かなどは分からない。
『全長40cmというところかしら。
倒して鑑定すればわかるかしらね』
まだ2階層という事で大した強さではない。特に問題もなくタマキがあっさりと倒していく。
『ダンジョンシロギスだって。
多分シロギスっていう魚がいて、ダンジョン産だからそれよりも大きいんじゃないかな』
『聞いても分からないわね。
魚は料理に出てきたのを食べるくらいしか』
『確か天ぷら料理の名前として見た気がします』
『ギルドの食堂で?』
『はい。魚系はいつもあるわけではなく、数量限定での臨時提供が普通なので』
『見かけないなとは思ったけど、やっぱりマジクでも魚は少ないんだ』
『マジクだとボア肉かオーク肉が主流になりますね』
『カドマツで食べた魚は美味しかったわよね。あそこは多分近くに海か川か湖か何かがあるんでしょうね。もしくは流通で何かしているのか』
『この魚たちも、スミレさんのところに戻ったら料理できるといいね』
和気あいあいと進むユウキたち一行。
完全に魚を獲りに来た気分である。
その後はダンジョンサケにダンジョンカツオにダンジョンクロマグロ。
いずれもダンジョン産の魔物であり、大きさは本物の魚よりも大きく、ダンジョンクロマグロは地上の訓練施設に当てはめるとオークが居た位置である。
『見事に魚系ばかり来たね』
『やっぱり海の中で動くとするとそういう形になるのかしら』
『次は確かスライムが居た位置ですよね』
海の中ではどういう魔物に変わるのか。
その結果は……ダンジョンクラゲであった。
『確かに剣があまり通じ無さそうだね』
『そうね。とはいえ水中での魔法となると制限があるわよね』
『土系で試しましょうか』
魔法であれば<魔化>の完全エネルギー状態からでも使用できる。
サクラが使用したアースブリッドにより、あっさりとクラゲは倒すことが出来たのである。この程度の魔法であればタマキでも十分に使用できるのであるが、水中呼吸の魔法を維持するために魔法力を使用しているため、今回は暇なサクラが対処した。
『魔鉄ゴーレムの代わりは、貝なのね』
『硬そうだね』
『火とか雷系の魔法なら通じそうな気がしますけど、水の中なので難しいですね』
『地上でなら魔鉄ゴーレムよりも楽そうだけど、水の中に限ると厄介ね』
全長3mを越える大きな貝。当然の様にタマキの木刀ではダメージが通らない。
『隙間からこじ開けないと無理そうだけど、やるとなんか攻撃してきそうよね』
『どうする?
そろそろ魔石回収に切り替える?』
『そうね。お願い。
別に今倒すことにこだわる必要はないわね』
タマキの返事を聞いたユウキは、次々と魔石を回収する。当然同じ種類の魚介なので素材自体の回収も簡単だ。
貝の次、地上ではワーウルフというスピードタイプの魔物が配置されていた階層に居た魔物は、ダンジョンカジキマグロであった。
『やっぱり速いんだね。それぞれ配置される系統とかが決まっているのかな』
『転移を使えば避けられるけど、水の中でこれとは戦いたくないわね。ダンジョンカツオとかダンジョンクロマグロも速かったけど、ダンジョンカジキマグロに突き刺されるのは脅威ね』
ワーウルフとは戦ってみたタマキでも、水中でダンジョンカジキマグロと戦いたくはない。ユウキに魔石回収を指示し、タマキも<魔化>でエネルギー状態へと変化するのであった。
その後も巨大なエビやカニ、イカ、タコ、サメ、シャチ等々海の生物タイプのダンジョン産魔物が続いていく中、黒ゲート最後の魔物、地上ではワイバーンが配置されていた初級コースのボス的存在は、シーサーペントであった……。
『結局水の中特化の魔物ばかりだったね』
どんな魔物だろうがユウキにとっては関係ない。
ただ魔石を回収するだけのことである。
『環境によって魔物が変わるという事が分かったし、もしかしたら浅瀬とかにあるダンジョンの場合はさらに違うかもしれないわね』
『氷に覆われたダンジョンとか、マグマの中に有るダンジョンとかがあればそういう違いもあるかもしれませんね』
全てたらればの話である。
『ダンジョン内はともかく訓練用ゲートの中身位の大きさなら、環境って変えられないのかな』
『どういう事?』
『水を空気に変えて地上のようにしてみるとか。
マグマを呼び出すとか、水を氷に変えるとかでもいいけど。
ゲートから水が入ってこないように壁とかを作ったりする必要もあるかな』
『水を作り出す魔道具はあるけど、水を吸収する魔道具とか空気を作り出す魔道具は聞かないわね』
『私も聞いたことがありません。スミレさんなら知っているかもしれませんけど』
『まぁ、一つのアイデアとしてスミレさんに伝えてみようか』
『そうね。今の私達ではまだまだ知らないことが多いし。
それに訓練施設の攻略法を考えている人は他にもいるでしょ』
『ユウキさんは水をそのまま回収する事ってできないんですか?』
『やってみたんだけどね。出来るけど意味がなかった』
そう言いながらユウキは目の前の一部を範囲指定し、海水をそのまま収納する。
すると周囲に水の流れが発生し、体が回収した地点の方へと吸い寄せられる。
『今目の前にある海水を回収したんだけど、代わりに空気が出るわけではないみたいなんだよね。だから俺が海水を回収しても、今環境の変化を試すのは難しいかな』
『それって空気も回収出来るのかしら』
『試したことないけど出来るかも?
ただ、入れ替えるとなると水圧と空気圧の差とかどうなるんだろう』
『とりあえずいっぱい持ってきて入れ替え実験をしてみるのはいいんじゃない?
効果があるならそういう道具の開発が進む可能性もあるし』
『ここに空気を回収できる場所はないし、後はゲートから出るだけだから一度クリアして海上まで移動しようか』
『そうね。訓練用のゲートは今使用したゲート以外も並んでいるし、空気を回収してから試しに入って見ましょ』
そうして海底ダンジョンの訓練施設『初級コース』をクリアした3人は海上でユウキが空気を回収できることを確認し、再び訓練施設へと足を運ぶ。
しかし……。
『入れないですね』
『そうね』
『1週間に1回しか入れないって、同じゲート限定じゃなかったんだ』
『そういえば訓練施設の使用が1週間に1回と言っていた気がします』
『勘違いしたわね。でも小山ダンジョンで訓練施設を使用してからまだ1週間は経っていないはずなんだけど』
『別のダンジョンでなら1週間という制限は関係ないという事かな』
『その可能性が高いですね』
『どっちにしても今は無理なら戻りましょ。
すでに外は夜になってたし。実験はまた今度ね』
『そうだね』
『分かりました』
今急いで確認しなければならない訳ではない。
タマキはユウキとサクラの同意がとれたところで、スミレの元へと転移を発動した。




