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第63話 海底ダンジョン1

前回のあらすじ:

温泉でタマキとサクラが暴走した。

「おはよう、ユウキ。んっ」



 目を覚ましたユウキに口づけをするタマキ。

 ユウキは朝からの幸せな光景に、まだ夢の中にいるのではないかという思いが頭をよぎる。



「おはよう、タマキ。んっ」



 とはいえ幸せを逃したいと思うようなユウキではない。

 少し眠たげなまどろみの中、タマキをそっと抱き寄せる。



「体調はどう?

 体は平気?」



 心配そうに聞いてくるタマキの様子に、意味が分からないユウキ。



「体調?

 特に問題ないけど」


「そう、良かったわ。

 昨日はちょっとやりすぎちゃったかなって思って」



 そういって微笑むもタマキは内心、もの凄くは焦っていた。

 消費アイテムとはいえリザレクションの代わりとなる物が見つかり、しかも現状ではそこそこ簡単に手に入る状態だと分かったのだ。舞い上がったタマキはサクラと二人で意気投合し、昨夜は完全に暴走していたのである。

 そして朝起きて冷静になったとたんに気が付いてしまったのだ。

 腕でさえ、砕けた後魔法で治しても心理的に動かないことがある。当時も自分はそれを心配したはずなのだ。もしユウキの大事な部分が動かなくなってしまっていたら……。

 女神の微笑で治るのかどうかすら分からない。そこに気が付いてしまい、内心焦っていたのである。


 しかし……。



「でも、まだまだ元気そうね」



 もちろんユウキのどこかを見ての発言である。



「いや、これは朝だからだって。というかそういう格好で抱きついてきて反応しない訳ないでしょ」


「ふふふ。勿論反応してくれなきゃ拗ねるわよ。

 とはいえこれ以上は止まらなくなっちゃうから、もっとユウキの身体能力を上げてからね」



 こうして2人は、ユウキの身体能力強化についての優先順位を上げていくのであった。





『海底ダンジョンって、やっぱり暗いんですね』



 明かりの魔道具で周囲の視界を確保したユウキはPT会話で発言する。太陽は既に真上の位置辺りにきているのだが、水深2000メートルの海底においては意味がない。PT会話での発言になっているのは、ユウキは<魔化>の完全エネルギー状態となっているために声を出してもタマキとサクラにしか通じず、スミレたちとの意思の疎通ができないためである。

 そして太陽が既に真上迄きているのは、単に出発するのに時間がかかったというだけである。



 ユウキたちは起床後に、クリーンの魔法で体と寝具をきれいにした後温泉でさらにさっぱりした。そして3人がスミレたちの反応がある食堂へと到着した時に見たその光景は、あきらかに酒盛りの途中で寝たと思われる状況だった。

 その後片付けやらなにやらをやった結果、結局昼食後に海底ダンジョンへとやってきたのである。



「ユウキ君。海底ダンジョンは、私達も初めてよ。

 でもダンジョン内の環境はダンジョンがある位置の影響を受けていると言われているわ。とはいえ地形的な効果は入り口のみよ。

 地上のダンジョンだって海エリアもあれば、雪山や火山のエリアもあるわ。

 このダンジョンも、全てが海中にあるかどうかは分からないわよ」


『そうなんですね。

 上の方に水の切れ目は確認できてます。

 海上になるのか、そこが空と同じ上限になるのかは分からないですけど土の天井などではないですね』


「それは朗報ね。上限かもしれないとはいえ、海底ダンジョンも地上と同じ開放タイプという事よ。でもまずは予定通り訓練施設の様子を確認しましょ。

 地図の反応はどう?」


『この間のダンジョンと同じで、訓練施設と初級ダンジョンコア施設の他に塔が1個、ゲートが3個表示されてます』


「初級ダンジョンというくくりで海底でも地上でも同じなのね」



 地図上の表示を確認した一行は、訓練施設を目指して移動を開始した。





「全てが海の中という以外は、地上の訓練施設と変わりがないわね」



 訓練施設へと到着し、一通り状況を確認してからスミレはそう結論付けた。海底にあるという事で特別な特徴があるかという思いがあったのだが、予想外に地上の施設そのままなのである。

 休憩に使えそうな部屋も水中のまま、訓練用のゲートがある場所も小規模戦や大規模戦が行えるフィールドも全て水中のままである。

 そして6人PTを組んでいる間は訓練用のゲートを使用できない状況も同じであった。



『訓練用ゲートの中も確かめますか?』


「そうねぇ。それは後にしましょ。

 海底にあった魔物の塔の時もそうだけど、海底でPTが分割されてしまうのは面倒なことになるわ。貴方たちの声は私達に届かないし、私達からは貴方たちが見えない。タマキちゃんにも耐水ポーションを使ってもらって中継してもらわないといけなくなるから」



