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第64話 海底ダンジョン2

前回のあらすじ:

海底ダンジョンに入り、海上まで移動した。

遠くに見える島へと向かって移動をはじめた。

「島には施設もゲートもないですね」



 島へとたどり着いた6人は、先ずは拠点にできる場所の確保を検討した。

 第一候補は、陸上の施設であり、その次がゲートとなる。ボス部屋の奥にある魔物が出現しない部屋は、気軽に利用できる拠点としては優秀なのである。

 しかし残念なことに、発見した島には施設もゲートも存在しなかった。



「丁度いいかもしれないわね。

 こういう時の拠点の作り方の話をしましょうか」



 そうしてスミレによるダンジョン内での拠点作り講習が始まった。



「先ずはシーカーが短期間使用する予定の拠点として一番優先することは何か。

 前提として所有している物に影響を受けてしまうけど、水の魔道具や通常の宿泊設備は持っているものとするわ。これが無かったら水を確保できる場所を探したりしないといけないからね」



 現在のようなダンジョン内での快適な生活には、魔道具は欠かせない存在である。

 特に水を発生させる魔道具がない場合、水源を探して水を容器に入れて収納する必要がある。とはいえ現在の人が住んでいるダンジョン内の各都市には共用の水の魔道具も設置されており、魔石を使用するだけで誰でも簡単に水を手に入れることができる。個別に水の魔道具を持ち歩かなくても、水を収納して持つだけで短期間の探索であれば十分に可能となっている。当然お金を払って買うこともできるので、魔石でなければいけない訳でもない。

 しかし長期の探索へと出かける場合においては、収納容量の問題を考えても魔道具自体を所持しているのが望ましい状況となる。



「この場合は、魔物から身を守る安全という点が一番大切な事ね。

 長期間の拠点となると、魔物を倒して素材を入手する容易さや手に入る素材の種類、資源の入手の容易さ等の方を重視する事もあるわ。ここまで来ると都市の建設構想になるけどね。

 でも今はそれは置いておくわよ。

 魔物から身を守る拠点として一番注意しなければいけないこと、それは拠点の中にいつの間にか魔物が居るという状況。つまりは拠点の中に魔物が出現してしまうという事ね。

 寝ている最中とか、突然目の前に魔物が出現するようだとゆっくり休めないでしょ。見張りが警戒する範囲の外側に魔物は出現してもらわないと困るの」


「魔物が出現する範囲を決められるんですか?」


「そう。そこが今回のポイントね。

 ユウキ君に限らずタマキちゃんもサクラちゃんも、中学校での訓練では、宿泊設備を使用するのは施設かゲートの中に有る安全な部屋でしか試してないわよね?」


「ええ」


「そうです」


「だから根本的な事をまだ知らないと思うのよ。

 そもそも宿泊設備を展開するだけで、宿泊設備内に魔物は出現しないの。

 魔物は地面を基準に出現するみたいなのよね。そこに宿泊設備という邪魔な物があるだけで、その地点には出現しなくなる。正確にはそこから近い出現可能な場所で出現するという事ね。だから宿泊設備のすぐ外側に出現してしまうんだけど」


「それだと、宿泊設備は攻撃されないんですか?」


「攻撃されるわ。だから少し工夫をするの。

 地面の上に邪魔な物があると出現できないのであれば、宿泊設備よりも広い範囲に邪魔な物を置けば良いという事ね。これは既にいろいろ調べて確定している事だけど、薄いシートを引くだけでも出現しないことが分かっているわ」



 スミレは説明をしながら薄手のシートを取り出す。



「こういうシートを宿泊設備の周辺に敷いておくだけで、少なくともその地点では出現しなくなるの」


「でもそれって、すごい枚数が必要になりますよね」


「そうね。だからあくまでこれは一つの方法。狭い場所で宿泊設備を展開した後の隙間を埋める時とかに使うような話ね。

 今はわざわざこういうものを使わなくても、地形自体を変えてしまう事の方が多いわ。

 こういう急な斜面でやるのが楽ね」



 そう言うとスミレは斜面に向かって攻撃態勢をとり、あっさりと地面を破壊してしまう。



「例えばこうやって崩れたところや瓦礫がある部分も、邪魔物があるという状態になるわ。崩れた部分は元々の地面ではないから、そっちも出現しないの。だから洞穴を自分たちで掘れば、そこも安全地帯よ。ただ、ダンジョン内の資源は1、2週間で復活してしまうから、洞窟自体もその時にふさがってしまうわ。その間の短い期間しか使えないのよね」



「自然の洞窟はどうなんですか?」


「そっちは魔物が出現するわよ。だからそういう地形を使うなら、行き止まりとかに宿泊設備を展開して、隙間はさっきのシートとかを敷いて魔物が出現する位置をコントロールするの。

 そして……」



 スミレは建築スキルを使用し、周囲に壁を作り出す。



「こうやってさっき崩した土や石などの資材を使って壁を作るの。

 それで壁の内側に魔物が出現しないようにすれば、壁の外側を見張るだけでいいでしょ。壁が壊される間の時間を稼げれば十分だし。もっと資材を使って足元も整地してしまえば魔物が出現しない範囲は広くなるわ。そうやって宿泊設備と魔物が出現する位置を遠くすることで、いきなり宿泊設備が攻撃される状況を減らすのよ。対魔物用の結界も使うけど、結界を攻撃される前に対処できた方がいいからね」