 海底での魔物の塔探索の際に、一番問題となったのはこの部分だ。そのため単に海底で戦闘をするだけであれば、ユウキたち3人だけでの行動の方が都合がいいのである。

 こうして次は初級ダンジョンコア施設を目指すために、一度海上へと転移するのであった。





「空気に問題はない。呼吸の魔法が切れても大丈夫だ」



 錬金術師のアヤが環境測定用のアイテムで海上の空気を確認し、その結果を受けてユウキたち3人は<魔化>を解除する。

 海底ダンジョン内の海上の空気が地球上の空気と同じかどうかが分からなかったため、念のため測定器を使用して確認をしたのだ。

 水中呼吸の魔法は名前とは裏腹に、水中だけで有効なわけではない。ガスなどで呼吸が困難な状況でも普通に呼吸が可能となる。そのためスミレたち3人が先に海上で準備をし、測定していたのである。


 海上への転移は、あらかじめ木片にタマキの転移の目印をつけておいたものをユウキが海上に出現させたのである。ここまでは海底ダンジョンに入る前にあらかじめ準備しておいたので、予想通りの展開である。

 そして……。



「島はあるわね。かなり距離はありそうだけど」



 ダンジョン内は、地球と違って星ではない。球体の表面ではなく、平面であると言われている。そのため、水平線がわずか数km先などという事もない。

 とはいえ地上のダンジョン内では山にさえぎられてその先が見えないか、遥か先に靄のような視界が通らない環境を目にするかになるのであるが。



「そうねぇ。タマキちゃん。

 あの島と初級ダンジョンコアの方角はどう?」



 飛行船を取り出して乗り込んだ6人は、クリーンの魔法で体をきれいにしつつ次の行動を検討する。



「方向的には似たようなものになってるわ。正確に一致しているわけではないけど、進路としては一度あの島で拠点を築いても問題ない範囲に見えるわね。

 島も地図に表示が出ていないから、大きさまでは分からないけど」



 そうして飛行船はまっすぐ島に向かって突き進む。



「空に魔物が見当たらないですね」



 下が海なので隠れる場所などない。見渡す限り、空を飛んでいる存在は自分達の他には見当たらない。



「海の中はどう?」



 ユウキの感想にスミレが反応する。



「海の中にはいますね。自動魔石回収だけにしていますが、そこそこ引っかかってます」



 今は高速飛行中なので、ユウキ自身の反応速度では取りこぼしが出る。そのため魔石のみに絞って自動回収を行っているのである。



「もしかしたら海から空に上がってくる魔物もいるのかもしれないけど、気が付かれていないのかユウキ君に魔石を回収されちゃっているのか。

 まぁ順調なことはいい事よ。色々と落ち着いて余裕が出来たら、海の魔物の素材集めも本格的にしたいわね」


「ダンジョン内にも海はあるんですよね?

 あまり素材って出回らないんですか?」


「小山ダンジョン内にも海はあるわよ。

 もちろん東京ダンジョン内にもね。ただ、海はちょっと厄介なのよ」



 そうしてスミレは海に関する厄介ごとを話し始めた……。


 かつて地球上の海で漁業を行うためには、漁業権というものが関係した。これは日本でも当然関係があることで、どこでもすき勝手に漁をしていいという訳ではない。

 しかしこれはあくまで地球上の話であり、ダンジョンの中で魔物を倒すことには関係が無い話であった。


 ところが地球上を放棄し、ダンジョンの中で生活をする事になった段階で、一部の者が異論を唱え始めた。既にこの時には、ダンジョンの中にも海が存在していることは確認されており、そこには魔物ではないダンジョン資源と同じ扱いの魚介が存在することも分かっていた。

 海の中では魚系の魔物も広範囲を自由に動き回るため、海岸付近で行う漁では3時間後に再び魔物が付近で復活するとは限らない。そして魔物ではない魚介の復活には1,2週間の時間がかかる。海の上での宿泊はさすがに危険があり、遠くまで漁にいけるものなどほとんどいない。

 そこで元々地球上で漁業権を持っていた者達が漁協を作り、沿岸区域における漁業権を申請したのだ。



「その後も色々あって、200年たった今では魚系の魔物を倒した素材は、海岸都市のギルドでは買い取れなくて漁協の方で買い取ることになっているの。魔石が中になければ普通の魚か魔物か分かりづらいのよね。

 そして漁協から権利を買っていないシーカーの場合だとだいぶ買いたたかれているらしくって。貴方たちのように転移が使える事はまずないから、他の都市にわざわざ売りに行くのも大変だし。漁業権とは関係がないと言えるくらい遠洋まで進出するのは難しいから、関係ないとも言いにくいの。

 普通のシーカーにとって、わざわざ海の魔物を倒して生計を立てるのは面倒なのよ。

 貴方たちであれば、好きな時に遠洋まで転移して魔物を倒し、戻りたいときにまた転移して戻るという方法が使えるんだけどね」



 魔物がいる海の世界は、なかなか過酷なのである。

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