「これ、崩した斜面の上から魔物は飛び降りてこないんですか?」



 ユウキの目の前には、スミレが破壊した土地がある。

 元々急斜面ではあったが、それでもその上から飛び降りることが出来ない訳ではない。



「飛び降りてくるわよ。

 だから実施はここからさらに建築スキルを使用して簡易的な建物のような箱を作ったりして、その中に宿泊設備を展開するのよ。こういう場所に拠点を作るのは時間がかかるのよね。

 こういう事を専門とする建築スキル持ちが居ればそこそこ早く対処はしてくれるんだけど、それでも先に整地用や建築用の資材を確保しておく必要はあるのよね」


「なんかすごく面倒ですね」


「そうなのよ。だから基本的に施設やゲートを探すの。

 ここは海底ダンジョンだし、海上の島に施設やゲートがあるかどうかわからないのよね。

 貴方たちの温泉旅館の宝玉は特殊な結界で異空間になるタイプのようだからこういう準備の必要がないけど、他の人がもし同じことをするならこういう準備が必要となるわ。

 だから気軽にどこでも宿泊できるというのが当たり前だとは思わないでね」


「分かりました」



 実際に施設やゲート以外での場所で宿泊をするためには、そのためだけにかなりの時間を必要とするのである。

 都市間を移動する長距離バスは、施設やゲートの位置を考えながらルートを決めている。それでもできる限り宿泊は都市で行うのが基本だ。そのためにも都市を経由しながら移動する必要があり、目的地までの直線距離とは違ってかなり大回りすることになるのである。



「さて、こっちは念のためここで拠点づくりを進めるから貴方たちは今のうちに訓練施設の中身を調べてきてくれないかしら。小山ダンジョンの時と同じく『初級コース』でね。

 拠点を作っても結局貴方たちと一緒に温泉旅館の宝玉で休ませてもらう事になるとは思うけど。まぁ、私達も久々の訓練のようなものね」


「分かりました」



 こうしてユウキたち3人はスミレたちと別れ、3人で海底ダンジョンの訓練施設を調査しに行くのであった。






 *****



 ユウキやスミレたちが海底ダンジョンを探索している頃、住民の移動が始まらない小山ダンジョン内の都市の一室では小山ダンジョンに残る者達の一部が会合を開いていた。



「デモ隊への反応はどうだ?」


「今のところ捕縛は受けていません。住民へは確実に声が届いていると思われます」



 小山ダンジョンの内の都市では、現在小規模なデモ活動が行われている。とはいえ何か暴力的な行為が行われているという訳ではない。あくまで声を上げて主張をする集団が、小山ダンジョンの出入り口に集まっている都市の中をそれぞれ移動しているというだけのことである。

 集まった都市の周囲には防衛軍が配置されており、都市間の短い距離の移動であれば特に危険な様子は見られない。一時的に周囲の地形に変更を加え、魔物が出現しないようにしているからである。常に維持し続けるのは労力的に難しいが、住民が東京ダンジョンに向けて移動する間だけという程度であれば問題のないのが現状である。



「ふむ。故郷を捨てるという実感が芽吹くかどうかがカギか」


「他にも新たなダンジョンでの生活への不安、移動にわざわざ護衛が必要だという危険性、これまで世話になった恩等も表面化させれば意味があるのではないでしょうか」



 代表の男が方向性を考えるのに合わせて周りの男達が意見を伝える。この場に居るのは集まっている各都市の有力者たちであり、残る住人たちの中でも上に立つ者達だ。今でこそ平等の名のもとに組織内での立場の違いで上に立っているだけだが、ダンジョンが独立した後は1級市民という立場でも上に立つことになる。そして今ダンジョンを移動する者達の多くは、自分達の下につくはずの者たちなのだ。

 移動する者達の中には自分達の組織内の被雇用者達も存在する。独立の話を知った当初であれば都市に残すよう小山野家へ要求する予定であったが、小山野家が戦争で負けたことによりダンジョン出入り口まで来た上で個々で判断することになってしまった。そのうえ1級市民として扱うとした者の中にも移動を予定しているものが居るのである。残る者にとっては、ここで流れを変えたいのだ。

 当然上にたつ者達の全てがこのような事を考えているわけではない。しかしそのような自分達にとって都合が悪い者達には、このような会合への参加の誘いはかからないのである。


 そしてこの者達のような思想は、特に上の立場ではない普通の1級市民予定者にも既に表れ始めていた。

 このままダンジョンに残った場合、自分が1級市民となるか2級市民となるかは発表されている。1級市民となる者達の一部では、すでに2級市民は自分たちのものという思想が芽生えはじめているのだ。ダンジョンから出さなければそうなるはずの未来として。

 そして防衛軍は、自分達のものを連れ去ろうとしている。


 甘い汁が約束された者たちの思想は、だんだんと濁っていくのであった……。

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